女学生チームと!
昼からは、アイーシャ王女、ルーシー、アイラとゲイツ様と私は馬車で移動だ。パーシバルとサリンジャーさんとベリンダは、馬だ。
馬車の座席はホカホカクッションになっているけど、やはり寒い。
私は、ゲイツ様の横。アイーシャ王女、ルーシー、アイラの三人が一緒に座っている。アイーシャ王女がゲイツ様と座るのが、本来のマナーでは正しいと思うけど、何故かこうなっている。
「ゲイツ様、ソニア王国はローレンス王国より寒いのでしょうか?」
これ重要だから質問する。こちらの地理は、気候とかはあまり詳しく学ばないんだもの。
「ペイシェンス様、地図で見たらわかると思いますが……ローレンス王国とほぼ同じか少し北になりますから、寒いですよ。こんな寒い時期に訪問しなくても良いと思うのですが……」
あっ、やっぱり分かっていない!
「緯度は同じぐらいでも、内陸と海の近くでは気候は違うからお聞きしたのに……兎も角、寒いのですね!」
ソニア王国までの馬車の旅、ゲイツ様が揺れない馬車を下さったけど、寒い中を一週間も旅をしたくない。
ペイシェンスは身体が弱いから、風邪をひきそうなんだもの。元ペイシェンスは、風邪を拗らせて亡くなったんだよ。
「前に火鉢を馬車に乗せた貴族がいましたが、馬車が燃えてからは禁止になったのです」
それは危険だと思う。ゲイツ様もローレンス王国の人の中では、寒さに弱いタイプだし、マーガレット王女の護衛を兼ねてのソニア王国訪問が心底嫌みたい。
まぁ、母親のベネッセ侯爵夫人が一緒なのも窮屈だと思っているのかもね。私的には、とても安心だけどさ。
昼食後、馬車に揺られると眠くなる。メアリーが一緒だと寄りかかれるけど、横はゲイツ様だから寝てはいけない。
眠気覚しに、前世の電車の暖房はどうなっていたのかを考える。ゲイツ様の横だから、慎重に精神的なバリアを強化しながらね。
座席に座っていたら、足元から暖かな風が出ていて、帰りの電車だと眠くなって困ったんだ。
「ああ! 馬車の座席の下に温風機を設置したら、暖かいと思うわ!」
うとうとしないように、どうやったら快適に旅行できるか考えたんだよ。
「テントで使っている温風機ですか? 討伐から帰ったら一度見せて下さい!」
「ええ! 座席の下に温風機を設置して、空気が通る格子も付けなくてはいけませんわ」
ゲイツ様が「格子はラドリーに作らせましょう!」と言うけど、あの方は王宮建築士なんだけど? 馬車のメーカーにさせたら良いんじゃないの?
あっ、女学生組に呆れられている。
「ペイシェンス様は、本当に錬金術がお好きなのですね。あの温風機のお陰で、テントの中が暖くて快適なのは、感謝していますが……魔法クラブに入って頂きたかったですわ」
魔法クラブの元部長、ルーシーに残念そうに言われた。暖かくて良いじゃん!
「ルーシー様、魔法クラブも負けずに頑張ります!」
魔法クラブの現部長、アイラの言葉に魔法クラブメンバーのアイーシャ王女も「頑張りましょう!」と手を繋いでいる。
そういえば、この中で私だけが錬金術クラブなんだ。ゲイツ様もサリンジャーさんも魔法クラブのOBだしね。
あっ、パーシバルも魔法クラブじゃないよ! 騎士クラブだから!
馬車が従者達が魔物を追い込む場所に着いた。パーシバルが降りるのをエスコートしてくれる。勿論、紳士だから他の女学生にも手を貸している。
「パーシー様、魔法クラブには負けないように頑張りましょう!」
パーシバルは、一瞬、意味が分からなかったみたいだけど、周りを見渡して爆笑した。
「ええ、魔法クラブに負けないように一緒に頑張りましょう!」
ベリンダは、王立学園に行っていないけど、騎士クラブよりだよね。だから、同じチーム!
まぁ、王宮魔法師のゲイツ様、ナンバーツーのサリンジャーさんには、勝てそうに無いけど、気持ちは負けないよ!
「では、こちらの魔法クラブチームが勝ったら、ケーキを下さい!」
うっ、勝てる気がしないけど、ここで引くのは腹立たしい。だって、ゲイツ様は、勝つと決めて、どのケーキにしようか悩み中なんだもの。
「ええ、宜しくてよ! ただし、OBの参加は認めません! こちらが勝ったら、ブラウニーを頂きます」
これなら、勝ち目がありそう。
「ブラウニー! 美味しいから、一日、一個と決めて、楽しみに食べているのに! 私とサリンジャーを外すだなんて、卑怯です」
パーシバルとサリンジャーさんは、爆笑している。あっ、また令嬢らしくない態度だったかな?
