銀ちゃん!
銀ちゃんがやってくる! これは、私だけでなく馬の王もバシバシ感じているみたい。
銀ちゃんだけでなくスレイプニルの群れもやってくるので、それを捕獲する為の作戦をリチャード王子を中心に考えた。
「スレイプニルが増えるのは嬉しいが、その前の魔物の暴走は困る」
私も昨夜のお偉い様のテントでの話し合いにゲイツ様に引っ張られていったんだ。
ううう、銀ちゃんのせいで肩身が狭いよ。去年に引き続きプチスタンピードなんだもの。
まぁ、ワイバーンの方が魔物が多かったけど、それも銀ちゃんが追い回して遊んだせいなんだよねぇ。
それにしても、取らぬ狸の皮算用が長い! はっきり言って、疲れているからテントで眠りたいな。
「スレイプニルの分配は、後で考えましょう。言っておきますが、これは銀ちゃんのペイシェンス様へのプレゼントですからね! そこだけはお忘れなく!」
ゲイツ様の応援はありがたいような、この事態を引き起こした責任を感じて困惑するような、微妙な気分になった。
大まかな作戦はとっくに決まっていたので、明日に備えて解散になったのは嬉しかったよ。
パーシバルと馬の王を寝かしつけてから、テントでバタンキューだった。
早朝から、今日は忙しい。ビッグバードの討伐は、王宮魔法使い達に任せて、私とパーシバルは、ゲイツ様、第一騎士団、それと乗馬の得意な学生達と共に魔物を討伐しながら、北からやってくる銀ちゃんに備える。
勿論、銀ちゃんが追い込んでくるスレイプニルを捕獲するのも目的としている。
第一騎士団のガブリエル団長とリチャード王子は、スレイプニルに乗っている。
オーディン王子は、勇者に乗っているけど、あの国の精神としては、もっとスレイプニルが欲しいみたい。知らないけどさ!
ただ一緒に行動しているキース王子がスレイプニルを欲しがっているのも理解しているから、横車を押さないと良いなぁと、甘い期待をしちゃう。
ただ、去年はスレイプニルを確保できなかったパリス王子やアルーシュ王子も虎視眈々と狙っているんだよね。
これらについては、リチャード王子達が捕獲してから頭を悩ますんじゃないのかな? こういった交渉が面倒だと感じちゃう私は、外交官に向いていないんだと思う。
スレイプニルを譲る代わりに自国に有利になるように交渉するとか、苦手だよ。
魔物の集団を討伐した後、私たちは北へと走る。
その途中の魔物もかなり多いけど、こちらに向かってくる魔物以外は討伐しないで、銀ちゃんの気配に近づくのを優先する。
「ペイシェンス様、銀ちゃんが近いですね」
それはゲイツ様に言われなくても感じるよ。去年の幼い感じよりも、少しだけ大きくなったみたい。
ううう、去年も小屋ぐらいの大きさだったのに、どれくらい大きくなったのかな?
「ブヒヒヒン!」『馬鹿狼だ!』
馬の王は、銀ちゃんの気配と他のスレイプニルの群れのリーダーの接近で、かなり神経質になっている。
それは、他のスレイプニルも同じみたい。
去年の春に、馬の王と番った雌のスレイプニルは、妊娠中なので王家の馬房で休んでいる。ここにいるスレイプニルは、若い雄馬だけだ。
若い雌馬の気配に勇者もブヒン! と興奮しているみたい。
「ペイシェンス様は、銀ちゃんを任せます!」
ああ、段々とスレイプニルの群れの気配が強くなった。それにつれて銀ちゃんの気配もね!
「銀ちゃん!」
兎に角、銀ちゃんを止めないとスレイプニルの暴走が止まらない。
私が銀ちゃんを留めておく間に、スレイプニルの群れを捕獲する作戦なのだ。
「ああ、素晴らしいスレイプニルだ!」
オーディン王子が、先頭を走ってる金色の鬣のスレイプニルにうっとりとしている。遠目だけど、八本脚ではなさそう。
スレイプニルの良し悪しは分からないけど、馬の王と張り合うぐらいに綺麗なスレイプニルだと思う。
「ブヒヒヒン!」『ボスは私だ!』
ああ、この問題もあったんだね! 私とパーシバルは、スレイプニルよりも銀ちゃん対策をメインに考えていたけど、馬の王は金色の鬣のスレイプニルにガンを飛ばしている。
「銀ちゃん! 止まって!」
ボス争いより、銀ちゃんを止めなきゃ! スレイプニルの群れを避けて進む。
去年より少し大きくなった銀ちゃん! もふもふ度が増して可愛いと思ってしまうけど、魔物で遊ぶのは禁止しなきゃ!
「パーシー様、下ろしてください」
エアクッションで下りる事もできるけど、今は抱いて下ろしてもらう。
雪の上を悠々と歩いてくる銀ちゃん!
私を見つけて『ペイシェンス!』と喜んで駆け寄る。
銀ちゃんが近づくと、馬の王は神経質になりそうだから、パーシバルに任せて、私は銀ちゃんに向かって走り寄る。
「ペイシェンス!」とパーシバルは心配そうだけど、ゲイツ様も一緒に向かってくれるから大丈夫だよ。
『ワイバーンよりスレイプニルの方が良いと言うから連れてきた』と褒めて欲しそうな銀ちゃん。
ううう、どうやって魔物で遊ぶのをやめてもらえるのだろう。
「銀ちゃん、スレイプニルは確かに嬉しいけど、魔物がいっぱいくるのは困るわ」
説明したけど、わかってくれるかは不明。
銀ちゃんを説得していると、斜め後ろにいたゲイツ様が「銀ちゃんの名前を!」と要求してくる。
「そうだったわ! 銀ちゃんって名前よりも格好良い名前にしたいと思っているのだけど良いかしら?」
銀ちゃんは、ピョンと飛び上がって喜ぶ。
『お母さんが『銀ちゃん』って名前は赤ちゃんっぽいと笑うんだ。でも、ペイシェンスがつけてくれた名前だから……』
あれは名付けると言うより、単に昔に飼っていた犬の名前を呟いただけだったんだよね。
「そうね! 銀ちゃんより格好良い名前を考えたの。天狼星よ!」
銀ちゃんは、少し考えてから飛び上がった!
『天狼星!』
どうやら受け取ってくれたみたい。
ゲイツ様は「魔物で遊ばないように言って下さい!」と後ろから催促する。
銀ちゃん、いえ天狼星は、ゲイツ様の魔力を感じ取ったみたい。
『強いな!』と興味を持ったようだけど、ここで争うのはやめて!
「天狼星、私の師匠のゲイツ様よ」
弟子入りを認めた訳ではないけど、平和的に紹介するなら、そうなるよね?
「ゲイツ様、そっと手を差し出して下さい。匂いを覚えさせるのです」
私が先ず見本に手を差し出す。天狼星がくんくんした後、ペロリと舐めた。後ろで、パーシバルが息を呑むのが聞こえた。
「天狼星、私はゲイツです」
あっ、名前の方が良かったかな? でもプリームスなんて呼び慣れていなかったから。
『ゲイツ?』
天狼星がゲイツ様に近づいて、手を嗅いでいる。
うん? 二人の間に何か絆が? パーシバルも紹介したいけど、馬の王を任せているからね。
それに、ゲイツ様と天狼星は何か話し合っているみたい。




