シリウス、怪我をしたら駄目よ!
慰労会が終わったら、ゲイツ様は天狼星と南の大陸に行く。
アルーシュ王子とザッシュも同行する。
「卒業式はいいのですか?」と尋ねたら、笑われた。
「竜の討伐の方が大事です。それにロマノ大学に合格しましたから」
そう言えば、初めからロマノ大学で魔法について勉強したいと言っていたね。
「私の留守の間、ソニア王国行きの準備をしておいて下さい。王妃様も気にかけておられましたが、あちらでパーティや晩餐会、お茶会を開くみたいなので、新作があるとマーガレット王女の評判も上がると思います」
そんなのは、王妃様からの手紙でひしひしと感じている。ゲイツ様は、単に新作の料理とスイーツが食べたいだけだと思うよ。
私は、ゲイツ様はドラゴンだろうが大丈夫だと思うけど、天狼星の方は心配。
だって、まだ幼いんだもの。
「天狼星、怪我をしないようにね! ゲイツ様の言う事をよく聞くのよ!」
もふもふの天狼星に抱きついて、言い聞かせる。
「ワワン!」『わかっている』と行く気満々な天狼星。
「天狼星、早く帰ってきてね!」
天狼星って私にテイムされた筈だけど、ヘンリーと仲が良いんだよね。
私は、寒い中、庭で遊ぶ気はないから、ヘンリーと一緒の時間が多いからかも。
私は、馬の王と金の鬣の運動に付き合うだけで、一日の運動はもう終了って気分だから。
ゲイツ様は、自分より私が天狼星と親密なのは仕方ないって感じだったけど、ヘンリーには溜息をついている。
「どうやら、天狼星はヘンリー君とも仲良くなったみたいですね。ペイシェンス様の弟だからか?」
私は、思わずヘンリーを抱きしめて、ゲイツ様から隠しちゃった。
まぁ、この子は騎士志望だから、魔法省とは関係ないよね?
天狼星を乗せた馬車が出立したら、悲しくなっちゃった。
「ペイシェンス?」とパーシバルが私を抱き寄せてくれた。
「もしかして、ゲイツ様が心配なのですか?」
えっ、パーシバルって、ゲイツ様をライバル視しているの?
「まさか! 彼の方はドラゴンだろうと平気だと思いますわ。でも、天狼星は、まだ子どもだから無茶しないか心配なのです」
ずっと屋敷に居着いていたゲイツ様がいなくなったので、二人でH&Gへ行くことにする。
「お姉様!」とヘンリーが行きたそうなので、連れていく。
ナシウスは、寮に行ったから、屋敷には一人っきりだからね。
それに、パーシバルとデートだけど、メアリーも一緒だし、お店では私は仕事モードになっちゃいそうなんだもの。
「帰りにカルディナ街でお茶をしましょうね!」
H&G商会に近づくと、人がいっぱいだった。
「馬車置き場も満杯みたいですね」
繁盛しているのは嬉しいけど、困ったなぁ。
「近くのバーンズ商会に馬車を停めさせて貰いましょう」
パウエル支配人さんに一言断っておけば、ちょっとの間停めさせてくれるだろう。
「お姉様、バーンズ商会も見てみたいです!」
ああ、そうか。ヘンリーはロマノの街中をほとんど見たことないんだ。
「ええ、少し見てみましょうね。その後で、H&G商会に行きますよ」
パーシバルは、横でくすくす笑っている。弟に甘いと思っているのかしら?
「少しで済めば良いのですが……」
あっ、そっちの心配なのか。
「今日は、別に新しい商品はありませんわ」
うん、多分、大丈夫だと思う。きっとね!
でも、パウエル支配人さんに捕まっちゃった! 何故だぁ! と内心で叫ぶ。
「カエサル様からビスケットバーを見せて頂きました。それと、温風機も!」
横で、パーシバルが爆笑している。
「あのビスケットバーはH&G商会で売る予定なのです。温風機は、特許を得たら、こちらで販売して下さい。あれを馬車に載せても快適になりますわ」
目を輝かすパウエル支配人さんだけど、今日はヘンリーにバーンズ商会の中を見せてあげるのが目的。
あああ、ヘンリーとパーシバルをコンビにしたら、武器と防具のコーナーから離れなくなっちゃった。
私とメアリーは、全く興味が無いけど、愛しい弟と婚約者の熱意溢れる説明を、頑張って聞く。
うん、今度からはヘンリーを武器コーナーには近づけないようにしよう。
いや、近づくのは仕方ないけど、私と一緒の時は駄目だね。




