雑用が山のように押しかける
天狼星と金の鬣が慣れるようにと屋敷にいるから、暇そうだと思う人もいるのかも?
特に、暇そうに天狼星と遊んでいるゲイツ様。
自分が仕事をサボっているから、私も暇だと勘違いしているんじゃない?
「近頃、チョコレートを受け取っていません」
私が冬の魔物討伐に参加していたのを忘れている。それに、チョコレートバーや焼き菓子を差し入れしたのも忘れたな!
「ゲイツ様、物忘れが激しいようですわね。暗記術の復習をされては如何ですか?」
精一杯の嫌味もカエルの面にションベンだ。あら、嫌だ! ついつい地が出ちゃった。
ペイシェンスが去ってから、令嬢の仮面が外れちゃう時が多くなった。パーシバルに嫌われないようにしないと!
「暗記術は極めています。最後にチョコレートを頂いたのは、三週間前ですよ。週に一回は頂いていたのに……」
そんな事を言いながら、屋敷に居着いているし、朝昼晩だけではなくお茶も思いっきり楽しんでいる。
「冬の魔物討伐の慰労会、どうされるのですか? 大人組と学生組にわかれるのでしょうか? 私は、どちらにも招待して頂きたいです」
そう、その件もあったんだ。領地に行きたいのに!
「ゲイツ様とサリンジャー様とラドリー様は、十分に大人だと思いますわ」
そちらに第一騎士団長、王子達を纏めて招待するつもりだ。
学生組は、王子以外の学生の参加者! 女子テントで一緒だったユージーヌ卿は、こちらでも良いけど、サリエス卿と共に大人組。
だって、そちらは男性ばかりになっちゃいそうなんだもの。
アイーシャ王女やハンナをこっちにしても良いけど、やはり女子テント組は一緒が良いよね。
席順なども家政婦のミッチャム夫人と考えなきゃいけないし、食事も二パターン考える。
学生組は、メインは勿論、ワイバーンだけど、しゃぶしゃぶにする予定。
大人組もメインはワイバーン。でも、王子達がいるので、少し上品にしたいな。つまり、鍋物じゃないメインにするってこと。
学生組は、去年も慰労会に招待して、しゃぶしゃぶやすき焼きを食べているから、自分で何とかできそう。
王子達に給仕できる従僕がまだ育っていないんだよ。それも何人も必要になるからね。
「キース王子とオーディン王子も学生組ですか?」
年齢的に、学生組も考えたけど、そうなると人数的に大人組になる。それに、キース王子の学友まで招待しなくても良いんじゃないかな?
学生で招待するのは、錬金術クラブのメンバーと文官コースで仲の良いフィリップスとラッセル。それと、女子テントのメンバー。
アンドリューをどうするか? 悩み中! 面倒くさい性格ではあるけど、悪い奴では無さそうなんだよね。
魔法クラブのアイラ達を招待しているのに、一人だけ呼ばないのも……それに、同じクラスの魔法使いコースで一人だけ呼ばないって、駄目な気もする。
「いや、やはりやめておこう! そんな事を考えていたら、人数が増えるばかりだもの!」
キース王子の学友、ラルフとヒューゴも呼ばないと決めたんだもの! 同じクラスに居たのは、ほんの少しの間だし、パーシバルと婚約した時、微妙な雰囲気になったんだよね。
キース王子は、カレン王女との縁談が進んでいるし、もう吹っ切れているんじゃないかな? ただ、距離を置きたい気がする。
今回の慰労会、何故か王子達も招待する流れになったから仕方ないけどね。
「今日のお茶の時間にラドリーを呼ぼうとおもっているのです。馬車に暖房をつけなくてはいけませんからね」
ああ、それもあったね! メアリーは、ソニア王国行きのドレスに熱中しているけど、冬の馬車の旅に耐えられるか自信ないんだ。
ソニア王国より領地に行きたい! マーガレット王女の側仕えとしての最後のお仕事だから、行くけど……本音は、パスしたい。
普通にソニア王国に行くのも冬なので辛いのに、ローレンス王国内は、東部貴族との交流会。そして、ソニア王国に入ってからは、パリス王子とマーガレット王女の顔見せ興行っぽくなりそう。
つまり、さくさく旅をしないってこと。昼食会、晩餐会をしながら、優雅に進むと言えば聞こえは良いけど、ソフィアに着くまで何日掛かるか……まだ外務省とソニア王国との協議中なんだもの。
私は、寒さに弱い。その上、気を使う貴族との社交。
マーガレット王女との友情と外務省に勤めるパーシバルの役に立ちたいって気持ちが無ければ、王妃様からの頼みだって断りたいレベル。
「それと、これにサリンジャーがサインして欲しいと言っていましたよ」
出された書類、溜息が出そう。
「暖房は分かりますが、これは特産品店の物ですよね? なぜ、サリンジャー様が?」
馬車の暖房は、ローレンス王国の人の中では珍しく寒さに弱いゲイツ様が至急に! と騒いだからだろうけど、他のは冬の魔物討伐に皆に配ったお菓子だよね?
「ペイシェンス様は相変わらず呑気ですね。あれは、とても優れたレーションです。早く特許を取れと陛下からも命じられています」
ううう、レーション! 軍食になるんだ。
「チョコレートバーはレーションには豪華すぎますが、チーズバーやクッキーバーなどは、騎士団に常備しても良いと思いますよ」
真空パックの特許かぁ。
「でも、あれはH&Gの為に作った物なのです。騎士団が購入して下さるのはありがたいですが……他の人にも買っていただきたいのです」
商人の人だって必要だよね?
「それは、特許を取ってから考えては如何ですか?」
ゲイツ様って他人事だね。なんて、考えているうちにラドリー様が来られた。
「急遽、馬房を建てて頂き、ありがとうございます」
ゲイツ様には出したくなかったけど、馬房や馬車の改造のお礼の気持ちを込めて、アフタヌーンティーセットを用意させた。
「ペイシェンス様は、陞爵されたと聞きました。おめでとうございます。今度の領地のお屋敷の改造も引き受けさせて頂きます」
ラドリー様って、凄く優秀な王宮建築士で、センスも良いんだけど、グルメなんだよね。
ゲイツ様は、一気にアフタヌーンティーのミニサンドイッチ、キッシュ、スコーン、ケーキ、チョコレートなどを食べ尽くしたけど、一つずつ味を楽しんでいる。
「その件は、大学に入学してから考えたいと思っています。領地の開発も半ばなので……」
ラドリー様は、チョコを口に入れて唸りながらも、頷いてくれた。
「そうですなぁ……ただ、ペイシェンス様は農作物にも興味があるみたいですので、領地が増えるのは良いと思いますよ。空き地が北部しか残っていなくても、ペイシェンス様ならそこで特産品も作れるのでは?」
あっ、目から鱗だ! 南部の方ばかり考えていた。
「そうですわね! 砂糖が取れる甜菜は、北部でも作れるかもしれません。やはり、ロマノ大学で色々と学ばなくては!」
「ペイシェンス様は、自分で自分を忙しくしていますね。まぁ、ローレンス王国にとって優れた領主は有難い存在です。それと、さっさと特許を取って、量産して下さい。竜の討伐にも持って行きたいですからね」
何だか、その日は雑用が波のように押し寄せた。




