ラフォーレ公爵家の舞踏会準備
兎に角、パーシバルに何があったのか質問する。音楽愛溢れるアルバートの言い分ばかりでは判断できない。
それにしても、何故、ここにカエサルがいるのか理解不能だよ。
「ラフォーレ公爵家の舞踏会に、ベーリング大使夫妻が来られるのです」
パーシバルの説明を聞いても、意味不明だよ。公爵家のパーティに大使が行っても問題ないよね? 敵対国じゃないし。
「父とベーリング大使は、音楽愛好家として交流があるのだ。それで、我が家の舞踏会にも来られるのだが……王妃様からご命令があった。ベーリング大使夫人は、少女歌劇団のファンだそうだ。それは良いのだが、まだソニアの方が文化面は優れていると考え違いをされているそうで、その間違いを正すようにと父上に言われたのだ」
ああ、ソニア王国の大使館のパーティで、ベーリング大使夫人は王妃様のもてなし役をしていたけど、ちょっと傲慢な発言がお気に障ったのだろう。
「父は、元々、華やかな舞踏会よりは、音楽会が好みだったから、そのお言葉は嬉しかったのだろう。とても張り切っている! それと、青葉祭の階段の照明も活用したいと言われているのだ」
ああ、それでカエサルがいるんだね。アーサーも興味が出たみたい。二人は錬金術馬鹿だから、アピールするのに余念がない。
「それは、協力を惜しまないが、土曜日なのだろう? 少し時間が押しているな! 錬金術クラブメンバーを召集しよう!」
二人で、青葉祭の電飾階段を利用しようとか、熱心に話し合っている。これは、勝手にしてもらおう!
「ペイシェンス、前は『アリア』を歌う予定にしていたのだが、あの『乾杯の歌』を皆で歌いたいのだ。勿論、主役の二人は少女歌劇団のディーバ達に任せる。ただ、他の招待客にも合唱して欲しいのだ」
それは、良い演出だ。社交界デビューした令嬢や子弟達も、王立学園で音楽教育を受けている。皆で『乾杯の歌』を合唱すれば、パーティも盛り上がりそう。
「ヒロイン達以外は、単純な歌詞にすれば良いと思いますわ。それと、パーティに招待されている王立学園の学生に予め、歌詞を渡しておけば、より宜しいかと」
音楽クラブ、コーラスクラブ、グリークラブのメンバーも何人か招待されている。その人達がリードして、歌えば上手くいきそう。
これで、パーシバルとランチに行けるかな? と思ったけど、そうはいかなかった。
「ペイシェンス、これはマーガレット王女のソニア王国での立場を強くする為にもなるのだ。彼方は、自分達が文化的に優れていると勘違いしているからな!」
「女好きの恋狂いだけが文化ではない! 古臭いなよなよした音楽ばかりのくせに」
鼻息が荒いアルバートとマークス。この二人は、音楽関係だとムキになるんだよね。
「ペイシェンス、どうしましょう。ホテルにランチの予約をしているのですが……」
パーシバルは、私の意見を尊重しようとしてくれる。外務省的な考えでは、高慢なベーリング大使の鼻っ柱を折りたいのだろうけど、ランチの約束をしているからね。
「ランチなら、屋敷で用意させる! できれば、小劇も披露したいのだ。『愛あれば』は、二期生がメインなので屋敷に来させる!」
ああ、それは困るけど……マーガレット王女を馬鹿にされるのは腹が立つ!
「ええ、受けて立ちましょう!」
うっ、しまった! 傲慢なベーリング大使に対する腹立ちが爆発しちゃったよ!
