叱る時は叱らなきゃ!
冬の魔物討伐から戻った。ホッと一息つきたい気持ちだけど、天狼星と金の鬣の件がある。
天狼星は、弟達と仲良く庭を走り回っている。襲っているんじゃないよね? そこは、信頼しよう! それにゲイツ様が一緒だから、ふざけ過ぎたら止めてくれるだろう。
私は、パーシバルと前庭に急遽建てられた馬房に向かう。
ここには、金の鬣とその群れのスレイプニル十五頭がいる。
「素晴らしいスレイプニルですなぁ」
サンダーは嬉しそうに、金の鬣を眺めている。
「ええ、でも馬の王と仲良くないのよ。これっていつかは仲良くなれるのかしら? 金の鬣には、パーシバルが乗って貰う予定なの」
サンダーは、馬の王に惚れこんでいる。
「えええっ、馬の王はボス争いをしているのですか?」
「ボス争いは終わったのだけど……馬の王は若いでしょう。金の鬣の方が年長だから、お互いにそれを主張し合うのよ」
ふむ、ふむ、と頷きながらサンダーは聴いている。
「金の鬣は、若いボスに従うにはプライドが高いのでしょう。群れが人に慣れるまで、ここで過ごせば良いのですよね? その後は、金の鬣は、パーシバル様の屋敷に移した方が良いかもしれません」
えっ、パーシバルに金の鬣は乗って貰うつもりだから、それでも良いけど……金の鬣の目が訴えている。自分は要らないのか? って。
「なるべく、仲良くなるようにして下さい。金の鬣、ここに居たかったら、馬の王と仲良くするのよ」
「ブヒヒン!」『仕方ない』と応えたような気がする。
他のスレイプニル達も慣れない環境の変化で疲れているみたいだから「綺麗になれ!」と掛けておく。
馬の王の方の馬房にも行って「綺麗になれ!」と掛けた後で「金の鬣と仲良くしてね!」と言い聞かせてから、屋敷に入る。
「ゲイツ様もパーシバル様も、お屋敷に戻らなくてはいけないのでは?」
応接室でお茶とケーキで一息つきながら、話し合う。
「ええ、一度屋敷に帰ります」
パーシバルは、居てくれても良いのだけど、お風呂とか入りたいよね。
「私は、すぐにこちらに来ます。天狼星と交流をはからなくてはいけませんから」
ああ、ゲイツ様が居つきそうな予感!
兎に角、二人が屋敷を辞したので、天狼星に肉をやるように言ってから、私もお風呂に入る。
メアリーに髪を洗って貰っていると、眠ってしまいそう。
「お父様がお帰りになったら起こしてね」
もう、体力の限界だ。ベッドに入るなり寝てしまった。
「お嬢様、子爵様がお戻りです。ゲイツ様とパーシバル様もいらっしゃっています」
目を覚ますと夕方だった。疲れてしっかり寝てしまったみたい。ちょこっと昼寝のつもりだったんだけどね。
「着替えるわ」とメアリーに告げるだけで良いのは楽。
それに前と違ってドレスも何着もあるからね。
「きっと、このまま夕食になるでしょう」
パーシバルは、招待しても良いけど、ゲイツ様は居つきそうで不安。
メアリー的には、普通のドレスに着替えて、夕食用には夕食用のドレスに着替えるべきなんだろうけど、お着替えするのも体力使うんだよ。
それに、パーシバルはここで夕食になるだろうと考えて服を着替えて来ていると思う。
「あああ、お父様に伯爵に陞爵されたのを話さなきゃいけないのだわ。それと、天狼星の件も」
天狼星は、きっと許可は出ると思う。お父様は放任主義だから。
それに、陞爵は、喜んでくれると思うんだけど……お父様より爵位が上がるのって居心地が悪い。
その心配は、もう解消されていた。図々しいゲイツ様によってね。
風呂に入って着替えたら、即、屋敷にやって来て、天狼星と遊ぶ弟達の世話をしてくれたのはありがたい。
ちょっと、乱暴な遊びになっていたみたいだからね。ヘンリーは、どうやら空を飛んで逃げては、天狼星がジャンプして捕まえていたそうだ。
後で、一匹と一人には厳重に注意しておこう。ナシウスは、それを止めるのに汗びっしょりだったみたい。褒めておかなきゃね!
ゲイツ様は、ヘンリーに「飛ぶのは禁止!」と言い聞かせ、天狼星には「ペイシェンス様の弟に傷一つつけないように!」と厳重注意したそうだ。
「今日は、ペイシェンス様が伯爵になったお祝いだと、執事に告げておきました」
それ、自分がご馳走を食べたかっただけじゃん!
ともあれ、お父様も陞爵の件は既に知っているみたい。
「ペイシェンス! 伯爵に陞爵だなんて、素晴らしい。陛下に感謝するんだよ」
それは、勿論だけど……やっとハープシャーの開発に手を付けたばかりなんだよぉ。
「お父様、天狼星を屋敷で飼って良いでしょうか? ゲイツ様と南の大陸に行くまでですが……」
まだ、天狼星が南の大陸へ行くのは反対だよ。危険だもの!
「ああ、だが……本当にその犬は、フェンリルなのか? ちゃんと躾けないといけないよ」
やはり、うちのお父様は、少しズレている。躾けの前に、魔物を飼ってはいけないと思うんじゃないかな?
先ず、ナシウスを褒める。
「弟と天狼星をちゃんと見守ってくれてありがとう。良いお兄ちゃんだわ」
ナシウス的には、天狼星のお兄ちゃんは御免かも。
「ヘンリー、王都では飛行は何処までだと約束したかしら?」
ヘンリーが叱られるのを分かっているので、言いたくなかったけど、他の貴族に目を付けられたら怖い。
「御免なさい! 屋根よりは高く飛んではいけないのに……」
「わかっているなら良いのよ。今度から、気をつけてね!」
可愛いから、ギュッと抱きしめて言い聞かせる。
「飛行できる人は、少しずつ増えていくとは思うの。でも、まだまだ飛べない人の方が多いから、幼い子どもなのに飛べると知られたら、利用されるのよ。だから、禁止しているの」
ヘンリーが「わかった!」と納得したみたいなので、ハグから解放する。
そして、天狼星。跪いて、首を抱きしめ、目と目を合わせて話す。
「弟達と仲良くしてくれてありがとう。でも、弟達はまだ幼いから、乱暴な遊びは駄目よ! 空を飛ばなくても、追いかけっこはできるわ!」
「クウン」『わかった』と言っているから、今度からは普通に遊んでくれるでしょう。
「やはりペイシェンス様が一緒に南の大陸に来られた方が、天狼星の制御になると思いますね」
懲りないゲイツ様にもビシッと言っておかなきゃ。
「私は、南の大陸へは行きませんわ。それに、天狼星とのコミュケーションが取れないなら、南の大陸にも行かせません!」
パーシバルが、ゲイツ様の横でプッと吹きだす。一度、ガツンと言わなきゃって二人で話していたからね。
「ええ、そんなぁ! では、これから南の大陸に行くまで、毎日、天狼星との親交を深めないといけませんね」
それって、毎日ここに来るって事?
「お父様、そんなの迷惑ですよね!」
南の大陸行きを断ってくれたお父様に期待する。
「いや、ドラゴンの脅威から我国を護る為になる事なら、協力をしなくてはいけない」
いや、ここで真っ当な貴族っぽい事を言わないでよ。変人振りを発揮して欲しかった。




