ワイバーンステーキは美味しいけど
昼の食事テントは、夜のワイバーンステーキへの期待で沸いているけど、その前に魔物達が続々とやってきているのを討伐しないといけないのだ。忘れていないよね?
ゲイツ様やパーシバルより先に食事を終えた私は、銀ちゃんと他のスレイプニル達が来るのを察した馬の王が神経質になっているので、宥めに行く。
「ブヒヒン!」『馬鹿狼だ!』
やはり、他のスレイプニルよりも銀ちゃんの方が気にかかるみたい。去年、追いかけ回されたからね。
「大丈夫よ! 銀ちゃんは、スレイプニルを私にプレゼントするつもりみたいだから、襲っているわけではないと思うわ」
フェンリルはスレイプニルを食べるかもしれないけど、今回は少なくともプレゼントするのが目的だよね? まぁ、ワイバーンもプレゼント? だったのかな。
過剰なプレゼントは禁止だ! うっ、何故か私の方にもダメージが……。
「それより、銀ちゃんと喧嘩しないでね! 蹴ったりしたら、大騒動になるわ」
これをちゃんと言い聞かせておかないと駄目だ。銀ちゃんにも魔物で遊ばないように厳重注意しないといけないな。聞いてくれるかな?
「ブヒヒン! ブヒヒヒヒヒン!」
『わかった! だがボスは私だ!』
ああ、そちらもあったね。スレイプニルも群れで行動するから、銀ちゃんが連れてくる群れにもボスがいそう。
「ボス争いってしなきゃ駄目なの?」
私は、野生の馬どころか、普通の馬にも興味がなかったからさぁ。貧乏なグレンジャー家は、馬車の馬もレンタルしていたぐらいなんだもの。
「ブヒヒン!」『当然だ!』
それは、ルールなら仕方ないのかな?
「怪我をしないようにしてね! それと、止めたら攻撃をやめて!」
これは、お願いしておく。私は、馬にもスレイプニルにも興味はなかったが、馬の王には愛情を持っているし、他のスレイプニルも怪我をして欲しくない。
「ブヒヒン!」『わかった!』
銀ちゃんがどんなスレイプニルの群れを連れてくるかは分からないけど、馬の王が負けるとは思わない。
だから、馬の王がボス争いで、相手のスレイプニルを怪我させなきゃ良いなと願っている。
「ペイシェンス! ここにいると思っていました」
パーシバルが食事を終えてやってきてくれた。
「パーシー様、今、馬の王にボス争いで怪我をしないようにと言いきかせていたのです。銀ちゃんが来るので少し神経質になっているみたいですわ」
などと、情報を共有するのも大切だけど、やはり婚約者が側にいるだけでテンションが上がるね。
ワイバーン戦でもパーシバルが前で護ってくれていたから、なんとか討伐できたのだ。メアリーがいるから、いちゃつかないけど、そっと手を繋ぐだけでも嬉しい。
「ああ、ペイシェンス! そうだ、昼からの討伐は休みますか?」
パーシバルも、ここに来た目的を思い出して笑う。
「いえ、午前中は休ませて頂きましたから!」
馬の王に二人乗り用の鞍を付けて、昼からの討伐にパーシバルと向かう。
「銀ちゃん! 魔物を脅しすぎよ!」
次々と押しかける魔物達の討伐で疲れた私は、北の空に向かって叫んじゃった。
「ペイシェンス様、銀ちゃんの名前を考えていないのですか?」
横で、クッキーバーを食べているゲイツ様に文句を言われた。チョコレートバーは全部食べちゃったのかしら?
「考えてはいるのですが、銀ちゃんがその名前を受け入れてくれるかどうか……」
山になった魔物を見ながら、銀ちゃんの場所を探索する。
「ああ、明日あたりにはシュヴァルツヴァルトに着きそうですわ」
ゲイツ様も北を向いて、頷く。
「スレイプニルは大歓迎ですが、大量の魔物は困りますね」
それと、スレイプニルの分配とか、リチャード王子達と話し合って貰いたい。
「今回は、デーン王国は出張っていませんから、少し楽ですね!」
ただ、スレイプニルを欲しがる人が多いのは確かなのだ。
私も、馬の王の繁殖相手がいれば、スレイプニルを領地で増やせるかもって考えちゃうもの。
それに、パーシバルにスレイプニルをプレゼントしたい。馬の王の運動係になっているけど……自分のスレイプニルも欲しいと思っているんじゃないかな?
欲望って限りないよね。ついつい、弟達にも! とかも考えちゃうんだもの。
そりゃ、他の人も欲しがるのも当然だよ。
夜のワイバーンステーキ! 前世の高級肉のサシが多い感じ。美味しいけど、私には脂が多過ぎるかな? ステーキよりもしゃぶしゃぶ? 薄切りにして、野菜を巻いて食べたら美味しいだろうな。
弟達にも食べさせてあげたい! なんて考えていたのがゲイツ様にもわかったみたい。
「ペイシェンス様、ワイバーンの料理を慰労会でお願いします!」
やれやれ、それを我が家でするのは決定みたいだね。ただ、討伐の後は、領地のワイン蔵開きを見に行きたいんだよ。
それに、卒業試験もあるし……資格試験も目白押しなんだよね。パーシバルは、下級官吏の試験を受けるそうだ。私も文官コースだから、受ける資格はあるんだけど……考え中!
冬休みにマーガレット王女のソニア王国訪問に付き添う事が決まっているから、女官試験の方が側に居やすいのか? それとも、パーシバルと一緒に外交官の下働き役の方が良いのか? パーシバルは、下級官吏推しだけど……外交官に向いていないと段々わかってきたんだよね。
大学では、領地管理と薬草学と植物学を学びたい。錬金術もやりたいけど、グース教授は避けたいから無理! 薬草学も植物学も突き詰めれば領地を豊かにする為なんだよね。
それと、シャンプーやリンス、それに化粧品などを作る知識も欲しい。
領地でオリーブを栽培するから、それを使った石鹸とかできそうなんだよね! ラベンダーとか、良い香りのハーブを空き地に植えても良いしさ! 海藻を焼いた灰もゲットできる。前世でギリシャ辺りの海藻とオリーブの高級石鹸があったような?
まぁ、それは王都に帰ってから、お父様に相談しよう! 多分、私の考えで受けたら良いって言われそうだけどね!
あっ、下級錬金術師の資格は欲しいね! 生活の便利グッズを作って販売したいからさ。
などと、私は自分の悩みで他の人の思惑なんて知ろうともしなかったけど、夕食後のお偉い様のテントでは、スレイプニルをどうするのか紛糾していた。




