ワイバーン討伐練習
昼からは、飛行部隊の実戦練習だ。選ばれたユージーヌ卿は、女学生達の指導を他の騎士に引き継いでいる。
お偉いさんのテントでパーシバル、ゲイツ様、サリンジャーさん、王宮魔法使い三人と飛行部隊が揃うのを待っている。
アルーシュ王子も参加予定だけど、ザッシュを連れて来た。
「ゲイツ様、ザッシュも参加させて欲しいのです」
そう言えば、ザッシュも夏休みの合宿に参加していたね。
「南の大陸では、竜の谷から魔物が溢れているのです。お願いします!」
ザッシュも真剣に頼むので、ゲイツ様は了承する。
「そうですね! 竜の繁殖期なので、バラク王国も攻撃力アップをしなくてはいけないでしょう。アルーシュ王子に守護のマントを貸しましょうか?」
他国の王族の留学生だからね。怪我とかしたら、問題だとゲイツ様も考えたのかしら。
「いえ、私には守護の指輪がありますし、ザッシュにも貸し出しますから大丈夫です」
うっ、やはり手に取って調べてみたいよ! でも、マナー違反だから我慢する。ううう、うずうずしちゃう。
「ザッシュを討伐に参加させるお礼として、討伐が終わってからで良いですが、守護の指輪をペイシェンス様に見せてやって下さい。彼女は、それが気になって仕方ないみたいなのです」
アルーシュ王子は、初めて会った時も気にしていたと、笑って許可する。やったね! ずっと気になっていたんだ!
王宮魔法使いには、ゲイツ様は厳しいけど、ユージーヌ卿には優しい。
「私の守護のマントを貸しましょう」と提案したが、サリエス卿が先に提供していた。戻ったら、ユージーヌ卿に守護のマントを作ろう! 結婚祝いとしては、微妙だけど、きっと凄く喜ばれるよ。
「男にマントを貸し出す気はありませんが、ペイシェンス様は従兄弟が怪我をしたら気にされるでしょうから、これを付けて戦いなさい」
私が作った少しヘンテコな守護の指輪をサリエス卿に差し出している。マントは駄目で、指輪は良いの? ゲイツ様の感性が理解できないよ。私的には、マントの方が貸しやすいと思うんだけどさ。
うん? アルーシュ王子にはマントを貸そうと言っていたじゃん! 変なの!
あれっ、ガブリエル騎士団長は? と心配したけど、リチャード王子が陛下に献上した守護のマントを貸している。やはり、ワイバーンは強敵みたいだね。
「パーシバルに非常識な盾を持って来させれば良かったですね……えっ、持って来ているのですか? ううん、パリス王子やオーディン王子もいるから、本当は使うのは拙いのですが、私から貰ったと言いなさい!」
うっ、私の誕生日プレゼントだけど、そんな事を言っている場合ではない。
パーシバルが怪我をしない方が重要なのだ。
「ペイシェンス様、この盾の魔法陣の隠蔽ができるようになれば、騎士団に配備したいぐらいなのですが……難しいですね」
浮く魔法陣は隠蔽できたのに、卵の浄化の魔法陣も隠蔽できていない。うん? もしかして、私が考えたヘンテコな魔法陣が駄目なのかしら?
「ふぅ、ペイシェンス様にもっと魔法陣を勉強して頂きたいですが、過去の魔法陣に拘っていたら、新たな魔法陣が作れなくなるかもしれない。難しいですねぇ」
そんな事をゲイツ様と話しているうちに、パーシバルもバリア盾をテントから持って来た。
何処に隠していたのかしら? 武具箱? かなり大き目の武具箱じゃないと駄目だと思うけど、女子テントの騎士達もマットの足元に武具箱を置いてあるから、変では無いのかもね。
「空を飛んで魔物を討伐します。今日の魔物は、地面にいるので討伐は楽ですが、フォーメーションの練習ですから、自分の持ち場のチェックをして下さい」
机の上にサリンジャーさんがフォーメーションの図を広げる。
王宮魔法使い達は、後方だ。守護魔法のマントをつけていないからね。
私は、ゲイツ様とサリンジャーさんの間だけど、中央じゃん! 騎士関係は、遊撃隊扱い。 魔法より剣の方が近距離で攻撃力があるからね。
「まぁ、一度、これで試してみて、改良点を探しましょう。パーシバルは、遊撃隊ですが、ワイバーン戦の時は盾役になります。今日は、盾の使い方の練習をメインに考えながら、討伐して下さい」
あっ、リチャード王子が凄く参加したそうな顔だ。でも、ゲイツ様に「飛びながら攻撃できない人は参加できません!」とビシッと釘を刺されている。
飛べるの? とチラリとパーシバルの顔を見ると、苦笑する。
「第一騎士団が、飛ぶ練習をしていたら王宮から丸見えですからね」
まぁ、そうだよね。でも、飛べても、そこから攻撃できないと駄目なんだ。
「来年までには、飛行隊に参加できるように修業します!」
グッと拳を握り締めているリチャード王子。リュミエラ王女とデートする時間は、確保してあげて欲しいよ。
「では、討伐場所まで移動しましょう!」
今日も馬の王で移動だ。
