女子テントは、賑やか?
今年は、途中でアルミラージを討伐する事もなく、シュヴァルツヴァルトに着いた。
そのせいか、うとうとしちゃっていたけどね。朝が早かったからさ。
「お嬢様、着きましたよ」
メアリーに起こされて、やっと起きた私をゲイツ様が笑う。
「本当に、ペイシェンス様は肝が座っていますね」
うん? 今年は、通年通りだと思っていたけど……つまり、五日程度の魔物討伐じゃないの?
「さっさと荷物を降ろしたら、後は侍女に任せて討伐ですよ。冬の寒さは例年通りですが、竜が活動的になっているのを忘れていませんか?」
あっ、それ忘れていた! だから、文官コースの学生も参加しているんだ。呑気だったな。
「それと……まぁ、気のせいなら良いのですが……」
ゲイツ様が北の空を眺めて眉を顰めた。えっ、また魔物の暴走?
横で馬の王から降りたパーシバルも、ゲイツ様の様子を見て、真剣な顔だ。仕事はサボるし、食いしん坊で、マナー違反はするけど、魔法関係は第一人者だからね。
『ブヒヒヒン!』あっ、馬の王はもっと走りたいみたい。
風の魔法で大荷物を下ろす。ラッキー、一番乗りだから奥にしよう! うん? アイーシャ王女に譲るべき? まぁ、そう言われたら替われば良いか。
「ベリンダは何処にしますか?」
本当は従者が一人なんだけど、私はベリンダとメアリー二人なんだ。
ベリンダは、初めは冒険者のテントで良いと言ったけど、ゲイツ様が「それでは護衛の意味がない!」と掛け合ってくれて、一緒のテント。
「私は出口付近で護衛します」
まぁ、前年にオーディン王子がテントに侵入したからね。騎士たちと一緒のスペースだね。
トイレを使って、急いで合流していたら、次々と学生達が到着してくる。
「おっ、ペイシェンス!」
カエサル達だ! 錬金術メンバーも一緒なので、挨拶しようとしたけど、馬の王とゲイツ様が煩い。
ルーシーやアイラも気になるけど、今年は、ちゃんと指導者をつけるとサリンジャーさんが決めたから安心だね。
「ペイシェンスは、馬の王に乗りますか?」
今日はゲイツ様も戦馬に乗っているから、私もそうしよう! パーシバルと二人乗りだよ。
サリンジャーさんベリンダと五人で、去年と同じ岩場でビッグバードを狩る。
「パーシー様、凄いわ!」
去年は風の魔法を避けられていたのに、今年は次々と討伐していくのを褒める。
ベリンダは、火の魔法攻撃だけど、アイラみたいに丸こげにしない。
「冒険者として鍛えていたみたいですね」
ゲイツ様に褒められて、嬉しそう。
「ううむ、ビッグバードは例年通りなのか? 去年みたいに木の蛇が呼んでいる感じはありませんが、ちょっと数が多い気もします」
ゲイツ様だけが、ブツブツ言っている。サリンジャーさんとパーシバルは気にしているみたい。竜が活発化するって事は、他の魔物にも影響が出るのかな?
討伐したビッグバードを集めて、そこに札を置いていくのも一緒だね。今年も、肉、魔石、そして羽根を貰うよ。春にはグレンジャー館は、ホテルとしてオープン予定だから、羽布団は多めに用意したいから。
ベリンダは、私に提供しても良いと思っているのか、同じ項目にチェックを入れている。ホテルを開業するのも知っているからね。買い取ろう!
午前中に三箇所、岩場を回ってビッグバードを討伐した。
「昼からは、大物を討伐しましょう」
ここで、トイレ休憩と昼食だ。今日は、ソースは使わないで、シンプルに食べよう! いっぱい持って来てはいるけどね。
馬の王の世話は、メアリーは無理なので、ベリンダがしようとしたら、ゲイツ様が「ペイシェンス様のお側を離れないように!」と注意したので、パーシバルの従者がしてくれる。
「綺麗になれ!」と掛けておいたから、水と餌をやるだけで良いけどさ。
トイレに行っている間に、メアリーがお茶をいれてくれた。暖かい飲み物、ホッとするよね。ベリンダも少し休憩させる。常に気を張っていたら、疲れるよ。
「お昼にしましょう!」
今日は、ソースは使わない予定! メアリーに、テントの様子を聞きながら昼食会場に向かう。
「ユージーヌ卿がジェニー様、リンダ様、そしてハナ様を引率しておられました」
ふむ、ふむ、そちらはユージーヌ卿に任せておけば良さそう。チョコレートバーの袋を四個渡せば良さそうだね。
「アイーシャ王女は、ルーシー様とアイラ様とご一緒でしたが……宜しいのでしょうか?」
夏合宿で、ルーシー達の魔法以外は駄目駄目の様子を知っているメアリーは不安そう。
「サリンジャー様が指導の王宮魔法使いを決めて下さっている筈だわ。だから、大丈夫だと思うけど……一度、確認しておきますわ」
そんなことを言いながら、食事会場に着くと、パーシバルとゲイツ様とサリンジャーさんが先に食べていた。
「えっ、ペイシェンス様、ソースは?」
ゲイツ様もいっぱいH&G商会でソースを買ったじゃん。それに、魔法省でも困るぐらい大量注文があったんだよね。
「今日ぐらいは、シンプルに食べようと思ったのです」
メアリーとベリンダは、他の従者達と食べるから、こちらはゲイツ様と一緒だ。まぁ、去年と違ってパーシバルと行動を共にしているから、食事のタイミングも同じなのが嬉しい。
食後のお茶を飲んでいたら、ゲイツ様ときたら、チョコレートバーをデザートに食べようとポケットから出している。
「それは、戦闘中に疲れた時の為なのに……まぁ、良いですけど……なくなってもあげませんわよ」
これ重要だから、キチンと言い聞かせておかないとね!
