ワイバーンがやってきた!
大雪は、魔物も人も閉じ込めた。もちろん、パトロールをする人もいるけど、学生組は待機だ。
ゲイツ様は、ローレンス王国の中では寒がりだ。私以外に「寒い、寒い!」と文句を言っている人を見ないから、他の人は寒いとは思っても平気なのかな?
「ペイシェンス様、テントの温風機を見せてください」
女子テントの中は、温風機のお陰でぬくぬくだ。魔法使いのテントは、寒いんだろうね。
「ええ、ゲイツ様なら作られると思いますわ」
錬金釜があれば錬金術クラブメンバーも楽勝だけど、ここにはないからね。
「明日には、ワイバーンが到着しそうですから、ペイシェンス様はゆっくりと休んで下さい」
お言葉に甘えて、馬の王のご機嫌をとる以外は、ゆっくりとテントで過ごす。
かなり疲れが溜まっていたので、よい休憩になったけど……やはり、ワイバーンが来るのが皆にプレッシャーを与えているみたい。女子テントのメンバーも騎士組以外は、大人しく休憩している。
リンダとジェーンとハナは、ユージーヌ卿に一回だけパトロールに連れて行かれたけど、大雪ですぐに戻ってきたよ。
「今日は討伐は無理だな! 明日は、指導の騎士の命令に従うこと!」
雪だるまになって帰ってきた人達に、私や魔法使いグループは、温かいお茶を出した。
「ペイシェンス様、ありがとう」
温かなお茶を飲んだ人心地ついたリンダ達にお礼を言われたよ。
ユージーヌ卿は、騎士達との打ち合わせに行っちゃったけどね。全員で、身体を休めておく。
夕食もパーシバルと早目に食べようと約束していた。
「今夜は、煮込みだと嬉しいわ」
寒いから、焼肉より煮込みの方が温まる。
「またゲイツ様にスープを頼まれるのではないでしょうか?」
キャベツの塩漬けの樽を二つ持ってきているけど、この前、かなり使ったんだよね。
大鍋、一つで良いんじゃないかな? と思って作り始めたけど、料理番の人達に「絶対に足りないですよ!」と言われて、二鍋にしたからね。
樽一つは丸々残っているけど、もう一つは三分の一もあるかどうか。
「それは、メニューを見てから決めましょう」
実は、焼肉に飽きている。野菜が食べたいんだよね。
ラッキーなことに、今夜は煮込みだった。大雪で皆も寒いから。
パーシバルと早目に約束していて、良かったよ。後になると、煮込みは品切れになるからね。
「明日は、ワイバーン戦ですね。ペイシェンスは、私が護ります」
馬の王のブラシを掛けながら、パーシバルと話す。
「お願いしておきます」
うん、良いムードなんだけど、馬の王がちょっと神経質になっている。
「ブヒヒン、ブヒヒン! ブヒブヒ!」
『スレイプニルが来る! 馬鹿狼も!』
やれやれ、ワイバーン戦の後は、銀ちゃんがスレイプニルを追いかけて連れてくるから、他の魔物も爆走していそう。
「大丈夫よ! 銀ちゃんには厳しく言い聞かせるから」
二度と魔物で遊ばないように言わないといけない。ただ、言うことを聞いてくれるかしら?
「お嬢様……早くお休みにならないと」
まぁ、明日のワイバーン戦、私は体力が持つかが心配なんだ。飛行すると、身体強化で真っ直ぐに体幹を維持しなきゃいけないんだけど、体力がガンガン削られる感じなんだよね。
「ペイシェンス、身体を休めて下さい」
パーシバルに女子テントまで送ってもらう。
「ああ、雪が止みましたね!」
基地キャンプの中は、風の魔法持ちや騎士達の人海戦術で雪かきはしてある。
「ええ、星が綺麗ですわ」
二人で良いムードになるけど、明日の為に早く眠らなくては! とは言え、お休みのキスぐらい良いよね!
次の日の朝は、快晴だった。ビッグバードの巣は、王宮魔法使い達が回ってくれるそうだ。
朝食が終わったら、お偉いさんのテントに集合。
「おはようございます! ペイシェンス様、ワイバーンの位置がわかりますか?」
最初っからゲイツ様に質問されて、ちょっと驚く。
「ええ、朝起きた時に探索してみましたわ。まだかなり距離があるみたいですが……」
話している間から、チッチッチって指を立てて振っている。
「基地キャンプの遠くでワイバーンを討伐しないと、地上の魔物討伐とかち合いますからね。地上の討伐は任せて、さっさと討伐に向かいましょう!」
まぁ、それはそうだけど……やはりワイバーン戦は緊張しちゃう。
パーシバルにソッと抱きしめて貰うと、少し安心する。
なるべく北でワイバーンを討伐したいので、メンバーが集まり次第に馬で北を目指す。
「本当なら、ワイバーン戦の後に馬車で帰りたいのですが、魔物も暴走して来そうですからね」
それってスタンピードって言うんじゃないの? まぁ、魔物の暴走で馬車が無事に済むとは思わないから、帰りの乗馬も仕方ない。
「ここら辺で良いでしょう。ベリンダと従者達で、馬を魔物から護って下さい」
馬の王は、置いていかれるのが少し不満そうだけど、空は飛べないからね。
「良い子にして待っていたら、ご褒美をあげるわよ」
ベリンダに馬の王が我儘を言った時に、コソッとキャロットケーキを渡しておく。
「どうかご無事に! 来年までには飛べるようにしておきたいです」
やる気満々のベリンダだけど、来年はワイバーンが来ないと良いな。
ワイバーンの位置をソナーを飛ばして確認する。王宮魔法使いもゲイツ様とサリンジャーさんに命じられて頑張っている。
「ええっと……えっ! ワイバーンが多い気がしますわ」
ゲイツ様は二十一羽と言われていたけど、二十四羽いそう。
「ああ、増えているのか? それとも私も重なっているワイバーンを読み間違えたのか?」
第一騎士団長が厳しい顔になるけど、ゲイツ様は気にしていない。
「飛行隊のメンバーに一羽ずつ、それに討伐隊に一羽。陛下に一羽献上して……後は、討伐した者が……ペイシェンス様、私の取り分は差し上げますから、ワイバーン料理をお願いします」
もう、ワイバーンを食べる事しか考えていないみたい。余裕のあるゲイツ様には安心するけど、料理するのはエバなんだよね。
パーシバルと顔を見合わせて笑ってしまう。