あっ、銀ちゃんの気配がしない。きっと北の大地でスレイプニルを探しているんだろう。そのまま、北の大地を走っていた方が良いと思うよ。
「ペイシェンス様、銀ちゃんは近くにいないのですね? ワイバーンは、やはりこちらにやって来そうです」
ゲイツ様は、ワイバーンの動きは察知できるのに、銀ちゃんは分からないんだ。
「私は、ワイバーンの動きはわかりませんわ」と言ったら、叱られた。
「ペイシェンス様! 領主となられたのに呑気ですね! 魔物から領地を護るのも領主の仕事ですよ」
それは、そうだよね! 反省して、何とかワイバーンの動きを察知しようとソナーを飛ばす。
「ペイシェンス、普通の領主はそんな事できないぞ! まぁ、できた方が良いだろうが……ゲイツ様の後継者ならできなきゃいけないよな!」
サリエス卿に指摘されて、騙された! と一瞬ソナーを飛ばすのをやめようと思ったけど、続ける。
体力的に自信がない領主だけど、魔物とかに備える事は、ちゃんとしたい。
それに、嵐を感知できるようになったら、災害に備える事もできると思う。ソナーでそれができるかは分からないけどさ。
「ふむ、やっとペイシェンス様にも後継者になる自覚が芽生えてきたようです」
ちょっと腹が立っているから、ゲイツ様は無視する。
ソナーを北の空に向かって飛ばしていると、大きな塊がこちらに向かって飛んでいる。
「大きな塊があるわ!」と告げると、ゲイツ様も探索をする。
「ペイシェンス様、もっと探索の精度をあげるのです。その大きな塊にはワイバーンは何羽いますか? どちらが正解に近いのか賭けましょう!」
あっ、またチョコレートバーを取ろうとしている。負けないぞ!
精度を上げるって、どうすれば良いのかしら? 今は、ソナーを飛ばして、何か障害物があるのを探す感じだけど……大きな塊は、多分、ワイバーンの群れだよね。
魚群探知機って、数まで分かるんだっけ?
ソナーを飛ばして、何かに当たれば、そこにワイバーンがあるって想定するのだけど、反射するのを数えれば良いのかな?
「ええっと、十八羽だと思いますわ!」
ちょっと自信ないけど、そう言ったらガブリエル騎士団長が「そんなに多いのか!」と驚いている。
アルーシュ王子とザッシュも顔を引き締めている。
「えっ、反射した数だから、ワイバーン以外もいるかもしれませんわ」
弱気になった私をゲイツ様が笑う。
「そんな騎士団長に忖度する暇があったら、もっと精度を上げなくてはいけません。二十一羽です! 重なっているワイバーンを見落としているでしょう!」
全員が「二十一羽!」と騒つくが、そろそろ従者たちが魔物を引き連れてやってくる。
「練習ですから、焦らなくても良いですよ! 先ずは、フォーメーションを崩さないように飛びましょう!」
ゲイツ様の号令で、空へと舞い上がる。従者達の後ろから、魔物が爆走している。
「多過ぎませんか?」サリンジャーさんも、少し困惑しているが、ゲイツ様は強気だ。
「このくらい目を瞑っても討伐できます! さぁ、討伐開始!」
いや、目を瞑っていたら、難しいと思うよ。でも、サッサと討伐しよう! パーシバルは、きっとこの後も馬の王の爆走に付き合わされるのだろうから、早く終わらさないと疲れるよね!
最初から吹っ飛ばした。レーザービームで横一列を上から討伐する。
「おお、ペイシェンス様、気合いが入っていますね! 私も負けませんよ」
ゲイツ様は、常に負けていないじゃん! 騎士達も上から攻撃をしているけど、ゲイツ様、サリンジャーさん、私が逸らしたのを倒していく感じだ。
アルーシュ王子、ザッシュも騎士達と一緒に飛び回っている。
バンバン、魔法を飛ばして、討伐完了! ぜぃぜぃ、疲れたよ。
「ペイシェンス様、凄いです!」
うん? ユージーヌ卿に褒められたんだけど……えええ、やり過ぎた!
「このくらい討伐できたら、私の後継者に指名しても、誰も文句は言わないでしょう!」
ゲイツ様と同じぐらいの大山になっている。
「違うんです! この後、馬の王が走りたいと我儘をパーシー様に言いそうだから、早く討伐を終えようと考えただけなのです!」
パーシバルは、爆笑している。
「ペイシェンス、私に勝ちを譲ろうと、討伐の手を緩めたりしないで下さい。勿論、体調管理も必要ですが、かなりセーブされているでしょう」
「まさか! そんなことはしていませんわ!」
でも、サリエス卿もユージーヌ卿もガブリエル騎士団長も笑っている。去年より少ないのは確かなんだ。
「優れた魔法使いが騎士より討伐数が上になるのは当たり前なのです。騎士には、騎士の戦い方があり、防衛力の低い魔法使いを護る使命もあるのです」
ガブリエル騎士団長の言葉に、私以外の全員が頷いているから、そうなのかもね。
「ペイシェンスは、私が護ります!」
パーシバルに抱きしめて貰うと、ワイバーンなんか、ビッグバードの親方程度に思えちゃうよ。




