ケチャップソースは何と合わせるべきなのか
「昼からは、ビッグバード狩りかしら?」
「いえ、もう巣を飛び立っているから、他の魔物かもよ!」
「何にせよ、これからが本当の魔物討伐ですわ!」
浮かれている三人と焼肉を貰って席につく。アイーシャ王女は、激辛は苦手だと言っていたけど、ピリ辛ソースだよ。
基本的に南の大陸はスパイシーな料理だから、一番食べやすいのかもね。
ルーシーとアイラは、一緒にソースを使うみたいで、サッパリソース。
私は……これはH&G商会では、まだ売っていないケチャップソース! 味変なら、これでしょう! 来年の夏にトマトをいっぱい領地で収穫したら、ケチャップソースも売り出そう。
「ペイシェンス様! その赤いソースは激辛ですか?」
ああ、ゲイツ様が煩い。
「いえ、トマトベースのソースですわ」
パーシバルの箱には入れておいたよ。ゲイツ様は、ソースはH&G商会でいっぱい買ったから入れてなかったけど……失敗したかな?
各自、ソースを持って来たのに、私のケチャップを掛けそうなんだ。無くなっちゃうよ。
焼肉にケチャップ、ちょっと甘酸っぱくて、美味しいよね! それに、パーシバルのサッパリソースに合わせても美味しいんだ。
「パーシー様、少し掛けてみますか?」
パーシバルは、私の料理のセンスは信じているから、素直に掛けて食べる。
「ああ、これは良いですね!」
そんな事を言ったら、黙っているゲイツ様じゃないけど、今掛けているのって甘味噌ソースだよね。
「ペイシェンス様、そのソースを貸して下さい」
「いえ、甘味噌ソースとは合わないと思います」
そう言ったら、秒殺してお代わりを貰ってくる。そして、再度のおねだりだ。
「まぁ、アイーシャ様、ルーシー様、アイラ様をしっかりと指導して下さるなら」
そう言って渡したら、ドバドバ掛ける。
「美味しいです! うん? でも、パーシバルのソースと合わせても美味しいと言われたのですよね」
パーシバルは大人だから、ソースを差し出す。
「うん、やはりペイシェンス様の料理のセンスは天才です! ケチャップソースだけでも美味しかったですが、サッパリソースと合わせたら、より美味しいです」
天才ゲイツ様から、料理のセンスは天才だと褒められたけど、微妙! だって、突撃晩御飯とか嬉しくないもの。
「ペイシェンス様……」とルーシー達も期待した目なので手渡すよ。
「それ、ピリ辛ソースとは合いませんか?」
アイーシャ王女のピリ辛ソースとの相性は良さそう。
「いえ、ピリ辛ソースとも相性が良いと思いますわ」
アイーシャ王女は慎重派なのか、お肉に直接掛けず、皿にケチャプソースを掛けて、お肉に付けて食べる。
あっ、バラク王国の食事の仕方も、大きな葉っぱの上にご飯を取って、料理と一緒に食べる感じだったね。
「ああ、これは凄く美味しいです!」
そんな事を言ったら、ゲイツ様が黙っていない。三皿目をお代わりしてきて、アイーシャ王女にソースを強請っている。
「指導するのだから、ソースを掛けても良いですよね」
あっ、サリンジャーさんが怒っているけど、アイーシャ王女は大勢で食事をするのに慣れているから、どうぞと差し出した。
「あっ、これが一番好きですね!」
「しっかりと指導して下さい!」
サリンジャーさんが釘を刺して、昼食は終わった。
女子テントに戻る前に、パーシバルに謝る。さっき、サリンジャーさんに言い返そうとして止めて貰った件だよ。
「いえ、サリンジャー様らしくない厳しい発言をされていたので、何かお考えがあると思っただけです」
それ、気づかなかったな。
「ゲイツ様は、魔法を熱心に学ぶ女の子に優しいから、わざとキツイ言い方をされたのですね。私は、それに気づかず言い返そうとしたのだわ」
ちょっと落ち込みそう。サリンジャーさんには親しくして貰っている。いつも優しく接して下さっていたし、女学生だからと高飛車な態度をされる方じゃないのに、厳しい言葉だけで非難しようとしていたんだ。ずぶずぶ地面にのめり込みそうだよ。
「ペイシェンス、落ち込まなくても良いですよ。サリンジャー様は、ペイシェンスが怒るのを見越して言われたのですから。つまり、ゲイツ様を動かすのにペイシェンスを利用したのです」
ああっ、そういうこと!
