ロマノ大学、合格発表!
水曜は、ロマノ大学の受験だったけど、その後のラフォーレ公爵家の舞踏会準備の方が疲れたね。
でも、メアリーのいない間にパーシバルとちょっとだけ、いちゃいちゃできたので、少し元気回復!
木曜の朝に寮に行く事にして、ヘンリーと少し遊ぶ。
夕食まで、子供部屋でブロックで遊んだり、お話をしたりして過ごしたんだ。カミュ先生がいるけど、平日はヘンリーだけだからね。
「来年からは、お姉様は屋敷からロマノ大学に通われるのですよね!」
やはり寂しいのかな? 抱きしめてキスしておく。ナシウスは、九歳頃からキスとか恥ずかしがったけど、ヘンリーはまだ大丈夫!
「ええ、ヘンリーには寂しい思いをさせましたけど、来年は一緒に過ごす時間が増えますね」
ただ、再来年はどうなるのかしら? ナシウスは、本当は寮に入る必要は無かったのかも。私が入学した頃は、馬もいなくてレンタルしなきゃいけない状態だったから、寮しか考えられなかったけど。
「ヘンリーは屋敷から王立学園に通っても良いのですよ」
でも、ヘンリーは「寮に入りたいです!」とキッパリと言う。
「お兄様から寮の話を聞いて、とても楽しそうだと思いました。それに……マーカス王子が寮に入られるそうなのです。一緒に寮生活をしたいと言われたので」
ああっ、そうか! 私が領地に行っていた間に、ヘンリーは王宮でマーカス王子と会ったのだ。
ナシウスは、ジェーン王女の学友選びに無関係だったから、忘れていたよ。
私もキース王子の学友選びとは無縁だった。それはラッキーだよね! 本当にラルフとヒューゴは大変そう。
ヘンリーとマーカス王子は、夏の離宮で何回か遊んでいる。学友には、公爵家、侯爵家、伯爵家の子息が選ばれるとばかり考えていた。
「ヘンリーがそう望むなら、寮に入っても良いですが、マーカス王子がそうするからだけなら、入らなくても良いのですよ」
おっとりとしたマーカス王子と活発なヘンリー。あまり合わないのではと思っていたけど、離宮では仲良く遊んでいた。
ただ、ラルフとヒューゴの苦労を見てきただけに、学友に選ばれない方が、ヘンリーの為には良いのではと思っちゃうんだ。
この辺は、私も変人のお父様に似ているのかしら? いや、私がマーガレット王女の側仕えに選ばれた時、名誉な話だと快諾していたよね?
本人が、マーカス王子の友だちになりたいと思うなら、仕方ない。学友が子爵家の子息で良いのかは、王妃様が考えられる事だしね。
第一、キース王子とマーカス王子は性格も違う。それに、お父様は、王子様のお気に入りになる為に、ご機嫌を取れなんて言われないだろう。
相変わらず十歳未満のヘンリーは、夕食は別なので、私は着替えてお父様と二人で食べる。
この習慣、本当に嫌だけど、ヘンリーは気楽に食べて、早くベッドに入る方が良いのも分かっている。それに、今は従者見習いのルッツがお世話してくれているしね。
「今日の試験はどうだった?」
おおっと、珍しくお父様と会話だ。
「少し、前の試験問題とは傾向の違う物もありました。でも、なんとか解答欄は埋めましたわ」
ただ、もう少し簡潔に纏めるべきだったかも? まぁ、落ちる心配はしていない。大丈夫だよね?
「そうか、ペイシェンスなら大丈夫だろう」
うっ、そう言われると、不安になっちゃう。
「あのう、ザッカーマン教授との面談が決まっているのですが、あまり点数が悪いと、指導教授は断られる事もあるのでしょうか?」
お父様は、ナイフとフォークを置いて、少し考えて口を開く。
「指導教授になって欲しいと、学生に人気のある教授は、試験の点数が悪いと選ばない事もあるそうだ。だから、合格点を取っても、二回目、三回目の試験を受ける学生もいる」
ちょっとお! 不安を煽るような事を言わないでよ。
夕食後、部屋で試験の点数を計算してみる。
「何度も見返したけど、ミスを見落としたかもしれない。過去問では、大問は四十点配点だった。今年は違うかも? でも、古典と歴史・地理は、纏まりがないと減点されるかも……。まさか零点はないでしょう!」
二科目、大問が零点だったら、他のが満点でも、三百二十点! これまでの入試の合格ラインは、八割の三百二十点! ギリギリじゃん! 零点はないと信じよう!
