婚約披露パーティ
モラン伯爵が「ペイシェンス・ハープシャー・グレンジャー伯爵と我が息子パーシバル準男爵の婚約を発表します。皆様、若き二人をお導き下さい」と挨拶する間、パーシバルは頭を下げて、私は正式なお辞儀をしていた。
終わった瞬間、パーシバルの手を取って立ち上がり、階段の上から招待客に軽く一礼してから、口きりのダンスを始める。
ちょっとドキドキして、失敗しちゃうかもと不安になった。だって大勢の招待客の目が私達に集中しているから。
「ペイシェンス、大丈夫ですよ。私が一緒ですから」
パーシバルの言葉に頷く。そして、踊りだすと、不安なんかどこかに飛んでいったよ。
マーガレット王女とパリス王子、リュミエラ王女とリチャード王子もダンスを始め、他の方もダンスの輪に加わった。
「ペイシェンス、パーシバル、おめでとう!」
ダンスですれ違うと、招待客から祝福の言葉が掛けられる。
「こんなに幸せで良いのかしら?」
パーシバルが「私も幸せです」と笑いながらリードする。
ダンスは得意とは言えないけど、パーシバルはリードが上手いから、楽しく踊れるね!
音楽に合わせて、クルクルと回る。音楽が終わったので、お父様達の席に連れて行って貰う。
そこには、アマリア伯母様、シャーロッテ伯母様、リリアナ伯母様がモラン伯爵夫人と一緒にいて、お父様と話していた。
苦手な姉達だけでなく、旦那様やモラン伯爵夫妻が一緒だから、叱られてばかりではなさそう。
「まぁ、ペイシェンス! とても綺麗だわ! よく見せてちょうだい!」
くるりとパーシバルの手を持って回転すると、裾の濃い青のビーズがキラキラと光る。
「毎回、とても素敵なドレスだわ!」
いつも社交界の付き添い役をしてくれているリリアナ伯母様が褒めてくれる。
シャーロッテ伯母様も、領地で絹産業が盛んなので、ファッションにはうるさい。
「ペイシェンスのドレスはいつも素敵だわ! 今年の流行の走りですね!」
ただし、アマリア伯母様は、ちょっと昔風なので、どう思われるのか不安だったんだ。
「ペイシェンス、とても綺麗ですよ」と褒められて、ホッとした。
パーシバルの目の色に合わせたビーズ、裾はかなり濃い青だからね。でも、上は白だから、アマリア伯母様でも良い感じなのかもね。
そこから、招待客との挨拶合戦。モラン伯爵は外務大臣なので、各国の大使が招待されている。
玄関で出迎えた時にモラン伯爵夫妻は簡単な挨拶は交わしているけど、私とパーシバルは二階の控室にいたからね。
ソニア王国の大使とは、訪問する予定なので、丁重に挨拶する。
「ペイシェンス様、パーシバル様、ご婚約おめでとうございます」
ちょっと高慢な感じの大使だったけど、今夜はかなり感じが良い。私達がマーガレット王女の訪問に付き添うからかな?
