来年の事を言うと鬼が笑う
アルバート部長の熱意溢れる特訓の成果で合奏も見事にやり終えた。やれやれだ
収穫祭も無事に終わり、ホッとマーガレット王女の部屋で香り高い紅茶を飲みながら寛ぐ。
「リチャード兄上も卒業されるのね。来年はキースと2人だなんて困るわ。あの子の野菜嫌いを注意しても治らないと思うのに」
私も上級食堂でマーガレット王女とキース王子との3人での昼食は避けたい。キース王子がリチャード王子を怒らせて冷や冷やしたりしたけど、やはり存在感は半端無かった。キース王子もリチャード王子が居たから、野菜嫌いを注意されても反抗しないで聞いていたと思う。11歳12歳の反抗期の男子の扱いは難しい。まぁ、そこも萌えポイントだけど、遠くで眺めたい気分だね。トガッているから、近くにいるとケガしそう。
「別々に食べても良いか、お母様に尋ねてみるわ。でも、ジェーンの事もあるから、1年はこのままかも知れないわ」
ご学友との昼食も気を使いそうだけど、反抗期真っ盛りのキース王子との昼食は避けたい。それより、ご機嫌が良いマーガレット王女に質問しよう。
「再来年はジェーン王女が入学されますが、寮に入られるのでしょうか?」
私は姑息にもジェーン王女を出汁にして、マーガレット王女が寮を出るか遠回しに尋ねる。小心者なんだよ。
「多分、ジェーンも寮に入るでしょう。それに寮暮らしは気楽だから、あの子は楽しむでしょう」
えっ、マーガレット王女は寮を出る気は無さそう。でも、社交界デビューとかは? ええぃ、こうなったら聞こう! 側仕えがいつまでか分からないけど、何となく辞められそうにない。なら、将来の予定が分からないと不安だもの。
「マーガレット様は社交界デビューとかされないのですか?」
マーガレット王女は少し考えて話す。
「音楽会には出たいけど、社交界には興味は無いわ。だって、どうせ結婚相手はお父様かお母様がお決めになるのよ」
王族として政略結婚を受け入れ諦めているマーガレット王女が気の毒になるが、ペイシェンスは持参金も無いから結婚すら無理なのだ。同情している場合では無い。
「ご学友のキャサリン様やハリエット様やリリーナ様は社交界デビューされるのでしょうか?」
本人は興味が無くても同級生達がデビューしたら、王妃様がさせるかもしれない。
「多分、14歳ではしないでしょう。だって学園が忙しいもの。中等科で必須科目や美術などの実技の修了証書を取ってから社交界デビューするのでは? どうせ彼女達も親が結婚相手を決めるでしょうね」
そうか、中等科の家政(花嫁修行)コースは、必須科目の修了証書を貰ったら社交界デビューし易くカリキュラムが組んで有るのかもね。
「皆様、数学は苦手なようですが、大丈夫なのでしょうか?」
マーガレット王女も数学は苦手なので眉を顰める。
「家政コースの数学は簡単だと聞いているわ。家計簿の計算ができれば合格だそうよ。貴女みたいに数学の修了証書を貰う女の子なんて滅多にいないわよ」
そうか、中等科になればコース別の単位制なんだ。数学の苦手な人は家計簿とかの単位で良いのか。卒業できない学生が増えても困るものね。一応、初等科の数学ができれば良いって感じなんだね。
「何だか他人事みたいに聞いているけど、ペイシェンスは結婚相手とか考えているの?」
マーガレット王女は自分の結婚については諦めているようだが、そこは乙女なので恋バナは好きだ。
「えっ、私は結婚なんてしませんよ。弟達が立派に成人するまで面倒を見ないといけませんもの」
呆れられた。
「弟さんってジェーンとマーカスと同じ年でしたね。そんなの待っていたらオールドミスになってしまうわ」
分かっている。
「ですから、結婚しません。職業を得たいと考えているから、文官コースを選択するのです」
マーガレット王女は不思議な顔をして私を見ている。
「なら、私の側仕えを一生するとか?」
それは勘弁して欲しい。でも、そんなのストレートに言うのは無作法だし、マーガレット王女の機嫌を損ねる。
「できれば官僚になりたいのですが、女性官僚はいないと聞いて困っています」
「そうね女官とは違うのよね。官僚って男の人ばかりだわ。でも、ユージーヌ卿だって女性騎士になられたから、そこから女性騎士の道も開けたのよ。やるだけ、やってみたら?」
激励されて少し後ろめたく感じるが、やるだけやってみよう。
「それより、ちゃんと中等科に飛び級できるのでしょうね」
そうだった。今回は期末テストで飛び級が決まるのだ。できれば国語、古典、歴史、魔法学の修了証書も欲しい。来年の事を言うと鬼が笑うよ。
「先ずは勉強しないといけませんね」
マーガレット王女も期末テストを思い出した。
「この期末テストで数学の赤点を取らなければ良いのよ。これで嫌いな数式と縁が切れるわ」
本当に家政コースの数学が家計簿程度だと良いのだけどと私も願っておく。