「ペイシェンス様ぁ! これは、真空の魔法を使われたのですね」
えっ、そうだったかな? 真空の方が長持ちしそうだから、使ったかも。
「駄目でしょうか? 冬だから大丈夫だとは思いますが、ヌガータイプだけでなく、ビスケットタイプもあるから湿気てても嫌なので……」
サリンジャーさんも、ゲイツ様が持っているチョコレートバーを繁々と見て、ガックリとしている。
「パーシバル! ちゃんとペイシェンス様のお守りをしないから! どうも、気楽に魔法を使う癖があるので、目を離せません!」
いや、パーシバルは悪くない。
「これは、私が勝手にやっただけですわ。色々なタイプのチョコレートバーを作ったので、味がわかった方が良いと思ったのです。色別にして、そしてついでに真空パックにしたのですから」
「これは、エクセルシウス・ファブリカ案件ですね! まぁ、もうエクセルシウス・ファブリカが私とペイシェンス様の会社だと目敏い人は分かっているでしょうが、これで大っぴらになりそうです」
拙かったかも? ちょっと聞いておこう。メアリーの持ち歩いている袋から、チョコレートコーティングしていない携帯食を出す。
「これも配ったのですが、駄目でしょうか? チョコレートコーティングしなくても、真空パックなら長持ちするし、価格も抑えられるから、H&G商会で売れると思ったのです」
手を差し出されるので、渡す。バリバリと破って、一口食べる。それは、チーズ味だね。
「私は、チョコレートバーの方が好きですが、これはこれで需要があるでしょう」
ゲイツ様は諦めモード。でも、サリンジャーさんが「特許申請した方が良いです!」と言ってくれた。
「ああ、これまではバーンズ商会に丸投げ状態でした。これからは、私がしなくてはいけないのですね」
ドヨドヨな気分になったが、三人に笑われる。
「ペイシェンス、うちの顧問弁護士に申請をさせますよ。バーンズ商会も自分でされている訳ではないでしょう」
あっ、そうか! だよねぇ。
「それと、ついでにソースも意匠登録をしておいた方が良いですよ。真似されて、悪い物が出回ったら困りますから」
ふむ、ふむ、それはすぐにしてもらおう!
そんな呑気な事を言っていたけど、昼からは大型魔物討伐だ。
テントに戻ったら、ユージーヌ卿が女学生達を引率して戻ってきた。ああ、ハナ様がグロッキーだ。リンダとジェニーは夏合宿でかなり体力アップしている。
「ハナは、昼からは休んで、解体を手伝いなさい」
リンダとジェニーについて行きたいと抗議しているけど、騎士達は上官の命令が絶対だ!
皆にチョコレートバーとビスケットバーが入った袋を配る。三人が出て行った後で、ハナに回復薬を飲ませたら、少し回復したよ。
「国では、もっと動けたのに!」悔しそうなハナ。
「ああ、南の大陸より空気中の魔素が少ないのです。だから、慣れるまでは、身体強化もやりにくいかもしれませんね」
驚いているハナ! えっ、ザッシュったら、妹に説明していないの?
「でも……アルーシュ王子は……そうか、修業されたのですね!」
おお、目が燃えている! それに、去年のリンダ達よりは体力がありそう。
「ペイシェンス様! ゲイツ様と一緒に討伐したいです」
ルーシーとアイラとアイーシャがやってきた。こちらにも袋をあげておこう。
「これって、チョコレートバーですよね!」
ルーシー、今食べる必要ないじゃん!
「ええ、それとビスケットバーもありますよ。アイーシャ様、魔物討伐どうですか?」
三人の顔が曇る。ああ、これは問題ありなのかしら?
「王宮魔法使いのお爺様が、アルミラージしか出そうにない場所に連れて行ってくれましたわ!」
「本当に! 去年のゲイツ様のスパルタ訓練が懐かしいです!」
「折角、魔物討伐に参加したのに……これでは意味がありません」
ぶーぶー、不満爆発だけど、安全そうだよね。
さっさとテントを後にしたけど、サリンジャーさんと話し合わなきゃいけないかもね。




