やはり変?
二日目の朝も、パーシバルと一緒に馬の王で三箇所周って、ビッグバードを討伐する。ゲイツ様やサリンジャーさんも戦馬だ。ベリンダも護衛だから同行している。
「減りませんねぇ……やはり変です」
「去年もこんな感じでしたけど?」
「あれは木の蛇がビッグバードを呼び寄せていたからです」
ゲイツ様と私の会話を、サリンジャーさんとパーシバルは真剣な顔で聞いている。
「ゲイツ様、北の方が気になるみたいですが?」
サリンジャーさんの質問にゲイツ様は答えない。はっきりしていないのだ。
「ペイシェンス様は、銀ちゃんを気にされていたが……私は、分からなかった。違う物なのか、それとも私が銀ちゃんとは繋がっていないからなのか?」
パーシバルが「銀ちゃんが来るのですか?」と私に問いかけるけど、わからない。
「昨日、北の方へ飛んだ時、ふと銀ちゃんを思い出しただけですわ。今年はスレイプニルを追いかけ回していなければ良いのですが……あの国のスレイプニル愛に巻き込まれたくありませんもの!」
去年、銀ちゃんが馬の王の群れにちょっかいを出して、蹴られたから大暴走が始まったんだよね。
馬の王の主になったのは、後悔していないけど、あの国と縁が出来たのは嫌なんだ。
ゲイツ様もサリンジャーさんもパーシバルも『あの国』と名前すら呼ばない私を笑う。
「デーン王国も嫌われたものですね!」
ゲイツ様は笑うけど、ジェーン王女との縁談をキャンセルして、馬の王目当てで私との縁談を持ちかけたんだよ。パーシバルという婚約者がいるのに!
今年の春は、デーン王国の要望には応えないつもり。陛下の要望には少し配慮するけど、あちらはもう十分だよね。
あの国には他にもスレイプニルがいるし、美しき雪号の仔馬も産まれるんだから。
それに、モラン領やハープシャー領で馬を育成したいからね! ローラン卿とか、馬の王に夢中だし、土地はあげても迷惑なレベルだけど、戦馬なら喜ばれると思うよ。
ビッグバードを討伐したので、一旦、基地に戻る。私は、ここで休憩。
パーシバルとゲイツ様達は、昼まで大物狩りをするそうだ。
ベリンダは、私と一緒の行動だよ。ただ、馬の世話とかするけど「綺麗になれ!」と掛けたから、餌と水をあげるだけで良さそう。
お昼まで、テントで休憩する。今日は、ブラウニーとお茶。
「エバの作るブラウニーは美味しいわ!」
真空パックにしているけど、堅焼きケーキやブランデーケーキより日持ちがしない方から食べるよ。
「ペイシェンス様、魔物討伐でこんなに美味しいケーキを頂いて良いものでしょうか?」
ベリンダ、チョコレート系好きだよね! 私も大好きだ。
「確かに魔物討伐なのに、ブラウニーを食べるなんて、呑気かしら?」
なんて笑っていたら、あらら不満を顔に浮かべた三人が帰ってきた。
「アイーシャ王女、ルーシー様、アイラ様、お茶とブラウニーをどうぞ」
できた侍女のメアリーが、素早くお茶をいれてくれる。
「ああ、これは! ブラウニーではありませんか!」
ルーシーもチョコレート系が大好きだからね。不満そうな顔が、パッと輝く。
魔導灯を置く折り畳み式の机に、お茶をおき、私のマットに座って女子会になった。
メアリーとベリンダは、入り口付近のベリンダのマットに座っている。
「兄からもペイシェンス様の料理は凄く美味しいと聞かされていました。お土産のチョコレートを一口食べたことがあります。これは本当に美味しいですね!」
アイーシャ王女もブラウニーが気に入ったみたい。良かったよ。
母親達と姉妹達も多そうなので、今度、お土産を渡す時は、多めにしなきゃいけないかな? でも、ロマノ大学に進学したら、学科も違うから会う機会も減るかもね。ちょっと寂しいかも。