「えええ、ペイシェンス様とパーシバル様に勝てるとは思えません!」
ルーシーの悲鳴に、ゲイツ様が叱咤激励している。
「魔法クラブの元部長と現部長が情けない! あっ、OBが不参加なのなら、ベリンダの討伐数もダメですよ」
「ゲイツ様が、魔法クラブメンバーをしっかり指導されたら、勝ち目がでます。私は、免れた魔物を討伐しますから、どちらもご存分に!」
ああ、やはりサリンジャーさんは、アイーシャ王女達を、ゲイツ様にちゃんと指導して欲しかったんだ。
ゲイツ様は、真剣に三人に指導しそうだから、こちらも負けていられない。
「パーシー様、頑張りましょう! オー!」
二人で向かい合い、手を合わせて気合いを入れる。
ドドドドドと、魔物を引き連れた従者たちがこちらへ向かってくる。
ルーシー、アイラ、アイーシャ王女が少し緊張しているみたい。
「皆様、魔法が外れたとしても、ゲイツ様とサリンジャー様が討伐して下さいますわ。だから、気楽に魔法を撃てば良いのよ!」
パーシバルが横で笑っている。敵を激励しちゃったね。
でも、去年、隣でゲイツ様やサリンジャーさんが撃ち損じた魔物を倒してくれていたから、安心して討伐できたんだ。
「ええ、そうですわね!」
ルーシーがやる気満々だ! 他の子も気合いが入っている。こちらも頑張ろう!
うっ、ゲイツ様、それは反則では?
「ほら、アイーシャ様、あのビックボアの首にファイヤーアローです。ルーシーはあちらのビッグエルクにエアカッター! アイラは、右のビッグエルクにファイヤーアロー!」
細かく指示を出している。
私とパーシバルは、うまく連係が取れていないから、同じ魔物を討伐したりしている。
「このままでは負けてしまいますわ! 私は左から魔物を討伐します。パーシー様は右からお願いします」
ふふふ、この作戦はかなり良い感じ! こちらの勝ちだ! と思ったのに、ゲイツ様、三人を飛ばすなんて反則だよ!
「ほら、魔物の上からなら効率的に討伐できます」
アイーシャ王女は、飛行訓練していないけど大丈夫なの? なんて、心配している場合ではない。
「私達も飛んで討伐しましょう! 先にあちらに討伐されてしまいます」
パーシバルも第一騎士団で、飛行訓練をつんでいる。
それに、確かに空からの方が討伐し易いんだ。
目に見えた魔物は、討伐完了! ホッとしたよ。
『うん? 銀ちゃん?』
ホッとした瞬間、銀ちゃんの鳴き声が聞こえた気がする。
耳をすませて確認しようとしたけど、何も聞こえない。
「ペイシェンス? 討伐は終わったから、降りましょう」
パーシバルが、空に留まっている私に手を差し出す。
「ええ……」
気のせいだったみたい。パーシバルの手をとって、地面に降りよう。
空からの方が確かに効率的だけど、すごく疲れるよ! パーシバルが抱き止めてくれなかったら、雪の上に座り込んでいた。
ルーシー達もクタクタみたい。
「こんな時こそ、チョコレートバーですよ」
ゲイツ様は、後片付けはサリンジャーさんとベリンダと従者達に任せて、チョコレートバーを食べている。
私達も食べよう! 私は、一番好きなドライイチゴビスケット、パーシバルも疲れたのかナッツビスケットを選んでいる。
ルーシー達も食べながら、討伐数を気にしている。私は、どちらでも良い気分。
どうせ、ゲイツ様からブラウニーを貰っても、女学生達の指導料だとかごねられてチョコレートバーを取られる気しかしないんだもの。
「ペイシェンス様が三十二頭、パーシバル様が二十八頭、ルーシー様が十二頭、アイラ様が十一頭、アイーシャ様が十頭ですね。ペイシェンス様とパーシバル様の勝ちです!」
あっ、ゲイツ様が素知らぬ顔で馬車に乗ろうとしている。
「ペイシェンス様、パーシバル! 私とサリンジャーとベリンダが、十頭近くも討伐しています。もっと精度をあげなくてはいけません!」
あっ、意地汚いから文句をつけて、ブラウニーを差し出さないつもりなんだ。
「ペイシェンス様、負けは認めますよ。ブラウニーを二つあげましょう。指導料のチョコレートバー三本と交換です。三人を飛ばすのは、やはり疲れましたが、これは有効ですね!」
それは、サリンジャーさんも頷いている。
「飛べるメンバーで討伐しましょう!」
えっ、アイーシャは飛べないけど?
「実地訓練したら良いだけですよ。補助はしますから」
まぁ、ゲイツ様が補助するなら大丈夫なのかもね。




