カリグラフィーと染色!
私とマーガレット王女はまだマシな質素な昼食を食べた。そっか、木曜は学食で食べられるね。マーガレット王女には気の毒だけど、キース王子と別なのは嬉しいな。
「次は習字ね」
そう、カリグラフィーなんだよ。できるようになったら格好良いよね。
「頑張りましょう」
習字も人数が少なかった。皆簡単に単位が取れる科目に集中しているみたいだ。でも、その通りになるかは知らないよ。
「私が習字を教えるケイト・サザーランドです。美しい字を書けるのは生涯にわたって自分の宝物になると思うの。では、教科書の始めから書いていきましょう」
始めのページにはアルファベットが綺麗な飾り文字になっていた。
「はい、先ずは自分の名前を綺麗な飾り文字で書きましょう。飾り文字と飾り文字の続け方がわからない方は手をあげてね」
マーガレット王女は困惑している。王家の名前は長いのだ。
「省略して書かれては如何ですか?」
少し考えて首を横に振る。
「いえ、どうせなら正式な名前を綺麗に書く練習をするわ。結婚する時に汚い署名はしたくないもの。マーガレット・アイオリア・アガペー・ローレンス」
結婚、そうか卒業したら有り得るんだね。自分が職業婦人になるつもりだから、考えて無かったよ。
「ペイシェンス・グレンジャー」
一文字ずつ飾り文字を見ながら書く。なんか格好良い署名になったよ。
「ええ、上手く書けていますが、それを一気に書けるまで練習しなくてはいけませんよ」
教室を見回っているサザーランド先生に注意された。確かによく見ると、途切れ途切れになっている。一気にこれを書かないといけないのだ。
「はい」と返事をして、練習する。
「ペイシェンスは名前はもう良いですよ。次のページに移りなさい」
何人かは署名は合格して、次の挨拶の言葉に移った。
マーガレット王女の名前は長い。なので一気に書くのに時間が掛かっている。でもどうにか合格して、次のページになった。そこで授業は終わった。
「集中していたから、あっという間に終わったわ。でも、この署名をサラサラ書けるまで練習は続けるわ」
音楽にしか興味無かったマーガレット王女なのに、少し変わったかな? なんて思ったけど「さぁ、放課後は音楽クラブよ。あの『別れの曲』の練習したのを皆に聞かせたいわ」とはしゃいでる。
「マーガレット様、その前に魔法実技では? それも修了証書を貰いたいですよね」
マーガレット王女は風の魔法だ。かなり魔力も多いのだが、制御にムラがあるから合格が貰えない。
「ええ、合格して音楽に没頭したいわ。自由に音楽ができるのも学園内だけかもしれないもの」
音楽愛に浸れるのが学園限りと聞かされると、音楽クラブ活動ぐらい好きにしても良いかなと思うが、私がそれに振り回されるのは困ったものだ。
染色の教室は大きな釜が何個もあって、色々な色の糸が干してあった。
「あっ、織物で一緒だったペイシェンスね」
リリーが声を掛けてくれた。ソフィアと染色を取るの忘れていたハンナも何とかやりくりしたのかちゃんと染色も取ったようだ。
「一緒ですね。染色もした事無いからお願いしておきます」
「私もした事ないよ!」
また初心者4人組になりそうだ。
「あら、皆染色も取ってくれたのね。嬉しいわ。前からセットにして欲しいと言っていたのよ。来年からは履修要項に書いて貰うつもりよ」
織物と同じダービー先生だった。
「染色した事がある人は? 織物と同じね。では、した事が無い人は前の席に固まってね」
分かっていたから4人で前に座っていた。
「あら、準備良いわね。染色は準備が大切なのよ。後は経験ね。同じ染料でも温度や気温や湿度で色が変わるのよ。だから、これからはノートに材料の量、水の量、その日の気温、湿度や天気も書いておくようにしてね」
うん、前世のテレビで藍染作家の特集とかでも言っていたよ。藍は生き物だって。
「では今日は一番身近な草木染めをするわ。これは何でしょう?」
先生は玉ねぎの皮を手に持っていた。
「玉ねぎの皮ですよね」
リリーが答える。なんだか草木染めのイメージとは違うから、がっかりした雰囲気になる。
「そう、これで綺麗な黄色に染める事ができるのよ。茶色にもできるけど、今日は黄色に染まるようにしましょう」
大きな釜ではなく、各自が小さな鍋で染める事になった。
「この染めた糸で、次の織物を織るから自分の好みの黄色にしてね」
先生が指定する重さの玉ねぎの皮に言われた量の水を入れて煮る。
「はぁい、注目。皆集まって」
今度は私の番みたいだ。私の鍋の中では玉ねぎの皮がグラグラ煮たっていた。
「これの色を見ててね。真っ白な皿に少しだけ汁を取るの」
綺麗な黄色になっている。
「この色で良い?」
「良いです」と答えると、先生は糸の束を鍋の中に入れた。
「弱火で少し煮込んで、焼きミョウバンを入れて色を定着させるの。ここからは好みなの。浸ける時間が長いと色が深くなるわ。鮮やかに染めたいなら、早く出しても良いし。でも、淡いのは嫌なら少し待たないといけないの。それは皆が試行錯誤して覚えるしかないのよ」
私は深い黄色にしたいので、少し待つ事にする。時計は持っていないが、教室の壁に掛けてあるから、ノートに書き込む。
「そろそろ出したくなったら、火傷しないようにトングで取り出して水で洗うのよ」
リリーは取り出して洗っている。綺麗な黄色に染まっている。
「そろそろね」私も取り出して洗う。うん、リリーのより深い黄色だ。
「染めた糸はここに干してね。自分のがわかるように名前を書いて洗濯バサミで留めておくのよ」
うん、やっぱり染色は楽しい。庭に染め場を作りたいよ。
「ペイシェンスのは私のより深い色ね」
リリーや他の人と比べてわいわい騒ぐ。でも、経験者組はやはり違う。
「1度染めではなく2度染めにしたいのですが……」
明らかに私達とレベルが違う。ダービー先生は笑って「貴女達は織物も染色も飛び級しなさい」と言った。
「2年の染色と織物なら、退屈どころかついていくのも大変でしょうけど、遣り甲斐があるでしょう」
4人だけになるけど、良いのかな? 私達が顔を見ているとダービー先生は「大丈夫よ。飛び級はよくあるの。家でした事がある学生のほとんどは飛び級するのよ」と笑った。
織物と染色はのんびり基礎から身につけていこう。時々、生活魔法を使いそうだけどね。
「わっ、手が黄色に染まっているわ」
ハンナの声で全員が手を見て驚く。
「綺麗になれ!」私が全員の手を綺麗にした。
「まぁ、便利ね。ペイシェンスの生活魔法はジェファーソン先生も褒めていらしたけど、流石だわ」
黄色に染まった手で音楽クラブに行ったら、マーガレット王女に叱られそうだから綺麗にしたのは黙っておこう。