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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第二章 王立学園中等科春学期
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学園生活を楽しもう

 レンタルした馬は元気よく馬車を引き、すぐに学園に着いた。ペイシェンスも少し体力がついたから、歩いてでも来れそう。まぁ、それは冬休みの間の乗馬訓練のお陰かもしれない。ノースコート伯爵家では毎日させられたからね。

 メアリーは冬休みの間、持って帰った服を整理すると屋敷に帰った。マーガレット王女は夕食までに寮に来られるだろう。

 時間割が分かれば、履修する科目を決定できるのだけど……もう決まっているよね。職員室で貰えるかな?

 やはり職員室は苦手だ。でも、時間割表が無いと困る。普通の学生は1コースだけなのに私は2コース取る。つまり、ややこしいのだ。貰えたらラッキーな気持ちで、職員室へ入る。

「おや、ペイシェンスじゃないか」

 2年Aクラスの担任だったケプナー先生が声を掛けてくれた。やはり話し易いね。

「時間割表はできているのでしょうか?」

 ケプナー先生は少し考えて笑った。

「そうか、ペイシェンスは2コース取るのだな。それは大変だろうと言いたいが、必須科目はダンス以外は全部修了証書を貰っているのだから、大丈夫だろう。明日のホームルームで配る予定だが、一部あげよう」

 何枚かをまとめた時間割を貰った。ついでに質問しておく。

「私は家政の修了証書を頂いていますが、家政コースの必須の料理と裁縫を受けなくてはいけませんか? それと時間が有れば刺繍とか染色や織物も受けたいのですが、簡単に修了証書が出たら困るのです。いっぱい作品を作る事は可能ですか?」

 歴史のケプナー先生は家政コースに詳しくなかった。きょろきょろと職員室を見渡して生活魔法のジェファーソン先生を見つける。

「ジェファーソン先生、ペイシェンスの質問は私の手にあまります。先生は家政コースの先生達と仲が良かったですよね。教えてやって下さい」

 白髪の矍鑠たる貴婦人であるジェファーソン先生は優しそうな微笑みを浮かべて、横の椅子をぽんぽんと叩いて座るように促してくれた。

「ええ、ペイシェンス・グレンジャーに教えてあげる事があるのは嬉しいですわ」

 ケプナー先生は、後はジェファーソン先生に聞きなさいと席に戻った。

「ジェファーソン先生、厚かましいお願いですが、宜しくお願いします。家政の修了証書を頂いていますが、家政コースの必須科目の裁縫と料理を受けなくてはいけないのか知りたくて。そして時間が有れば刺繍や染色や織物も習いたいのですが、無意識に生活魔法を使う癖があって、すぐに終了証書が貰えると身につかないような気がして」

 ふふふと、ジェファーソン先生は上品に笑う。

「貴女は本当に生活魔法を極めているのね。家政の修了証書を貰っていても、家政コースの必須の裁縫と料理は受けなくてはいけないと思いますよ。裁縫は修了証書がすぐに出るでしょう。料理はねぇ、少し内容が変わりましたから、どうかしらね」

 なんだかシャーロット女官の話と違う。マーガレット王女の面倒を見るようにとビクトリア王妃様から言われているのだ。ここは打ち明けて、もっと詳しい情報を貰いたい。自分だけなら何とかなる自信があるけど、マーガレット王女の面倒を見るのは不安だ。

「私は料理も得意です。だから、内容が変わっていたとしても大丈夫だと思います。でも、私はマーガレット王女の側仕えなのです。そして王妃様から裁縫と料理を合格できるように助けろと命じられているのです。裁縫は根気が続けば大丈夫だと思いますが、料理は欠席しなければ良いだけだと思っていました。変わったのですか?」

 ジェファーソン先生は私がマーガレット王女の側仕えと聞いて、ふふふと笑った。

「本当にビクトリア王妃様は人を見る目が優れておられるわ。そうね、マーガレット王女様は料理の実習に苦労なされるでしょうね。貴女はすぐに修了証書が出そうだし、困ったわね。駄目ですよ、下手な振りをしても教師にはバレるわよ。でも、教師は学生に怪我などさせませんから大丈夫ですよ」

 マーガレット王女の事は本人に任せるしか無さそうだ。授業のストレスをぶつけられそうだけどね。クワバラ、クワバラ。

「それと、私は余裕があれは刺繍や染色や織物に挑戦したいのです。でも、無意識に生活魔法を使うと……作品をいっぱい作りたいと思うので、困っています」

 ジェファーソン先生は私の言葉の裏の意味まで汲み取った。

「グレンジャー子爵は免職されて長いですからね。王立学園は教材も無料で提供します。それは教材費を払えない生徒の為です。貴女がいくつ作品を作ろうと、そんな事で目くじらを立てる教師はいませんわ。でも、限度がありますからね。他の学生との兼ね合いもあるので修了証書が出るでしょう」

 内職を学園の材料でする計画は頓挫したよ。がっかり。

「織物や染色に興味があるなら手芸クラブに入ると良いわ。あそこなら無尽蔵に材料が手に入りますよ。卒業生が材料の寄付をばんばんしています。大概、染物や織物に興味を持つ学生は、それに関連した所に嫁に行きますからね。次代の嫁の為にも寄付はケチりません」

 良い情報をゲットできた。でも音楽クラブもあるし、錬金術にも興味がある。生活魔法と手芸クラブは相性抜群な気もする。

「ほほほ、学園生活をエンジョイしなさい。マーガレット王女様の側仕えは大変でしょうが、貴女の学園生活でもあるのですよ。今は分からないでしょうが、学園生活は人生のうちで自分の為に使える貴重な時間なのです。忘れないで下さいね」

 確かに、学園生活をもっと楽しむべきなんだよ。グレンジャー家も食糧事情も改善したし、弟達の乗馬や剣術訓練も見通しがついた。私は私の楽しみを見つけよう。それがお金になればもっと良い。

 ここら辺が根っからの貴族のペイシェンスと違う所だ。前世の価値観から抜け出せない。労働には対価が当然だと思ってしまう。手芸だってネットで売れる世界から来たんだもん。それにノースコート伯爵家から貰った小切手は、いつまでも続かない。ナシウスには大学に行かせたい。あそこは学費無料じゃないんだよ。奨学金とか無いかな? 

 あれほど嫌だった学園生活も弟達と別れる事以外は嫌じゃ無い。それに中等科は楽しそうだ。異世界の地理とか世界史とか経営とか学びたい物がいっぱいある。

 それに家政コースの刺繍とか染色とか織物にも興味があるんだよね。草木染めとか前世では凄く高価だった。やってみたいと思っていたんだ。そっちに進んでも良いかもしれないけど、嫁に行かなきゃ無理なのかな? 自分で工房とか持てたら良いな。染めて織る暮らし。スローライフじゃない。まぁ、これは弟達が自立できてからだな。

 錬金術が使えたら、それも楽しそうだ。特許が取れたら良いけど、そんなの前世でも難しかったよね。でも、あると便利な台所用品だけでも作れると良いな。冷蔵庫とか、温熱ヒーターも欲しい。これは能力が無いとできないみたいだから保留。でも、できたら、これこそ工房を庭の隅にでも建ててやりたいよ。家の屋敷、敷地は無駄に広いからね。裏庭は果樹園と畑と温室で活躍しているけど、表庭は薔薇だけだもの。隅っこぐらい使っても良いよね。

 なんて取らぬ狸の皮算用をして、折角手に入れた時間表を見て、履修を考える間もなく、マーガレット王女が寮に来られた。夜、考えよう!


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