「ペイシェンス、良いのですか?」とパーシバルが笑っている。
「よく言った! それでこそ、音楽の女神の申し子だ!」
アルバートが飛び上がって喜び、私を抱きしめようとしたけど、サッとパーシバルがガードした。
「兎も角、皆で屋敷にきて欲しい。ランチをしながら、これからのタイムスケジュールを立てよう」
メアリーは突然の予定変更に少し驚いているみたい。本当は、ホテルランチの予定だったけど、それはキャンセル! アルバートが、召使に丁重にキャンセルさせると請けあう。
「あのう、ラフォーレ公爵家に行かれて、大丈夫なのですか?」
馬車の中で、メアリーが質問する。前に、マーガレット王女がラフォーレ公爵は独身だから注意するようにと、警告したのを覚えていたみたい。
「パーシー様もカエサル様もアーサー様もマークス様も一緒ですもの。それに、メアリーも!」
メアリーは、ドンと胸を叩いて「お任せ下さい」と笑った。
突然の押しかけになるけど、ラフォーレ公爵家はビクともしない。それどころか、チャールズ様のお出迎えだ。アルバートが先触れを走らせたのかも。
「我が家の舞踏会の為に、ようこそいらして下さいました」
本当に、チャールズ様とマーガレット王女が結婚したら、凄く大切にして貰えるし、幸せなんじゃないかな? とつい思っちゃう。
でも恋心と走り出した外交関係のあれこれは止められない。
ランチの間は、メアリーは控室だけど、その他は一緒だとチャールズ様は和かに伝える。できた嫡男で、ラフォーレ公爵家は安泰だね。
ランチは、簡単に取れるようになっていた。上級食堂と同じ感じだよ。
食べながらも、アルバートとマークスは、どの曲を演奏するか話し合っている。
「編曲は、クレーマン教授にお手伝いをお願いした。もうすぐ来られるだろう」
チャールズ様は仕事が早い。それに、クレーマン教授は、パトロンの御意志に従おうとする決断も早いみたい。
「それでしたら、私は必要ないのでは?」
音楽関係は、クレーマン教授、アルバート、マークスがいれば十分だよね? お暇して、パーシバルとデートしたいんだけど。
「いや、ペイシェンスの方が音楽のセンスも良いし、演出の手伝いをして欲しい。クレーマン教授は、音楽の知識もあるが、新しい感覚はペイシェンスの方が上だ。だから、ロマノ大学では音楽学科で一緒に学ぼう!」
ええっと……と困っていたら、チャールズ様が救いの手を出してくれる。
「ロマノ大学は、学生の自主性を重んじている。ペイシェンス様は、自分の学びたいことを学ばれるだろう。それにしても、アルバート、今日の試験は大丈夫だったのか? 昨夜は遅くまで起きていたようだが」
アルバートだけでなく、マークスも夜更かししたみたい。
「落ちる事は無いと思います」とアルバートは言うけど、カエサル、アーサー、パーシバルは試験の問題が変わった事を話し合う。
「ペイシェンスの歴史と地理のノートのお陰で何とか書けました」
パーシバルには、ノートを渡していたからね。
「私達も、ベンジャミンからノートが回ってきたから、写させて貰って良かったよ」
「そう、あの暗黒の戦国時代がすっきりと整理されていたからね」
カエサルとアーサーからも感謝されたけど、アルバートとマークスにはノートは回っていなかったみたい。中等科三年の交友関係がわかるね!
アルバートは、試験は合格できたら良いだけだと強気だけど、マークスは顔色が悪くなった。
「万が一、不合格だったら、私が写したペイシェンスのノートを貸してあげよう!」
マークスは、カエサルの言葉に複雑な顔でお礼を言っている。
「ペイシェンス様のノート、私も一度拝見させて頂きたくなりますね」
チャールズ様ってお世辞を言わないタイプだと思っていたけど、社交辞令は身についているのかな?
「あれは、参考書にするべきだと思う。他の教科のノートもした方が良い」
カエサルとアーサーは、参考書推しだ。
確かに、家庭数学の教科書は分かり難い。
「後で話し合おう!」
今は、土曜の舞踏会の準備に急がなきゃね!
カエサルとアーサーは、手の空いている錬金術クラブのメンバーを呼び寄せ、青葉祭の電飾階段も運び込ませる。
ラフォーレ公爵家の召使が多くて、こんな時は助かるね!
そして、私はパーシバルとメアリーの付き添いつきで、少女歌劇団の二期生達の訓練に付き合う。