「十一月の試験を受け直した方が良いような低得点だったら、ワイン蔵開きに行くどころでは無いわ」
不安になって、ぶつぶつ言っていたけど、メアリーにベッドに入らされた。
「お嬢様は、絶対に合格されますよ!」
そうだと良いのだけど……と思いながら眠った。
◇
木曜は、音楽クラブの日だけど、収穫祭は観客席にパーシバルと一緒に座るつもりだから、パスしようかな? なんて思いながら、馬車に揺られていた。
昨夜は、合格ギリギリではと不安になったりしたけど、朝になったら、きっと大丈夫な気がしてきたよ。
少々、書き込み過ぎていても、零点は無いと思う!
「ペイシェンス! 丁度、良いところで会った!」
馬車から降りた途端、カエサルに錬金術クラブに引っ張られて行く事になった。登校時間をずらせば良かったよ!
その日の午前中は、電飾を錬金術で作って過ごす事になったけど、午後からのラフォーレ公爵家への搬入は断った。昨日は、パーシバルもメアリーも一緒だったけど、今日は居ないからね。
それに、うかうか近づいたら、アルバートに何を無茶振りされるかわからない。
上級食堂で、マーガレット王女やリュミエラ王女、エリザベス、アビゲイル、リリーナとラフォーレ公爵家のパーティに着ていくドレスについて話しながら食べる。
「ソフィアで流行っているドレスは、ペイシェンスが作ってくれたドレスと同じ傾向なのよ。どうやって知ったの?」
マーガレット王女に質問されて、困っていたら、エリザベスが「ソフィアの流行のドレス!」と食いついたので、そちらに話が移った。
ハリウッドの女優を思い出してなんて、答えられないから、良かったよ。
◇
金曜のカルディナ帝国語Ⅲの授業、ほとんどが中等科の三年生なので、ソワソワしていた。李先生も、仕方ないと苦笑して、早めに終わらせてくれた。
「食事を早く済ませて、一緒に合格発表を見に行きましょう!」
パーシバルも不安になったりするのかしら? なんて思っちゃった。
上級食堂で食事を済ませて、メアリーが馬車で迎えに来てくれたので、パーシバルと一緒に乗る。
「もう一時になってしまいますわ!」と気が急くけど、パーシバルに笑われる。
「発表に遅れても、何も変わりませんよ」
「それは、その通りなのですけど……父に低い点数で指導教授に選ばれない時は、二度、三度、受け直す学生もいると聞いてから、少し不安なのです」
パーシバルは、手を握って「ペイシェンスが落ちるとは考えられません! それに、低得点だとも思えませんよ」と励ましてくれた。
メアリーがボソっと「子爵様!」と怒ってくれた。本当にお父様と話してから、不安になっちゃったんだよね!
「ありがとう! 何だか大丈夫な気がしてきました」
馬車がロマノ大学に着いた。パーシバルがエスコートしてくれる。でも、皆が走っているから、慌ててしまう。
「ペイシェンス、走らなくても大丈夫だよ!」
そうだよね! と思っていても、ついつい早足になる。とはいえ、早足でも遅いんだ。
掲示板の前には、学生達がいっぱいだ。もう、合格者発表は張り出されている。ドキドキと心臓が煩いのは、早足のせいだよね?
「ペイシェンス! 凄いぞ、満点じゃないか!」
カエサルに祝福された。
パーシバルが他の学生を押しのけて、私を前に連れて行ってくれる。
「ペイシェンス、四百点満点だ! 凄いよ! おめでとう!」
パーシバルに抱きしめられた。
「パーシー様も高得点ですわ! おめでとうございます」
カエサル、アーサー、そしてアルバートも高得点だった。マークスもなかなか良い点数だ。
相変わらず、個人情報はダダ漏れだね。受験番号だけじゃなく、名前と点数が張り出されている。
「きっと、ペイシェンスが新入生総代だ!」
カエサル、それは嫌だ! ああいうスピーチとかは、他の人に譲りたい。
「二回目、三回目で高得点の方がいらっしゃると思いますわ」
アーサーに「満点は出ないさ!」なんて言われて、困惑する。
「そうだわ! 王族なら総代でしょう? アルーシュ王子とか相応しいのでは?」
ただ、留学生の入試は別の日なんだよね。王立学園を卒業、若しくは卒業見込みの学生とは、試験内容も少し違うみたい。高得点を取ってくれる事を期待しよう!
「ペイシェンス、入試では負けたけど、卒業生総代は、譲りませんよ!」
「卒業生総代のスピーチはお譲りしますわ!」
二人でふざけ合い、パーシバルと素早くキスして周りから冷やかされちゃった。
メアリー、合格したんだから、このくらい大目に見てよ!
この夜、メアリーがワイヤットに言いつけたのか、お父様は「受験生をナーバスにさせた」と私に謝ってくれた。
満点で合格できて、上機嫌だったから許したよ!




