ブロッサム公爵家のパーティで
お勉強会が終わったら、少し休憩する。私は体力がないからね。
この点では、メアリーはよく心得た侍女なので、着替える時間に起こしてくれると信頼して眠る。
夕方に、お風呂に入って、簡単な軽食を摘む。これは、令嬢がパーティでいっぱい食べるのは、格好悪いとされているからだ。
こちらの世界では、大食い女子は歓迎されないみたいだね。いや、日本昔話にも食べない嫁ってのがあったっけ?
そして、ドレスに着替える。今日は、薄いブルーのドレス。
マーガレット王女は、元王族であるブロッサム公爵に敬意を表して、白の正式なドレスだそうだ。
ゴージャスな銀糸が織り込んであるドレスじゃないかな?
私は、今夜はマーガレット王女の側仕えとして一緒に行動することが多いから、少し控え目の薄いブルーにした。
きっと、リュミエラ王女もリチャード王子と一緒だから、大使夫人が格式の高い白のドレスを着せそうだもんね。
「婚約披露パーティの後でしたら、サファイヤを付けられるのですが……」
サファイヤの三点セット、このドレスにも似合うだろうけど、今夜は控え目で良い。
パーシバルがプレゼントしてくれたネックレスをつける。
お父様は、いつもながら不参加。社交界より、読書を優先する態度を崩さない。
ある意味でブレが無い態度は、凄いと思う。私も、ちょっとだけ見習いたいかも。
押しに弱いのは、元日本人だからかな? ペイシェンスは、お淑やかだけど芯は強かったと思う。
今夜は、ノースコート伯爵夫妻と一緒に行く。リリアナ伯母様が、私の社交界での後見人だからね。
明日は、パーシバルとの婚約披露パーティ。だから、あまり夜遅くまでは残らない予定。
ただ、マーガレット王女とリュミエラ王女が残っているのに帰れないんだよね。
まぁ、ベネッセ侯爵夫人や大使夫人が適切な時間になれば、退出を促してくれるだろう。
ノースコート伯爵夫妻とメアリーと一緒にブロッサム公爵屋敷に向かう。
「明日は、ペイシェンスの婚約披露パーティね!」
馬車の中では、そちらの話題だ。
「モラン伯爵は、外務大臣だから、各国の大使が来られるだろう」
そうなんだよねぇ。本当なら、私の友だちのハンナ達を招待したかったけど、外国の要人が多くて……。
「ペイシェンスは、各国の王族と顔見知りだから、緊張しなくて良さそうですわ」
そうかな? でも、パリス王子やオーディン王子は、緊張しないかもね。
オーディン王子って、まだ社交界デビューしていないんじゃない? 顔を合わせると、馬の王や金の鬣の様子を聞かれるから、ちょっと苦手なんだよね。
バラク王国は、アルーシュ王子とザッシュ様は帰国中。でも、アイーシャ王女はどうなのかな? 彼方の風習は知らないから、大使が王女を伴って来るかは不明。
カルディナ帝国は、大使夫妻だけかもね? 美麗様は、未亡人だからと身を謹んでおられるから……。
エステナ聖皇国、ここにも招待状を出したみたい。外務大臣だからさぁ。
来なくて良いよ! でも、返事は来ていないから、不明だったんだ。
「ゲイツ様が不在なのは知っているでしょう。ペイシェンス様に接触する為に参加するかもしれません」
考えただけで寒気がする。パーシバルと心配していたけど……何故か、急に欠席の手紙が届いた。
「また、悪い病に罹ったみたいですね!」とパーシバルは笑っていたけど、ゲイツ様の置き土産なのか、サリンジャー様の策略なのか? 魔法省、闇が深いんだよね。
ブロッサム公爵は、前にノースコート伯爵領で会っていたから、丁重に出迎えて下さった。
「ペイシェンス様、伯爵に陞爵おめでとうございます」
竜の問題も、ゲイツ様が南の大陸まで討伐に行ったので、少しホッとしたみたい。
「ご招待、ありがとうございます」
これで、ブロッサム公爵との会話はお終い。
先に到着しているマーガレット王女とリュミエラ王女に合流する。
二人は、王女として正式なドレスに立派なティアラ! 煌めいているよ。
そして、その二人をエスコートしているリチャード王子とパリス王子、ここに私がいて良いのかしら? と思うぐらい。
「ペイシェンス、とても綺麗ですね」
パーシバルが、モラン伯爵夫妻の元からこちらに参加してくれて、ホッとする。
ブロッサム公爵家のレオナール様が、親戚の令嬢と踊り出すと、皆も踊りに加わる。
マーガレット王女は、パリス王子と本当に幸せそうに踊っているし、リュミエラ王女も!
私も、少しの間、側仕えを忘れて、パーシバルと楽しもう!