「魔法省には近づきたくない気分ですわ!」
トップのゲイツ様、ナンバーツーのサリンジャーさんの関係。闇が透けて見えるんだもの。
「ははは、それは無理では? 昼からはアイーシャ王女達と一緒に狩りですよ!」
つまりゲイツ様、サリンジャー様も一緒だね。
パーシバルのケチャップソースもあっという間になくなりそうだね。他の手持ちのソースと合わせて、ちょこっとずつにして貰った方が良さそう。
「パーシー様、あのケチャップソースは、味噌系とは合いません。ピリ辛、サッパリ、醤油は大丈夫です」
変な味だと思われたく無いから、ちゃんと伝えておく。
「あのスパイシーな振りかけとも相性が良さそうですね」
カレー風味のクレイジーソルトとも良い感じだろう。
「ええ、あまりケチャップソースは入れていませんから、他のソースのアクセント的に使った方が良いですわ」
ソースの名前、メーガンにもっとまともなのをつけて欲しいと言われたんだけど、騎士たちに既に浸透していたんだ。
今更、名前を変更したら、混乱しそうだと判断して、そのままになった。
醤油ソースが、私的には微妙だったけど、前世でもソイソースとか言ってたから良しとしよう!
「このケチャップソース、爆売れしそうな予感がします」
「ええ、来年の夏は領地でトマトと棗椰子をいっぱい作る予定です。そうしたら、ウスターソース、中濃ソース、濃厚ソースも出来ますわ!」
お好みソースには、デーツ、棗椰子の実が使われていたんだ。棗椰子がグレンジャーで栽培できるのかリンネル教授に尋ねたら、ギリギリできるそうだ。
秋に、実験的に植えて貰っている。グレンジャー館に棗椰子がよく似合っているんだ。
冬越しに成功したら、増やしたいな!
「ペイシェンス、ゆっくりとやっていきましょう!」
パーシバルに笑われた。
「ええ、冬の農閑期に麦芽糖も量産して、ビスケットバーの甘味に利用したいのです。それに、来年は領地の果物でジャムを作ってH&G商会で売りたいですわ!」
えっ、パーシバルが爆笑している。
「もう、止めるのはやめます。領地の件はペイシェンスに任せますが、春にはグレンジャーホテルも開業するのでは?」
うっ、それもこれからやらなきゃいけない事が山積みなんだよね。
「アダムに任せていますが、開業の時は皆で泊まりに行きたいのです。お父様を連れ出さないと!」
保護者がいないと、パーシバルと一緒に泊まれないからね。
「グレンジャー子爵を連れ出すのは、難しいかもしれませんが、頑張って下さい。グレンジャーホテルに泊まりたいですから」
後ろでメアリーも難しいのではって顔だよ。夏休みは、大学も休みだったから連れ出せたけどね。
「いざとなったら、ノースコート伯爵夫妻を招待致しますわ!」
リリアナ伯母様は、社交界の後見人だから大丈夫でしょう! それに、やはり実家の名前が残っているグレンジャーを気にかけておられるもの。
荒れ果てたグレンジャー館は駄目だっただろうけど、ラドリー様に改築して貰ったグレンジャー館なら泊まってみたいと思われそう。
「オープンの日には、親戚の方々を招待しても良いかもしれませんね!」
あっ、そうだわ!
「勿論、モラン伯爵夫妻も招待致します」
パーシバルの両親が居たら、一緒に泊まれるね!
討伐前に、いちゃいちゃ話をしていたら、トイレを済ませたルーシー達に叱られた。
「ペイシェンス様、さっさと討伐に向かいますよ!」
気合いが入っているね! パーシバルと別れて、こちらもトイレに行ったり、リップクリームを付けたりする。
生活魔法で唇も荒れないけど、やはり婚約者と一緒なんだもの! 綺麗にしとかなきゃね!




