|馬の王《メアラス》と|金の鬣《グルファクシ》
ゲイツ様が言った通り、次の日にロマノに戻る事になった。
学生は、一週間で戻れるので、ほっとしている。
特に、今年はワイバーンが飛来したからね。それに伴って魔物もかなり雪崩れ込んだ。
錬金術クラブのメンバーや文官コースの学生達は「最後の狩をするぞ!」と頑張っている。
ガブリエル第一騎士団長とリチャード王子が、学生のロマノへの帰還を告げたので、私もテントの中をメアリーに片付けて貰う。
えっ、私? 私は天狼星の世話と金の鬣の世話だよ。
「金の鬣は、パーシバルとロマノに帰るのよ」
「ブヒヒン!」『新参者!』と馬の王が偉そうな態度だ。
「馬の王、駄目よ!」と諌めておくけど、私が金の鬣に乗れれば良いだけなんだけどさぁ。
金の鬣は、野生のスレイプニルだから、人を乗せるのに慣れていない。
さっきも、鞍を置くのに大暴れしたんだよね。何とか、私が言い聞かせて、パーシバルは鞍を装着したけどさ。
パーシバルは、金の鬣に飛び乗って基地の周りを一周して来た。私には無理だよ!
「明日、金の鬣には、パーシー様に乗って貰うわ」
ジロリとパーシバルを睨んで「ブフフン」『仕方ない』って態度だ。
言い聞かせる横で、馬の王が『私がペイシェンスを乗せる』って顔で立っているから、ややこしい。
「ブヒヒヒヒヒン!」『生意気な若造!』
「ブヒヒヒヒヒン、ヒンヒン!」『年寄りの新参者!』
「やめなさい!」
大声で二頭の間に入って喧嘩を止める。
「ペイシェンス、もっと馬の王と金の鬣を制御しなくてはいけない」
第一騎士団長って、本当の事を言うけど、リチャード王子やゲイツ様は私がどれほど乗馬が苦手か知っているから、苦言は避けている。
第一騎士団長も私の乗馬が下手なのは知っているけど、あれでもかなり上達した状態だったんだよ。
金の鬣の群れのスレイプニル達は、王都から来た騎士達や、討伐に参加している騎士達が連れてロマノに帰る。
去年は、デーン王国の騎士達の手伝いが必要だったけど、今年は少ないし、スレイプニルに慣れてきているからね。
「ペイシェンス、ロマノに帰ってからだが、何頭かは譲って欲しい」
リチャード王子に言われなくても、そうする予定だったよ。だって、皆が欲しがるスレイプニルを独占したら怖いもの。
「ええ、ですが金の鬣は譲れません」
それは、皆が頷いて同意してくれた。約一名「乗馬が苦手なのに……」と呟いていたけど、聞かないよ。
「何頭か雌のスレイプニルは残しておいた方が良いでしょう。馬の王の群れと違う方が良いでしょうから」
ゲイツ様が言い難い事を言ってくれた。それと、馬の王の群れの雌には、金の鬣を掛け合わせたいとか、ちょっと未婚の令嬢には相応しくない話がヒートアップ。
スレイプニルの話題で飛び込んでくるのは、オーディン王子だ。
「馬の王の相手は減らしたら駄目だ!」
ギャンギャン横で煩いから、リチャード王子がキース王子に馬房から連れ出させた。
「ふうむ、確かに八本脚のスレイプニルも欲しいのは確かだが……」
リチャード王子や第一騎士団長は、悩ましそうに唸る。
「それは、王都に戻ってから考えては如何ですか?」
ゲイツ様は、そこまで八本脚のスレイプニルに興味はないみたい。
「そうだな」
これで、スレイプニル関係は何とかなったんだけど、天狼星の問題が残っているんだよね。
「今夜は何処に寝させたら良いのかしら? 女子テントに入れたら、皆も落ち着いて眠れないわよね」
大型犬ぐらいの大きさの天狼星だけど、元の大きさを知っているから怖いだろう。
「天狼星は、外でも大丈夫?」
「ワン!」と頷くので、テントの外で寝てもらう事にしたけど、やはり他の人は遠巻きにしているんだよ。
「天狼星は、ペイシェンス様の従魔です。危害を加える者には反撃しますし、私が許しません!」
ゲイツ様の言葉に逆らう勇気がある者は討伐メンバーにはいない。だって、今年もダントツの一番だからね。
私は……雪の寒さで休憩が多かったから、今年は五番。二番はサリンジャーさん、三番は第一騎士団長、四番はサリエス卿、そして六番はパーシバル!
因みに王立学園の学生で一番大きな魔物を討伐したのは、パーシバル。あっ、ワイバーンは別枠になったんだ。寄付するには高価すぎるからね。
ワイバーン、三頭貰えたけど、革は弟達の防具にしたいと思っている。特にヘンリーの防具は、騎士になるから、予備用も置いておきたいんだ。
肉は……親戚に配るよ。勿論、モラン伯爵家にも! それと、いつもお世話になっているバーンズ公爵家にも。ベネッセ侯爵家には、ゲイツ様が贈るみたい。
「美麗様にもお裾分けしたいわ」
明明と仲良くしているし、エバも彼方の料理人と交流があるからね。