シャンデリアの下で、パーシバルと踊る! ダンスは、そんなに得意では無かったけど、リードが上手いと楽しめる。
リリアナ伯母様の横の椅子に座って、少し休憩していたら、カエサル様もいるのに気づいた。
「そう、公爵家の跡取りなのだわ」
錬金術クラブの部長としてのイメージが強いから、ついつい公爵家の嫡男だという事を忘れがちだ。
「ははは、ペイシェンスらしいですね」とパーシバルが笑いながら、レモネードを渡してくれた。
隣に座っているリリアナ伯母様が呆れている。
「ペイシェンス、そのくらい覚えておきなさい」
「いえ、知ってはいたのですが、こうしてパーティで会うと、少し驚いてしまったのです」
「カエサル様はパーティとかお嫌いみたいですからね。でも、今日は、公爵家の繋がりもあるので欠席はできなかったのでしょう」
そういえば、この前、カエサル様がパーティにいるのを見たのは、ラフォーレ公爵家のパーティだった。
アルバート様の姿は見えなかったけど、チャールズ様が令嬢とダンスしているのがチラリと見えた。
「そういう繋がりも重要なのですね」
グレンジャー子爵家、特にお父様は社交界とか無縁だったから、こちら方面の知識不足だ。
公爵家は、公爵家として繋がっているんだね。
その後は、パーシバルと踊ったり、マーガレット王女とリュミエラ王女と一緒に少しだけ休憩所で軽食を摘む。
王子様も二人一緒だし、ホストのレオナール様やカエサル様やチャールズ様も参加して、和やかな時間を過ごした。
「カエサル様、お疲れみたいですね」
私達が休憩所を後にする時も、カエサル様は椅子に座ったままだった。
「ペイシェンス、少し私の盾になって欲しい! パーシバル、婚約者を借りるよ!」
どうやら、未来の公爵夫人になりたいと願う令嬢に、激しいアタックをされているみたい。
「今夜は、マーガレット王女の学友のエリザベス様やアビゲイル様はいらっしゃらないのか?」
どうやら、二人は公爵夫人に興味がないのをカエサルは察知して、どうしても出席しなくてはいけないパーティでは、ダンスのお相手に選んでいるみたい。
「お二人は、ロマノ大学の卒業パーティに行かれたのです」
「そうか……だから、そちらから招待状が来なかった社交界デビューして何年も経っている本気な令嬢が多いのだ! ロマノ大学の卒業パーティには、デビュタントを招待するのが慣例なのだ」
「私もデビュタントですが、招待状は来ませんでしたわ」
行く気は無いけど、変だよね? お父様が学長で嫌われているからじゃないと良いのだけど……。
「ペイシェンスが誰と婚約しているか、皆知っているからな! 呼んでも意味がない! 初々しいデビュタントを招待するのさ」
失礼な発言だけど、その通りかも? キャサリン様が必死で相手を探している姿をチラリと見たよ。
二年目は、デビュタントより条件が悪くなるって、失礼な慣例だけどさ。ちょっと見苦しいと思っちゃった。
意地悪な感情! だって、散々意地悪されたんだもの。元ペイシェンスなら、優しいからこんな事は思わないのかも。
いや、好きなカエサル様、尊敬できるチャールズ様やレオナール様を公爵夫人目当てだけで追いかけているキャサリン様、腹が立つんだ。
「カエサル様も婚約者を決めたら、社交界のパーティも楽になるのでは?」
私は、パーシバルという婚約者がいるので、パーティでも気楽なんだよね。
「ペイシェンス! 酷いなぁ! 私はペイシェンスに求婚したのに!」
「えっ? そんな事がありましたか?」
「カザリア帝国の遺跡を見つけた夏休みの最後に言っただろう!」
「ああ、大人になったら……」
そう言えば、そんな事もあったような? メアリーに本気にしないようにと注意した記憶があるよ。
二人で踊っていたら、パーシバルがカエサル様の肩を叩いて、パートナー交代。
「何か良い雰囲気だったので、妬けました」
パーシバルに嫉妬されるような事は滅多にない。
「ふふふ、嫉妬されるのも嬉しいです!」
二人で踊っている間に、カエサル様は、ブロッサム公爵に挨拶して、サッサと逃げ出していた。
「今度は、レオナール様とチャールズ様が追いかけられていますね」
キャサリン様がレオナール様とチャールズ様にあからさまなアタックしているけど、無理じゃないかな?
二人とも賢いから、意地悪な令嬢など御免だろう。それに地位目当てなのが見え見えだもの!
やっと、二人の王女様が退出されたので、私も解放! パーシバルと一緒に帰りたいけど、私はノースコート伯爵夫妻と帰路に就く。