初めてアルーシュ王子に会った時は、派手で傲慢な王子だと感じて苦手だったけど、意外と真面目だし、国を思う態度に好感を持っているんだ。
黙って完食したアイラがボソッと呟く。
「今朝もアルミラージだけだった……」
あああ、サリンジャーさんに尋ねるの忘れていたよ。
「ペイシェンス様、酷いですわ! 忘れていらっしゃったのね」
私って顔に考えが出ちゃうんだ。外交官向きじゃなかったね。忘れたのを察したルーシーに責められた。
「今朝は、少し皆で考えていましたから……ビッグバードが減らないのをゲイツ様が気にされていたのです」
つまり、女学生の指導者が慎重なお爺ちゃん王宮魔法使いだなんて、話題に出せなかったんだと弁解する。
「ビッグバードこそ魔法使いが討伐するべき魔物ですわ! 騎士たちは、空からの攻撃は苦手ですもの」
アイラは、火の魔法が得意だから強気だね。
「私も土の魔法を、夏休みにかなり練習しました! だから、ビッグバード狩りに連れて行って下さい」
ルーシーは、本当は風の魔法の方が得意だけど、ビッグバードは風魔法系なので、土の魔法の攻撃の方が討伐し易いんだよね。
アイーシャ王女も火の魔法みたいだ。私とは親しくないから、無言だけどキラキラ輝く目で訴えてくる。
「言うのを忘れたのは、私が悪かったですわ。サリンジャー様とゲイツ様に聞いてみます。でも、指導者に従うようにと言われたら、キチンと従って下さいね。なんだかゲイツ様が北の空を眺めておられるのが気になるのです」
三人も、王宮魔法師が気にするのなら、何かあるのかもと考えて頷く。
昼食会場に、三人と一緒に向かう。パーシバル、見つけた! ゲイツ様とサリンジャーさんも一緒だ。今日は、それぞれソース持参だね。
「パーシー様! 大物狩り、お疲れ様です」
私がパーシバルを労っているのに、ルーシー達が、そんなことより早く話せ! と目で訴えてくる。
仕方ない! 約束は、約束だからね。
「サリンジャー様、指導の王宮魔法使いの方が、とても慎重なので三人は物足りないみたいですわ」
これで、私は約束を守った事になるよね。
「ああ、ハインツは、女学生を預けても信頼できる王宮魔法使いです。物足りないと感じるのは、実力に相応しい場所なのに、それを理解できていないからでしょう」
げっ、サリンジャーさん、手厳しい。
ルーシーとアイラは、不満みたい。
「でも、去年はゲイツ様にビッグバード狩りに連れて行って貰いましたわ」
ルーシーがそう抗議したら、ビシッと叱られた。
「ゲイツ様の気まぐれを当てにしてはいけません! ビッグバードの集団を自分一人で討伐できる自信があるのですか?」
三人が悄気返る。サリンジャーさんの言うことは尤もだけど、それを言うなら私だってビッグバードの集団を一人で討伐できる自信なんて無いよ。
「ペイシェンス!」パーシバルが立ち上がって、私を抱きしめた。
サリンジャーさんに言い返しそうになったのを止めてくれたんだ。
「ふぅ、私がペイシェンス様の夏合宿に招待したのですから、面倒を見るしかなさそうですね。でも、私が駄目だと言ったら、ハインツに従うのですよ。彼は、慎重ですが、優れた指導者なのですから」
三人が飛び上がって喜ぶ! サリンジャーさんは、苦笑している。
「ゲイツ様、ご自分で言った事は、守って下さいね」
うん? 結局、サリンジャーさんは、ゲイツ様がちゃんと指導すれば良いって思っていたって事なのかしら? それを気まぐれで投げ出しそうだから、慎重なハインツに指導させたの? なんだか、ダークサリンジャーさんを見た気がするよ。




