フェンリルを連れてお家に……
伯爵になってしまった! ガァァンと前世なら効果音と共に顔に縦線が描かれそうだよ。
ペイシェンスのマナーを全開にして、微笑みをキープする。
ただ、皆は天狼星に興味津々! ああ、約一名、オーディン王子が冬の魔物討伐に参加したから、彼の国の大使も来ていたんだ。
彼は、馬の王と金の鬣に目がハート状態だよ。近づかないようにしよう!
パリス王子も参加しているから、ソニア王国の大使もいるけど、こちらは天狼星にビビっているみたい。
王子関係では、バラク王国の大使もいる。こちらは、ドラゴンの繁殖期に怯える立場なので、討伐されたワイバーン、それに天狼星を注視している。
マーガレット王女の目にも少し天狼星に怯えが感じる。
「天狼星、小さくなって!」
「ワン!」『わかった!』
あっ、突然天狼星が光りだしたので、国王陛下や王族を護ろうと、騎士達が警戒しちゃった。
「ああ、大丈夫です。ペイシェンス様が頼んだので天狼星が小型化するだけです。流石にあの大きさでは屋敷に連れて帰れませんからね」
ゲイツ様って性格的には問題あるけど、王宮魔法師としては信頼されているみたい。
皆が注目している間に光は収まり、大型犬ぐらいになった天狼星が現れた。
「天狼星、良い子ね!」
もふもふしておこう!
私が天狼星を可愛がっているのを見ていた国王陛下が、勇気を出して声を掛ける。
「私も天狼星に触れられるだろうか?」
「ええ、国王陛下。手を天狼星の前に出して下さい。紹介致します」
手を差し出す国王陛下。
「天狼星、このお方は私が仕える国王陛下なの。とても偉いお方なのよ」
天狼星に王様って理解できるかしら? と少し首を傾げたくなるけど、これしか説明のしようがない。
フンフン匂っていた天狼星は「ワン!」『わかった!』と返事をする。賢い良い子だわ。
「天狼星に触ってみたいって言われたのよ。良いかしら?」
「ワワン!」『かまわない』
許可が出たので、天狼星を陛下の方に押すと、一歩下がりそうだったけど踏みとどまり、ソッと手を天狼星の身体に置く。
「おお、柔らかい! 伝説のフェンリルに触る機会があるとは考えもしなかったぞ」
他の方々も触りたいのかもしれないけど、国王陛下だけで終わって良かった。
それに金の鬣達は、まだ人に慣れていないから、早く馬房で休ませたい。
「皆も疲れているであろう! 褒美の件は後にして、今は身体を休めなさい」
良かった! とホッとしたけど、王妃様に手招きされちゃった。
「ペイシェンス、陞爵おめでとう。あまり無理はしないように気をつけなさい。後ほど、ソニア王国行きの話し合いをする必要があります。用意する物など、細々とした打ち合わせもありますからね」
はぁぁ、やはりソニア王国行き随行は決定なんだね。
「わかりました」としか答えはない。それに、何が必要なのかメアリーだけに考えさせるのも大変だ。
マーガレット王女は、横のパリス王子に冬の魔物討伐を労って、仲良く話をしている。
ただ、横に控えている大使、前に公爵家のパーティで会った時の尊大な態度は見えない。天狼星にかなり怯えたのかな? それか、王妃様に教育的指導を受けたのかも?
「マーガレット王女、当分は天狼星と金の鬣を慣らすまで寮には行けません」
「それは残念ですが、仕方ありませんね。ペイシェンスは、卒業試験は……ああ、一科目だけでしたね。でも、慣れたら来て欲しいわ」
そうしたいよ! と期待を込めてお辞儀をする。
さて、どうやって屋敷に帰ろうか? 馬の王に乗ってでも帰れる距離だけど、天狼星がいる。
「ペイシェンス様は、馬車で天狼星と帰った方が良いでしょう。屋敷にフェンリルがいると公表しない方が良いですからね」
ゲイツ様! 嬉しいよ!
「ああ、それなら馬車を屋敷に行かせなきゃ良かったですわ」
しまったなぁと困っていたら、馬車は手配してくれた。
国王陛下もフェンリルに王都内をうろうろして欲しくないのかもね。
ただ、この馬車って……ゲイツ様が王家に献上した馬車では? 内装が豪華で乗り心地も良い。
私一人では馬車移動も駄目だそうなので、護衛のベリンダに同乗してもらう。
そこに、何故かゲイツ様も乗り込んだ。
「天狼星と友好を深めたいので……それに、私の馬車はグレンジャー家にあるのでしょう?」
ふぅ、仕方ない。ただ、これってパレードっぽくない?
パーシバルは、金の鬣に乗って馬の王の手綱を引いている。
その後ろには、自分の馬に乗った騎士達が捕獲したスレイプニル達の手綱を持ってついて来るのだ。
「馬房は用意出来たかしら?」
この件も話し合わなきゃいけないんだよね。
「ラドリーならちゃんと馬房を作ってくれていますよ。慰労会に招待しましたからね」
おぃおぃ、誰が開くんだよ! とツッコミたくなったけど、大人組の慰労会は、ゲイツ様に招待客の選択を任せよう。私は、学生組の慰労会のメンバーを絞るだけで、大変だもの。今年は、文官コースの学生も多く参加したからね。
卒業しても、ロマノ大学で顔を合わせる機会もあるだろうけど、フィリップスとかラッセルは来年卒業だもの。会えなくなっちゃうんだ。
「王子関係は、大人の慰労会の方にお願いします!」
学生だけど、ちょっと気を使う相手だからね。
「そうですねぇ……リチャード王子は大人組で良いですが、キース王子とかは学生組ではありませんか?」
人数調整は後にする! だって屋敷に着いたからね。
「お姉様!」
ヘンリーが階段を駆け降りて、出迎えてくれる。
ああ、やっと帰ってきた! それに、何故かナシウスも!
「お姉様、冬の魔物討伐お疲れ様です!」
馬車から飛び降りて、二人を抱きしめる。先に、屋敷に着いていたメアリーが呆れているけど、マナーより弟の方が重要だ。
「ああ、そうだわ! 天狼星、この子達は、私の大事な弟達よ。仲良くしてね!」
私の後ろから飛び降りた天狼星を二人に紹介する。
二人に手を出させて、天狼星に匂いを覚えさせる。
「ワン!」『覚えた!』
ああ、これで安心だわ! 天狼星は賢いから、弟達に危害は加えない。
万が一、傷でも負わせたら……天狼星が蹲って鼻を手で押さえている。
「ペイシェンス様、威嚇はやめてやって下さい。ふぅ、幼いとはいえフェンリルを怯えさせるだなんて、やはり王宮魔法師になる運命なのですよ」
ゲッ、天狼星を怯えさせたの?
「ごめんなさい! 大丈夫よ。弟達に怪我をさせて欲しくないと願っただけなの」
首に抱きついて、天狼星に謝る。
「ワワワワワン! ワンワンワワワワン!」『わかっている! 絶対に怪我させない!』
「ペイシェンス、スレイプニル達を馬房に入れて良いだろうか?」
パーシバルに言われて、馬房に移る。その前に、天狼星に弟達が触っても良いか許可を貰ってからね。
だって、ヘンリーの目が触りたいとキラキラしているんだもの。




