クラリッジ伯爵屋敷に
今日はクラリッジ伯爵を訪問する。マナー的に午後からが相応しいので、パーシバルと一緒にランチをしてからだ。
お父様は、領地関係なのでは? と腰が重たいけど、アマリア伯母様にキツく言われたので同伴してくれる。
「父もラグーン地方について、何か話したいと思っておられるのでは? と言っていました」
元は仲間と言うか、ちょっと馬鹿にされつつも組んでいたウッドストック伯爵が手放した領地について何か情報があるのでは? とモラン伯爵は考えているみたい。
「孤児をラグーン地方に追い出している事かしら?」
「そうかも知れませんが……そのくらいのことで、態々ペイシェンス様を招くでしょうか?」
父親の前なので様付けなパーシバル。ちょっと距離を感じて寂しい。
「お前がリリーナ様に勉強を教えているから、感謝の言葉を送りたいのでは?」
勉強会でリリーナを呼んだのをお父様が知っていたなんて、びっくり! 家族の事に関心がなかったのに。
「そうなのかしら?」
まぁ、行ってみればわかる事だと昼食を終えて、クラリッジ伯爵邸へと向かう。
この前、勉強会のお土産はチョコレートだったので、今回はマカロンの詰め合わせにした。
「ようこそいらっしゃいました」
執事さんに案内され、クラリッジ伯爵に会う。
美少女のリリーナの親らしい美貌の伯爵だった。
何処かで見た事がある顔だと思ったら、ハッとした。態度が全く違うけど、ゲイツ様に似ている。
「いつもリリーナがペイシェンス様にお世話になっております」
丁寧に感謝の言葉を発しながら、頭を下げる。
ゲイツ様は、クラリッジ伯爵は馬鹿だと言っていたけど、感じは良い。
ただ、これまで会った貴族の男性より、ふんわかした雰囲気だ。
そこから、少しの間、お父様と社交辞令の挨拶が続いた。うちのお父様が社交! 驚いた!
執事さんがお茶を運んできたタイミングで、家令らしき人も応接室に入った。
「ああ、そうだった! ライナス卿を紹介しよう!」
おっとりとしたクラリッジ伯爵とは違ったタイプ。切れ者そうなライナス卿だ。
「お初にお目にかかります。領地を管理しているライナスと申します」
やはり、こちらがメインの話をするみたい。いつまでも社交辞令ばかりでは、何をしに来たのか分からなかったよ。
クラリッジ伯爵の横に座って、これからが訪問の本題だ。
「ペイシェンス様、伯爵に陞爵されおめでとうございます」
おっと、クラリッジ伯爵も慌てて「陞爵おめでとう」と付け加えた。言うように教えられていたのに、お父様と社交辞令合戦していたよね?
「ありがとうございます。若輩者ですので、宜しくご指導お願いします」
これが陞爵のお祝いへの返事だ。
「もしかしたら、領地の件でしょうか?」
パーシバルは、長い社交辞令を和やかに聞いていたけど、本題を聞きたいと切り出した。
「ええ、元ウッドストック伯爵領のラグーン地方は、婚約者のパーシバル様のモラン領の西隣りですから、候補に入っていると考えまして……少し情報を提供したいと伯爵に招いて頂きました」
やはり、クラリッジ伯爵が私達に話があるのではなく、ライナス卿だったのだ。
「孤児の件でしょうか?」とパーシバルが話を進める。
これは、昼食の間に話し合っていたんだ。私よりパーシバルの方が情報を聞き出すのが上手そうだから。
「それもありますが、温泉についてです。ウッドストック伯爵は、ラグーン地方の温泉を活用できていません。私は、前から彼の方の遣り方に不満でしたので、勝手ながら調査させていました」
大きな封筒にラグーン地方の温泉についての調査資料が入っているみたい。
「何故、こんなことをして下さるのですか?」
これは私が質問した。だって、領主になるのは私だから。
「ペイシェンス様は、ハープシャーとグレンジャーを頑張って繁栄させようとされています。あの見捨てられたラグーン地方を助けて頂きたいのです」
それまで黙って聞いていたクラリッジ伯爵が「ライナス卿の母上はラグーン地方出身なのだ」とポソッと言った。
それって、ライナス卿の私情って事なのかな?
「ええ、でもそれだけではありません。先代のウッドストック侯爵は、ラグーン地方を開発しようとされていたのですが……失敗してしまったのです。その資料もありますので、領地選びの参考にして頂ければと思いました」
失敗! 思わずパーシバルと顔を見合わせた。
それって、良くない情報だよね? お父様も、四代前のグレンジャー子爵が港を整備しようとして失敗し、多大な費用を失った事を思い出している。
「いえ、その資料を見て頂ければ、分かると思いますが、そもそもの開発の計画が酷すぎたのです。それなのに、失敗を領民に押し付けて……今回、手放されたのは、領民にとって幸いだと思います!」
何だか、何処かで聞いたような話だよ。グレンジャー家の借金問題でも、ウッドストック侯爵までは辿らなかったけど、借金させるとか似ていない?
「今は寂れた温泉地ですが、ちゃんと開発すれば良い保養地になります!」
「それは、視察してから考えたいと思います。この資料はありがたく頂いておきます」
パーシバルが話を纏めてくれた。
屋敷に戻って、資料を見る。ライナス卿がコツコツと集めた資料、なかなか詳しく書いてあった。
「ふうむ、歓楽街にしたかったのか?」
温泉地と歓楽街? 日本にも温泉芸者がいたのは知っているけど……それは、温泉に観光客が集まるのが前提だよね?
「開発していないのに歓楽街を作ろうとしたの?」
呆れちゃった! お父様とパーシバルは、若い女の子の前で歓楽街とか話題にしたくないみたい。
「ここはやめておいた方が良いのでは?」
お父様は、孤児が多い理由も察して眉を顰めている。
「ペイシェンス様、手を出さない勇気も必要ですよ」
パーシバルもライナス卿の推薦する気持ちにはグッときたみたいだけど、私が苦労しそうだと心配みたい。
「兎に角、領地に行って、視察してからですわ!」
あまり酷いようなら手を引こう! でも、温泉の質とか良さそうなんだよ!




