皆を鼓舞する曲!
私とパーシバルが討伐から戻ったら、話し合おうと決意していると、ゲイツ様が立ち上がる。
「さぁ、ひと休憩したので、魔物を減らしに行きましょう。夜もおちおち眠れないと、皆も疲れが溜まるでしょうから」
えっ、これから? 秋も深まっているから、かなり夕暮れているのだけど。
「サリンジャー、王宮魔法使いを呼びなさい。休憩は取れたでしょう」
うん? どうせまた討伐に出るなら、一緒に休憩していたら良かったじゃん。
あああ、やはりケーキの取り分が減るのが嫌だったんだ! 二つ食べていたよね! ゲイツ様の部下にはなりたくないよ。
「ほら、ペイシェンス様ももう少し頑張りましょう!」
えっ、私も? 当然のように手を差し出されたけど、暗くなりそうだ。
「馬車で北部まで行き、そこから日が落ちるまで、飛行して魔物をなるべく多く討伐します」
ベリンダが付き添いだけど、パーシバルと別行動なのが寂しい。話し合いたいのに、すれ違いになりそう。
他の王宮魔法使い達も馬車で移動して、シュヴァルツヴァルトの北に止まった。
「ベリンダは、ここで従者達と馬を護って下さい。なるべく逃さないつもりですが、何頭かはやってくるかもしれません」
そこから北に向かって飛び、目につく魔物を徹底的に討伐していく。
王宮魔法使い達が、高度を保てなくなり「馬車に戻りなさい!」と叱られた。
「あと、もう少しやっつけておきましょう!」
ゲイツ様が大規模な魔法を放ち、自然破壊を起こしたよ。
魔物と一緒に樹々も引き裂かれている。こちらでは、樹の成長も早いし、中にはトレントもいたのかもしれないね。
私とサリンジャーさんで、大規模な魔法から逃れた魔物を討伐して終了。
「このくらい討伐しておけば、夜の間は大丈夫でしょう。見張りは立てるでしょうが、夜中の襲撃はごめんですからね」
今回の魔物の回収は朝になる。それにしても、疲れた。夕日が沈みかけているよ。暗くなると、寒さが身に染みる。
馬車の周りに二頭のビッグボアが。ベリンダが討伐したのだろう。
「ペイシェンス様、明日の朝は、少し早く起きてビッグバードの討伐をしてから、大規模な魔物討伐作戦になります。ゆっくりと休んで下さい」
基地に戻ったら、トイレを済ませて、食事だ。今日は、一番好きな甘味噌ソースにしよう。
あっ、フィリップスやラッセル達もカエサル達と一緒にいる。ふぅ、パーシバルは、まだ騎士達と一緒に行動しているみたい。見当たらないよ。話し合いたかったなぁ。
「ああ、ペイシェンス! 文官コースの学生達がワイバーンに怯えているのだ」
ラッセルに声を掛けられた。フィリップスが慌てて「怯えてなどいない!」と抗議しているが、何か悩んでいるみたいに顔色が優れない。
「やはり、騎士コースや魔法使いコースの学生より、文官コースの学生は討伐も上手くできないようなのだ」
ラッセルは、学生会長として心配している。
カエサルも中等科一年生のミハイルとマックスを心配しているみたい。
「騎士コースは、指導系統もキチンとしていますし、魔法使いコースも今年は王宮魔法使いが指導しているみたいですわ。文官コースも騎士が指導すると聞いていたのですが?」
確か、そう聞いたよね! ラッセルが苦笑している。
あああ、思い当たるよ! ワイバーンが来るから、他の魔物もやって来ている。指導の騎士達も、文官コースの学生の指導どころではないのだ。
「ラッセル様、このままではいけませんわ。ちゃんと、指導の騎士をつけて頂きましょう」
錬金術クラブも、魔法使いコースだけど、魔法クラブとは違うから、文官コース扱いだ。
今年は、魔法クラブは、アイラ部長を中心に討伐数を増やしているから、若い一年生は気にしているのかも。
「ペイシェンス、何か元気づけてくれないか?」
カエサルに言われて、ピンときた。前世の大好きだったロックグループの逸話を真似しよう。
「皆様、私と一緒に足踏みと拍手をして下さい!」
脚を片足ずつ踏み鳴らし、手を叩く。これを何度も繰り返す。良いリズムになってきた。
歌詞は、かなり作り変えたけど、名曲を歌う。
「さぁ、皆様も! 一緒に歌いましょう!」
『俯いて、挫けている男の子! 顔を上げろ! ワイバーンなんか怖くない! 私達は負けない!』
そんな歌詞を初めは、錬金術クラブ、文官コースの学生で歌っていたけど、食事場の全員で合唱していた。
あらら、パリス王子やキース王子、オーディン王子も一緒に合唱している。
ここまで来たら、これしかないでしょう!
「肩を組んで、歌ってください。私達は勝者! なにものにも負けない! ワイバーンにも、ドラゴンにも! 最後の一人になろうと、顔を上げて戦う。私達は勝者だから!」
もうパクリまくりだけど、凄く元気にはなったよ。皆も簡単な歌詞だから、肩を組んで歌っている。
あああ、パーシバルが騎士達と戻ってきて、大合唱に驚いている。騎士コースや魔法使いコースの学生までも合唱しているんだ。呆れられたかも。
「ペイシェンス! これは凄いぞ! 軍を鼓舞するのは、優れた将軍の条件なのだ!」
一緒に来たリチャード王子に、褒められたけど、将軍は目指していません。
「パティ、素晴らしいです!」
パーシバルに抱きしめられた。それで幸せだから良いよ。ちょっと疲れたけどね。
ついでだから、ガブリエル騎士団長に文官コースの学生たちの指導をちゃんとして欲しいとお願いしておいた。
ゲイツ様達は、急いで食事をして、明日の集団討伐の話し合いだ。
私は、馬の王のご機嫌を取りに行きがてら、パーシバルと話し合おう。
「明日は、朝早くからビッグバード狩りをして、その後は集団討伐ですね」
色っぽい展開は、最初から望んではいなかったけど、パーシバルは討伐のことで頭がいっぱいみたい。だから、私達の事は、後回しになっちゃう。
それに馬の王の様子も変なんだよね。
「ブヒヒヒヒヒヒヒヒン!」『スレイプニルの群れだ!』
えっ、銀ちゃん、本気でスレイプニルを連れてくる気なの?
パーシバルがいつもよりも神経質な馬の王の様子を心配している。
「もしかして……」
馬の王は、銀ちゃんのことが嫌いだから、伏字にしなきゃね。
「ええ、多分……本当にスレイプニルを連れてくるとは考えていませんでしたわ」
馬の王にとっては、同じ群れの相手より、他の群れのスレイプニルの方が良いのかも。パーシバルが真剣に考えている。ただ、群れのリーダー同志って仲良くなれるのかしら?
二人で、少し神経質になっている馬の王にブラシを掛ける。『綺麗になれ!』で常にピカピカだけど、ブラッシングは好きみたいだ。
うとうとしてきた馬の王の側を離れて、女子テントまで送って貰う。
「パーシー様、私が色々とやらかしているのご迷惑ではないでしょうか?」
パーシバルは笑って抱きしめてくれた。
「とても刺激的で、退屈とは無縁です。でも、やらかす前に相談して頂けるとありがたいです」
それは、約束しよう! 二人で指と指を絡めて約束した。ちょこっとキスもしたけどね。
メアリーが大きな咳払いしたので、一瞬だけだったよ。




