早起きは三文の徳?
冬の魔物討伐から戻って、金の鬣達がこちらの生活に慣れるまで、早起きが必須になった。
「去年の馬の王より楽な面もあるのだけど、やはり冬の朝は辛いわ」
王立学園に急遽建てられた馬房へ、未だ星が見える早朝から通ったのは辛かった。パーシバルが付き合ってくれたのが嬉しかったよ。
今年は、天狼星がいるので、寮には戻れていない。
そして、金の鬣とその群れのスレイプニル達の為に、庭に急造りとは思えない馬房が用意されている。
そこには、警備の兵とスレイプニルの世話をする騎士達が詰めている。
その人達の食事は、エバを中心に何人もの料理人補助がいるから任せておける。
問題は、馬の王や金の鬣やスレイプニル達の早朝の運動場所までの移動だ。
「馬の王は、ペイシェンス様が乗られた方が良いでしょう。金の鬣は、まだ人を乗せるのに慣れていませんから、パーシバル様の方が良いです」
昨年よりは乗馬も上手くなってはいるけど、野生スレイプニルだった金の鬣に乗るのは無理だ。
まして、王立学園の運動場への移動とは違い、王都の街中を第一騎士団の運動場まで移動しなくてはいけないんだもの。
「パーシー様、おはようございます」
本当に早朝から申し訳ないと思うけど、パーシバルは気にしていない。
「私は、体力があるから平気ですが、ペイシェンスはゆっくり休めましたか?」
朝からパーシバルと会えるのは嬉しいけど、やはり眠い。
「ええ、メアリーに甘やかされています」
寮だと自分で起きなくてはいけなかったけど、メアリーが私の体力の無さを心配しながらも、キチンと起こしてくれる。
それに、朝食は、スレイプニル達の運動後にするけど、温かいミルクティーをベッドに運んでくれたので、少し身体も温まった。
第一騎士団のメンバーが、自分の馬に乗って、スレイプニル達の手綱を持って運動場まで移動させる。
パーシバルは、金の鬣、私は馬の王に乗っている。
運動場では、馬の王を数周ゆっくりと走らせてから、パーシバルと交代する。
「金の鬣、私は乗馬は下手なのよ」
つまり、全力疾走は駄目だと言い聞かせてから、金の鬣に乗って、数周歩かせる。
その後は、パーシバルが金の鬣を全力疾走させるのを、運動場の外で見学だよ。
気を利かせた第一騎士団が私用に椅子を用意してくれている。
このスレイプニル達の運動に天狼星もついてきたがったのだけど、フェンリルが側にいたら、気が立ちそうだから、よく言い聞かせた。
「スレイプニルの運動が終わる頃には、ヘンリーも起きてくるわ。良い道具を作ったから、一緒に遊んでやってね」
前世のフリスビーを思い出して、丈夫そうな木で作ったんだ。
天狼星は、魔法は去年より上手くなっているけど、未だ遊び盛りみたいだから、ヘンリーとフリスビーで楽しむんじゃないかな?
ヘンリーと楽しく遊ぶ天狼星を想像して、にまにましている間にスレイプニル達の運動も終わった。
「私が参加する意味があるのかしら?」
素朴な疑問が湧いたけど、馬の王と金の鬣との親密さを深めるのには必要なのだと考えて、早起きしたのは意味があるのだと自分に言い聞かせる。
そろそろ起きだした人が王都の道を忙しそうに馬車や馬、そして歩いている姿が見える。
「金の鬣は、馬の王よりも年長だからか、群れも統率ができていますね。それに、馬の王の群れよりも、スレイプニルも年上が多い」
屋敷に戻ったら、馬の王と金の鬣に「綺麗になれ!」と掛けておく。
他のスレイプニル達は、人の世話を受けるのも訓練の一部だとサンダーが言うので浄化はしない。
「スレイプニルが年上なのは、良い事なの? それとも悪い条件なのかしら?」
領地でスレイプニル、戦馬の繁殖をしたいと思っているけど、素人だからね。
「馬の王の群れは五歳以下が多く、若いスレイプニルばかりでした。まぁ、ボスの馬の王が五歳だったので、年上のスレイプニル達は群れから出たのかもしれません」
ふうんと聞いていると、説明してくれた。
「金の鬣は、七歳です。群れは、七歳以下が多いですが、若駒もいます。それらは、金の鬣の子かもしれませんね」
サンダーの頭の中は、繁殖の組み合わせで忙しそう。
それに、私はパーシバルと弟達と朝食だ! ナシウスは、昨夜は屋敷に泊まった。私の伯爵陞爵のお祝いだったからね。
何故か、ゲイツ様も当然の如くの顔で食べていた。ううん、嫌な予感!
パーシバルと弟達、それとお父様との朝食は良いんだよ。でも、何故、ここにゲイツ様が? 屋敷で朝食は終えたんじゃないの?
「あのう、魔法省に行かなくて宜しいのですか?」
全く気にしていない。マナーとして、朝食の場にいるから、朝食も用意させたけど、食べたばかりじゃないの?
「ううん、それはサリンジャーに任せます。私は、南の大陸に行く為に天狼星とのコミュニケーションをとる方が重要だと思いますからね」
ここまでは、まぁ、仕方ないなぁと聞いていたけど……お代わりしているんだよ!
「このスープ、やはり違いますね! レシピは教えてもらっているのでしょうが、何処か違うのです」
転生した頃と違って、ゲイツ様が一人増えたからといって、次の日から薄いスープと固い薄いパンになる事はないけどさぁ。ちょっとイラッとしちゃう。
でも、ヘンリーと天狼星がフリスビーで遊んでいる姿を見て、癒されたけどね。
私は、討伐の疲れが残っているので、応接室でパーシバルとお喋りして過ごす。天狼星と親密になりたいゲイツ様は、外でヘンリーの子守りだ。
本当は、午前中は勉強の時間なんだけど、天狼星が屋敷に慣れるお手伝いをしてくれているから、午後からに回してもらっている。
ああ、こうやって温かい暖炉の前にパーシバルと座って、話していると得した気分。
ただ、内容は下級官吏の試験や下級錬金術師の試験を受けるかどうか、なんて色気の無い話や、伯爵の領地をどうするかなんて、真剣な話題だけどさ。




