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異世界に来たけど、生活魔法しか使えません  作者: 梨香
第一章 王立学園初等科
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教会で能力チェック

 毛布のお陰で、ペイシェンス式の寝方でも、夜中に目が覚めることなく眠れた。というか、この寝方をやめられないのかしら。どうも、思考もお上品になってきている。ペイシェンスに侵食されているのかしら。

「でも、何とかしなくてはね」

 まだ、グレンジャー家の生活改善をしようという熱意は残っててホッとする。これは、異世界転生? 憑依にしても、かなり変なんじゃないかな?

 いつもの如く、薄いスープとパンを食べて、部屋でメアリーを待つ。だってメアリーにとっては大事なメイドとしての仕事みたいだもん。下女の仕事ばかりじゃ、嫌になるよね。

「お嬢様、お待たせいたしました」

 青いドレスを持ってメアリーがやってきた。サイズをなおしたんだね。

 「お似合いですわ」と褒めてくれるが、ドレスに着られている感がする。肩とか詰めてくれたけど、全体に大きい。

「髪も、このドレスの共布で飾りましょう」

 いそいそと青い布で作ったリボンを鏡台に置くと、丁寧に髪をとかす。子どもなので髪は結わない。昨晩の私がしたハーフアップに近いけど、上げる髪の一部を編み上げたり、なかなかメアリーの腕は良い。

「ユリアンヌ様にもお見せしたかったですわ……」

 青いリボンを髪に飾り、メアリーは満足そうに涙ぐむ。どうやら、メアリーは母親が嫁ぐ前からメイドとして仕えていたようだ。でも、そんなに褒める程でもない。ペイシェンスの素材は悪くないのだけど、ガリガリ過ぎなの。

「さぁ、子爵様をお待たせしてはいけませんわ」

 ぱつんぱつんのコートを着る。メアリー的には折角のドレスが台無しで腹立たしいようだけど、やっと暖かくなってホッとする。

『そう言えば、玄関から出た事なかったなぁ』

 ペイシェンスになって初外出だ。貧乏とは思えない立派な玄関扉をワイヤットが開けてくれる。数段降りると、そこには馬車が! こんなに貧乏なのに馬車があるの?

 父親が王宮に勤めていた頃は、毎日、馬車で出かけていた記憶が蘇る。馬車にはグレンジャー家の家紋・ペンと本が付いていた。グレンジャー家らしい家紋だよね。

「さぁ、ペイシェンス乗りなさい」

 父親にエスコートされて、初馬車だ。本当に父親って礼儀正しくて、そこは高評価だけど、これで生活力があればねぇと溜息を押し殺す。侍女としてメアリーも一緒に馬車に乗る。令嬢は侍女を伴うものらしい。

 使用人が少ないグレンジャー家では、馬車を操る馬丁などいない。下男のジョージがいつもと違い、馬丁の制服を着て馬車を走らせる。

 王都ロマノに住んでいるのはペイシェンスの記憶で知っていた。街並みは、どうやら貴族街みたいで大きなお屋敷が並んでいる。

 グレンジャー家の屋敷を売って、もっと庶民的な街に小さな家を買えば、もう少しマシな暮らしができるのでは無いか? と思うけど、屋敷を売るとか娘が口出せる事では無さそうだ。私でできる事で生活改善しなくてはいけない。この辺、もうペイシェンスの『駄目!』攻撃がなくても分かってきた。

 教会は荘厳な灰色の建物で、外は細かい彫刻がびっしり付いていた。昨日『エステナ教について』は斜め読みしただけだけど、きっと正面に立って居る二人は有名な聖人だ。メアリーにコートを脱がせてもらう。ぱつんぱつんだから、脱ぎにくい。メアリーはシワになったドレスを手でなおす。その間に父親もコートを脱いで、メアリーに持たせる。メアリーは入口付近で待っているみたいだ。

 「さぁ、入ろう」父親にエスコートされて教会に入る。

「まぁ、綺麗!」

 朝の日がステンドグラスから入り、外側の荘厳さとは違い、青や緑や黄色の光に満ちていた。

「お前に光の能力があれば、修道女になれるのだけど」

 修道女? あまりピンとこないし、なりたいと思わないけど、もしかして持参金が払えないのを心配しているの? これから、弟達に教育もつけなくてはいけないのだ。お金は必要だ。私は学園に行かなくても良いのだけど、なんて考えているうちに教会の中を進んでいく。

「グレンジャー子爵、ようこそお越し下さいました」

 事前に執事が連絡していたらしく、祭壇の前に修道士らしき人が待っていた。

「ヨハン司祭、こちらが私の長女ペイシェンスだ。能力判定をお願いする」

 白い長服の襟や袖には金糸の刺繍がある。はっきり言って、家より豊かそうだ。

 横から、刺繍などない長服を着た修道士がゴロゴロと台を押してきた。その台の上には黒の天鵞絨が敷いてあり、一枚の円盤が大事そうに置いてあった。

「さぁ、手を円盤に置いて下さい」

 ヨハン司祭に言われ、父親にも「ペイシェンス、落ち着いてすれば良いんだ」と励まされ、私は円盤に手を置いた。

 チリチリって少し弱い感電したような感覚が、手から全身に走った。

 よく見ると円板には何個か宝石? それとも魔石が付いていた。光っているのは一つだけ。

「ペイシェンス様は生活魔法を賜っておられます」

 賜ってるって程の能力ではないけど、エステナ教では、魔法は神様からの授かり物って事になっているからね。チートは無かったのかと、少しがっかりした。

「ありがとうございます」

 なんと、父親はお礼を言うだけではなく、金貨! 初めて見た金貨を修道士に払っている。このくらいなら、教会に来なくても良かったのでは? とは思うが、生活魔法が使えると正式に認めて貰ったのは嬉しかった。これでトイレが使える!


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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、なんというかペイシェンス家の貴族の考え方って貧ぼっちゃまくんっぽいなぁ。 表面だけ立派にしてて裏はボロボロ…。
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