コルドバ王国の大使は、いつも通りに腰が低い。リュミエラ王女がリチャード王子と婚約しているから、ローレンス王国に良い印象を与えようとしているからだ。
「先日は、リュミエラ王女を屋敷に招いて頂き、ありがとうございます。その上、勉強も見て頂いたとか……本当にペイシェンス様には親切にして頂いています」
婚約のお祝いの後で、お勉強会のお礼を言われた。そこまでは良かったのだけど、どうやらリュミエラ王女が結婚した後に側近になって欲しいとか……ちょっと、それは困る。
「まぁ、まだまだ先の話ですわね!」とモラン伯爵夫人が笑いながら、断ってくれて助かったよ。
えっ! バルト王国の大使、アイーシャ王女をエスコートしている。ダンスはしていなかったから、来ているの分からなかったよ。
「ペイシェンス様! ご婚約おめでとうございます!」
大使に「パーシバル様にも」と注意され「パーシバル様もご婚約おめでとうございます!」と付け加えていた。
「アイーシャ様が来ていただけるとは、とても光栄です」
パーシバルは、他の外交官の挨拶を受けているので、私はアイーシャ様と少し話をする。
「だって、私はペイシェンス様の妹弟子ですもの!」
うっ、それってゲイツ様関連だよね。でも、少しだけどうしているのか知りたい気持ちだ。
「大使、天狼星やゲイツ様は元気でしょうか?」
「はははは、国からの便りでは、若いドラゴンに飽きて、少し成長したドラゴンを狩って下さっているそうです。本当にありがたいですよ!」
周りにいた人達も、ドラゴンが活性化していると聞いていたので、天狼星とゲイツ様の活躍に手を叩く。
バルト王国の大使が他の人に囲まれている間、私達は思いがけない方の祝福を受けていた。
「美麗様! 明明様! 来ていただけるとは!」
カルディナ帝国の大使と孫様が美麗様と明明様をエスコートして到着したのだ。
「ご招待、ありがとうございます。ペイシェンス様、パーシバル様、ご婚約おめでとうございます」
声も麗しいけど、今夜の美麗様はいつもの黒い服ではなく、薄い紫色のカルディナ風のドレスだ。
「ありがとうございます。明明様もありがとう!」
明明様は、ピンク色のドレスでとてもキュートだ。
大使や孫様からも祝福を受けて、次のデーン王国の大使とオーディン王子になる。
「後で、美麗様に紹介して下さい」とパーシバルが小声で言うのに頷く。
あの流行病の時、サティスフォード子爵領でチラリとすれ違っただけだし、あの時は美麗様は長旅で倒れそうだったからね。
「ペイシェンス様! この度も素晴らしいスレイプニルの群れを捕獲されたとか!」
この大使、今夜が婚約披露パーティだとわかっているのかな?
「ペイシェンス、パーシバル、婚約おめでとう!」
オーディン王子が言った後で「おお、おめでとうございます」と慌てて言う大使。
これで、外交とか大丈夫なのだろうか?
「スレイプニルについて話し明かしたいです!」とか言っているので、パーシバルとダンスに逃げ出しちゃった。
「どうも、スレイプニル愛が激しすぎるみたいですね」
パーシバルもスレイプニルも馬も好きだけど、あれは無いよね?
「ええ、今夜は近づきたくないですわ。でも、美麗様にはパーシー様を紹介しなくてはいけませんわ」
あまりに麗しい美麗様に、ボォっとなった男性が近づかないように、大使と孫様が厳しくガードしている。
「明明様は、おや、ミッシェルがダンスに誘っていますね」
ロマノ大学の先輩になるミッシェル・オーエン。パーシバルの従兄弟だけど、外交官志望だとは聞いていない。
「私と同じ領地管理のザッカーマン教授なのに?」
「ペイシェンス、明明様みたいにチャーミングな令嬢なら、誰でもダンスに誘いたくなりますよ」
ああ、そうだよね! つい、さっきまで大使達との挨拶ばかりだったから。
「さぁ、私達も楽しみましょう!」
パーシバルを美麗様に紹介して、少しだけお話しした。
明明と踊り終わったミッシェルも合流したので、隣の食堂に案内して、皆で軽食を食べながら歓談する。
「ペイシェンス! このチョコレート、とても美味しいわ!」
マーガレット王女、パリス王子。リュミエラ王女、リチャード王子。二組の煌びやかなカップルも少し休憩している。
「ええ、ブランデーチョコレートボンボン、是非、皆様召し上がって下さい。でも、お酒が入っていますから、沢山は駄目ですわよ」
私もパーシバルと一つ食べる。美麗様も明明様も一つ食べて「美味しいですわ」と喜んでくれた。
女の人には、ピンクや赤のハートチョコレートも評判が良かったけど、コインチョコレートは作って欲しいと紳士方から頼まれちゃった。
「ペイシェンス、これはH&G商会で売ったら良いと思いますよ」
パーシバルは、そう言うけど……チョコレートは輸入品だからね。
「少し考えますわ」と目で合図する。
摘みやすいピンチョスやカナッペも凄く味が良いと評判だ。アン、腕をあげているね!
休憩したら、またダンス! 美麗様達は、早目に帰られたけど、アイーシャはダンスも上手いから残って夜中まで踊っていた。
「モラン伯爵夫妻、素敵な婚約披露パーティを開いて下さり、ありがとうございました」
パーティが終わり、最後のお客様をお見送りした。
「お父様、お疲れ様でした」
「ペイシェンス、本当に綺麗になったね」
帰りの馬車、疲れた身体をメアリーにもたせかけて、屋敷に帰った。




