H&G商会オープニング準備!
今週は、火曜にザッカーマン教授との面談があるから、寮には行っていなかった。色々と落ち着かなかったから。
受験の時は、寮に行っていたのに? とメアリーに笑われたけど、H&G商会のオープニングの準備も気になっていたからもあるかな?
日曜の昼食会の後も、実はパーシバルに付き添って貰って、H&G商会に行ったんだ。
看板は、すぐにライトマン教授が掲げてくれると約束して下さったから、後は商品の準備。
「子爵様……ペイシェンス様、ソース類はもっと必要かもしれません」
メーガンには、領地以外では「子爵様」ではなく「ペイシェンス様」と呼んで貰っている。時々、混乱するみたいだけど、王都の屋敷にはお父様がいるからね。H&G商会の従業員も屋敷に住み込みだから、子爵様が二人だとややこしいよ。
夏休みは、私の領地だったから仕方なかったけどね。
「冬の魔物討伐に参加する騎士団、それに学生達からの注文だけでも在庫が無くなりそうです」
「それは、予定していたんじゃないのかしら?」
「去年のペイシェンスのソースが評判になりましたからね」
パーシバルが笑っているけど、事態はもっと深刻だった。
予約表をメーガンとチェックする。
H&G商会には、メーガンがいるのに、メアリーも付いてくるし、護衛のベリンダも一緒なんだよね! ちょっとデートの邪魔だよ。
「メアリー、従業員の教育の手伝いをお願いね! ベリンダは、警備員の教育をして下さい」
店舗の中にいるのだから、護衛は必要ないんじゃない? と思ったけど、屋敷で訓練はするそうだ。メアリーも婚約者と一緒にいるのに付き添いがいないなんて駄目だと頑固!
折角、パーシバルと一緒にいるのにねぇ! 気を利かせて欲しいよ。
「領地からどんどん運んで貰わないと、開店しても商品が無い状態になります」
夏休みから、醤油、味噌を作り、秋になってからは本格的にソースを作っていた。かなり在庫はあると思っていたんだけど?
メーガンは、こんなに事前予約が入るとは考えもしなかったと顔を青くしている。
「騎士団の注文表を見せて下さい」
うっ、凄い量! これって一気に納入しなくても良いのでは?
「従兄弟のサリエス卿から、ガブリエル騎士団長に問い合わせて頂きますわ。騎士団は、学生達よりも長期にわたって魔物討伐をされますから、二期に分けて納入しても良いと思います」
これは、去年、冬の魔物討伐に参加したから分かる事なんだよね。
「それは助かります。学生の方々の注文をお断りしづらくて……」
王立学園、ロマノ大学の学生で、冬の魔物討伐に参加するのは、貴族が多いからね。メーガンは、これからのH&G商会の顧客層を考えると、断ったりしたくないだろう。
「それと……魔法省からも大量の注文が……」
メーガンは、夏休みにゲイツ様を見ているから、その我儘ぶりも知っている。
それに、空飛ぶ王宮魔法師を怒らせたくないのだろう。
「ああ、それも二期に分けて納入しても良いか、サリンジャー様にお伺いを立てておきますわ」
ちょっとメーガンの顔が引き攣っている。王宮魔法師を怖がっているのかな?
「この注文を出したのは、ゲイツ様ではないでしょう!」
パーシバルは、くすくす笑っている。
「ええ、ゲイツ様は部下の王宮魔法使い達の為にソースを注文するだなんて、考えもされないでしょう。これは、サリンジャー様ですわ。だから、大丈夫ですよ」
ただ、サリンジャーさんもソースの注文を一気にしたら、まだ立ち上げたばかりのH&G商会が困るとは考えておられなかったのだろう。
「来年までには、こんな事がないように致します!」
メーガンの目が燃えている。
「ちょっと良いかな?」
おや、護衛に徹しているベリンダが珍しく発言の許可を取る。
「ええ、何でしょう?」
「冒険者達も、ソースを手に入れたいと思っているよ」
あっ、それは忘れていた。
「どのくらいソースについて広まっているのでしょう?」
ベリンダは肩を竦める。
「私ですら知っていたから、かなりの冒険者は知っていると思う。去年は、知り合いの騎士に味見させて貰った程度だろうが、H&G商会で売り出すとなると、買いたいと思うんじゃないかな?」
これは、領地からもっと、もっと送って貰わなきゃいけないね。
モンテス氏と領地にいるアダムに手紙を送る。
ついでに、アダムに手伝ってもらおう!
「それと、領地の使用人で王都に行ってみたいと言う子もいるのですが……」
それ、考えなきゃね。領地にはまだ人が少ないから、あまり流出させたくはない。でも、他所で働くよりはH&G商会の方が良いんだ。安心できるし、結婚したら領地に戻ってくれる可能性も高いからね。
「いずれ、私はパーシー様と結婚します。メイドや下女も足りていませんから、H&G商会で働くには計算とかまだ不安な子は、そちらで採用しても良いでしょう」
後ろでメアリーも頷いている。やっとグレンジャー子爵家に相応しい数の使用人が揃ったけど、その殆どはお針子組と料理人だからね。
お針子組には、メイドの修業もさせている。お客様への接し方の勉強にもなるし、そちらが向いている子もいるから。
そして、四年後には半分は新居に連れて行くから、もっと育てる必要があるんだ。マダム・マグノリアが独立する時は、お針子も何人かはついて行くだろうしね。
ただ、マダム・マグノリアは私のデザイン画に夢中だから、独立するのは思ったより遅くなるかも? でも、いつまでも屋敷の応接室で営業もできないから、アップタウンに店舗を探させている。
だって、前は友だちの友だち程度だったのに、リリアナ伯母様から他の貴婦人に広がっているんだもん。それらは、相手のお屋敷に出向いて行って貰うつもりだけどさ。
これは、ロマノ大学に入学してから考えよう!
日曜から、細々と手配していたけど、やはり火曜のザッカーマン教授との面談が終わってから、ホッとして本格的な開店準備に取り掛かる。




