ラフォーレ公爵家のパーティ 後編
ダンス曲の途中で、何曲か少女歌劇団の曲も流れる。その上、普通はダンス曲はオーケストラの演奏だけなのに、カルメン・シーターや他のディーヴァ達が素晴らしい歌で盛り上げる。
私は、音楽好きなラフォーレ公爵家に相応しいパーティだと笑ってしまう。チャールズ様、アルバートと二人の独身貴族がいるから、舞踏会にしたのだろうけど、本当は音楽会にしたかったのが丸分かりだよ。
「そろそろ、小劇が始まる時間ですね。ノースコート伯爵夫人と一緒に観ましょう」
リチャード王子、パリス王子もリュミエラ王女とマーガレット王女をエスコートして、桟敷席へと移動している。
恋の駆け引きに夢中の若い人達は、まだ踊っているけど、年配の貴族たちは観覧しようと思って、其々、椅子に座ったり、壁沿いに立っている。
「ペイシェンス、これから少女歌劇団の小劇があるとか? 貴女は、知っているのでしょう?」
リリアナ伯母様の後ろには、ノースコート伯爵がシャンパンを片手に立っている。舞踏会とかでは、殿方は凄く年寄りでないと椅子には座らないのがマナーだ。
若い令嬢も、ドレスがシワになるからと座らない人も多いけど、私は喜んでリリアナ伯母様が扇で指した椅子に座らせて貰うよ。
パーシバルは、気をきかせて私にレモネードを持ってきてくれる。
「良い宣伝になると、母上が喜びそうですね!」
桟敷席には、外務大臣のモラン伯爵夫妻も同席している。
「ふふふ、そうなると良いのですが……」
これまで、少女歌劇団は女子どもの観る物って評価なんだよね。『愛あれば』は確かに子どもが観て楽しめる内容だけど、大人にも充分楽しめる演目だと思う。
『薔薇姫』は、ちょっと子どもには相応しくないかもしれないけどね。
ダンス音楽が終わり、パートナーと拍手して、招待してくれたラフォーレ公爵家に感謝する。
一瞬、ダンスフロアが暗くなり、舞台にはアルバートが!
遠くから見ると、アルバートって美青年なんだよね。近くにいると、音楽愛の激しさに巻き込まれて迷惑だから顔の良さなんか感じられないけどさ。
「ご来賓の皆様、これから少女歌劇団の次回作『愛あれば』の小劇を披露させて頂きます。ご観覧下さいますように」
一礼して、アルバートが舞台を去ると、オーケストラが音楽を演奏し始める。これは『ドレミの歌』だね。
そして、家庭教師を先頭に子供たちが並んで登場!
「まぁ、可愛いわ! 子供服って野暮ったいのが多いのに……これは、ペイシェンスがデザインしたのでしょう?」
リリアナ伯母様にはお見通しだね。それにしても、水曜の夕方にデザインを渡して、土曜の夜のパーティに間に合わせるだなんて、ラフォーレ公爵家もなかなかやるね!
『ドレミの歌』『私の好きな物』の演出は、知っていた通りだけど、場面転換の時にダンスが挟んであって、よりスムーズになっている。
家庭教師の清らかさと子役の可愛さが引き立っていて、令嬢や貴婦人だけでなく紳士方も『愛あれば』を観に行きたいと微笑む。
ここからが、私が見た演出とは少し変えてあった。
『野薔薇』を歌いながら、家庭教師と子ども達が退場して行くのだけど、女の子が一人ゆっくりと歩いて残り、歌を歌いながら、迫り上がってきたガゼボに絡まったつるバラから、一輪、白薔薇を取って歌う。
歌と、歌の繋ぎに演技が挟んであり、少し『愛あれば』のストーリーが分かるようになっている。父親の立場と、帝国騎士見習いの彼、その二人の間で揺れる少女の演技!
でも、帝国騎士見習いの彼が登場すると、パッと笑顔になり、甘い歌を二人で歌い合う。
つるバラの絡まったガゼボの周りを、お互いに顔を覗かせながら、歌いながら、段々と近づく演出だ。
そして、二人が手に手を取って、前に私がグリークラブの『アレクとエルザ』に作ったアリアを歌いながら、退場していく。
少し舞台が暗くなり『踊り明かしたい』の音楽が流れ出したら、パッと明るくなり電飾階段から、家庭教師と貴族、そして女の子と帝国騎士見習い、着飾った子ども達。それと初めに『乾杯の歌』にでた貴族達も華やかに降りてくる。
「皆様も一緒に踊りましょう!」
アルバートが舞台でいざなうと、パーシバルも私をダンスに誘う。
ダンスフロアで『踊り明かしたいの』を聴きながら、同じような歌詞の繰り返しは、皆で歌いながら踊る。
曲が終わったら、役者達はお辞儀をする。私達も拍手喝采で応える。
その後のダンス曲にも『乾杯の歌』『ドレミの歌』『踊り明かしたい』などが流れ、時には少女歌劇団のスターが歌を歌う。
「ベーリング大使夫人も少しは考えを変えられたのかしら?」
パーシバルと踊りながら笑い合う。
国王陛下ご夫妻は、小劇の後で退場されたけど、付き添いとして、ベネッセ侯爵夫人が残っているので、マーガレット王女ももう少し舞踏会を楽しめる。
「少し休憩しましょう!」
本当は、令嬢はパーティで食事とか取らないのだけど、もう夜中だ。マーガレット王女に誘われて、隣に向かう。
リュミエラ王女もリチャード王子にエスコートされて、一緒に少しだけ口にする。
一口で食べられるカナッペとか、フルーツを摘んで、もう少しだけ踊って帰ることにする。
普段は、ここまで遅くまではパーティに残らないのに、皆も帰らないから、ついつい。
それに、付き添い人の貴婦人達も旦那様と踊ったりしているんだもん。
「やはり、ダンス曲の選曲も良いから、舞踏会が盛り上がるな!」
パリス王子は、音楽クラブに入るぐらいだから、センスの良さを褒める。
「ペイシェンスのドレス、とても素敵だわ!」
「私も作って貰いたいわ」
マーガレット王女とリュミエラ王女にドレスをとても褒められたよ。
「ラフォーレ公爵家は株を上げたな!」
いつもは冷静なリチャード王子もパーティを楽しんでいるみたい。
「ペイシェンスの曲と舞台衣装のセンスが良いからよ!」
マーガレット王女、褒めすぎ!
「いや、ペイシェンスはロマノ大学を満点合格したのだ。これからのローレンス王国を改革していく手助けをして欲しい」
リチャード王子、それはちょっと贔屓目過ぎるよ。
パーシバルは、私が文官になるのも魔法使いになるのも、及び腰なのを知っている。だから、下級官吏、下級魔法使いの試験を受けるのを迷っているんだ。
「さぁ、踊りましょう!」と私をダンスに誘い出してくれた。
「女官試験、どうしようかしら?」
マーガレット王女とソニア王国に行くのだから、受けた方が良いとは思う。
「ペイシェンスの好きにしたら良いと思う。女官として付き添う訳ではないのだから。私は、下級官吏の試験を受けるが、それは外務省の一員として同行するからだよ」
「よく考えてみますわ」と言いながらも、女官はパスしようと思っていた。
女官になる気がないし、リュミエラ王女がリチャード王子と結婚したら、側仕えに任命されそうだからさ。危険は回避したい。
明日は、昼食会だから、そろそろ帰らなきゃね!




