困ったなぁ!
パーシバルが金の鬣のスレイプニルを馬房に連れて行ってから、こちらの天狼星騒動に駆けつけた。
きっと、騎士達や学生達が『ペイシェンスが、フェンリルを連れてきた!』と騒いでいるのだろう。
「えええ、それが天狼星ですか?」
小屋ぐらいの大きさだったのに、大型犬ぐらいに縮んじゃっているからね。
「ええ、屋敷に入らないと思ったら、小さくなってしまったのですが……飼って良いものなのでしょうか?」
パーシバルは、笑いの発作を起こしそうになったみたいだけれど、リチャード王子とガブリエル騎士団長の前なので何とか頑張って押さえ込もうとしている。
「ペイシェンス! 少し目を離したら!」
ぎゅっと抱きしめてくれたけど、フェンリルをお父様や弟達が気に入ってくれるのか少し不安。それに、魔物を王都で飼って良いのかもわからない。
そんな風に思っているのは、基本的に犬が好きだからかも。いや、わかっているつもりだよ。
犬と魔物のフェンリルは別物だって! でもさぁ、もふもふで可愛いんだもの。
「天狼星、こちらが私の婚約者のパーシバルよ。ちゃんと覚えてね!」
私の言う言葉がどのくらい理解できるのかは分からないけど、パーシバルに危害を加えたりしたら絶対に嫌だから、まずそこを押さえておく。
『番なのか?』
きゃぁ! それはまだだよ!
「いずれは結婚するわ」
天狼星は、まだ幼いみたいで首を傾げているけど、パーシバルに手を差し出させたらクンクン匂いを嗅いで覚えたと頷く。
「ペイシェンス様、私も紹介して欲しいです」
ゲイツ様が横で騒いでいるけど、勝手に何か話していたじゃん?
でも、王宮魔法師が認めてくれたら、王都で天狼星を飼っても良いってことになるかもね。
「天狼星、こちらがゲイツ様よ。すごい魔法使いなの」
師匠とは認めたくないけど、魔法の腕は凄いからね。
天狼星もゲイツ様からは、魔力を感じているみたいで、差し出された手をクンクン嗅いでいる。
『強くて美味しい魔物がいると言ったけど?』
やはり、ゲイツ様ったら、天狼星を南の大陸に連れて行くつもりなのかしら? 危険な目には遭わせたくないよ。
「ペイシェンス様、南の大陸にはドラゴンがいっぱいいると伝えて下さい」
ううん、それはあまり乗り気にならないな。
「ペイシェンス、先ずは、魔物で遊ばないように厳重に注意して欲しい!」
後ろで聞いていたリチャード王子に注意されちゃった。
「先ほども言ったのですが、どの程度伝わっているかわかりません。ワイバーンもスレイプニルもプレゼントのつもりだったみたいです」
ワイバーンのお肉、スレイプニルも確かに有難いけど、それに付属して魔物のプチスタンピートが起こるのは勘弁して欲しい。
「天狼星、お願いだから魔物と遊ばないでね! こちらに魔物がいっぱい来ると困るから」
もう一度、伝えたけど、理解してくれたかな? フェンリルにとって、魔物は美味しいご馳走みたいだから。
リチャード王子とガブリエル騎士団長の注文には応えたけど、ゲイツ様の要望はスルーしたい。なのに、それを許してくれるゲイツ様じゃない。
私が渋っているから、天狼星に直接話しかけているけど、あまり通じていないみたい。
『何を言っているのか?』
天狼星の小首を傾げている姿はモフりたい気持ちにさせるけど、これでは南の大陸でも意思疎通ができないから無理じゃないの?
「ゲイツ様、天狼星と話せないなら南の大陸には連れて行けないと思いますよ」
なのに私の言葉を聞いた天狼星は、ぴょんと飛び上がって喜んでいる。
『ああ、南の大陸にドラゴンがいると言っていたのか! 北の大地にはドラゴンがいないのだ! 北の海にはいるとお母さんが言っていたが、陸にはいないのだ。ドラゴンの肉は美味しいそうだ』
ゲイツ様の言葉も少しは通じていたみたい。
「ペイシェンス様、どうやら天狼星は南の大陸のドラゴン狩りを喜んでいるようですね」
えええっ、危険じゃない!
「天狼星、ドラゴンなんて凶暴だから止めた方が良いわ。それに、私は南の大陸には行かないのよ」
これ、大事だからちゃんと言っておく。ソニア王国にはマーガレット王女の側仕えとして同行するけど、ドラゴン狩りは御免だ。こっちに来たら仕方ないけどさぁ。
『あいつは行くのだろう! 一緒に行く!』
話はあまり通じないみたいなのに大丈夫なのかな? この件は、アルーシュ王子が拒否してくれたら助かるな。だって、天狼星に何かあって、お母さんフェンリルが怒り狂ったら凄くヤバそうなんだもの。困ったなぁ!




