ロマノ大学受験
水曜は、朝から少し緊張している。ロマノ大学の受験だからね。
それに、お父様と二人っきりの朝食も久しぶりだ。
「おはようございます」
「おはよう! 今日は試験だな」
珍しく挨拶だけじゃない。いや、普通の親なら、それが当たり前なのだろう。何だか、より緊張してきたよ。
「お嬢様、大丈夫ですよ!」
メアリーの励ましを受けて、二階の大教室へ向かう。
メアリーは侍女の控室で、細かなビーズ刺繍をリボンにするみたい。前のようにシャツや繕い物をしなくても良いけど、細かな装飾は時間と手間がかかるし、メアリーの得意分野だからね。
これは、ロマノ大学にもついて来そうだな! なんて合格前から溜息が出ちゃう。
実は、ロマノ大学生になったら、パーシバルとデートできないかなと考えていたんだよ。
メアリーは監視の目を緩めそうに無いな。
二階の大教室で、自分の受験番号の席に座る。
ラッキー! 窓側の後ろの席だ! 好きな席に当たったのは幸先が良い気がする。
少し早目に来たけど、何人も先に来て座っている。
あっ、アーサーだ! 知り合いを見つけると心強い。文官コースの中等科三年生の姿もチラホラ。
そろそろ始まる時間になって、アルバートが教室に来た。もしかして、編曲していて夜更かししたのかな? 大丈夫?
試験内容は予め告知されていた。一時間目は、国語。二時間目は、数学。三時間目は、古典。四時間目は、歴史と地理。
王立学園でもロマノ大学でも授業は一時間半だけど、試験はそれぞれ一時間。
それに途中で出ても良いシステム。
国語は、問題は簡単だった。最後の問は、作文で「ロマノ大学で何を学びたいのか述べろ」だ。
これは、過去問でもよく出ていたから、想定済みだ。
用意していた文章を綺麗に、綴りの間違いがないように書きながら、アルバートは音楽愛溢れた文章を書くのだろうかと想像したら、ぷっと笑いがこみあげて、平静を装うのに、ちょっと苦労しちゃった。
二時間目の数学は、解いて、見直して提出して出て行った。最後の大問は、ちょっと難しかったけど、大丈夫! トイレに行っておきたかったから。
ロマノ大学生は、男子が多いから、女子トイレは少ないんだよ。これも見学の時にチェックしておいた。でも、受験生、二階の大教室には女子は私だけだった。つまり、トイレは貸切状態。
鏡もあるので、リップクリームも塗り直しておく。試験が終わったら、パーシバルとランチする予定なんだもん。
古典は、問題は過去問とよく似ているから、すらすら解けたけど、最後の大問が違っていた。
『カザリア帝国の滅亡について、古語で述べよ』
これまでは、古語で自分の事や趣味などを書くとかだったよね? 教室のあちこちで、呻き声が上がる。
これは、もしかしてお父様が学長になったから『過去問だけで合格はさせないぞ!』と教育改革をやり始めたのかしら?
幸い、私のクラスメート、フィリップスと文官の授業をよく一緒に受けていたから、カザリア帝国の滅亡についてはかなり詳しい。フィリップスったら、休憩時間に、ずっと話しているんだもん。
それを古語で書いていく。今のローレンス語と文法が違う箇所は気をつけて書かなきゃね!
ただ、長くなりすぎたんじゃないか? 答案用紙にびっしりになったのは、ちょっと不安。もっと簡潔に纏めて書くべきだったかも。
この試験は、途中で退場する学生はいなかった。
「終わりですよ!」と肩を叩かれる学生もいたほど。
『お父様、教育改革は緩やかにお願いします!』と心でお祈りしておく。首は困るからね!
それと、明明とナシウスに過去問頼りは駄目だと教えておかなきゃ! まぁ、ナシウスの受験の頃には、最新の過去問が出そうだけどね。
歴史と地理は、問題は簡単だったけど、最後の大問がまた難題だったんだ。
「カザリア帝国から独立した王国の一つを取り上げ、地理的要因を含めて述べよ」
大教室中に呻き声が上がっている。あの暗黒の戦国時代は、授業中はサラリと通り過ぎたんだ。
歴史の先生は、カザリア帝国の繁栄と崩壊を語るのが好きだからね。
そして、自国のローレンス王国の成り立ちへジャンプしちゃう感じだったんだよね。
ローレンス王国の歴史は、ここにいる学生は詳しいけど、カザリア帝国から独立してはいない。だから、書けない。
ローレンス王国の前の、前の王国が分裂独立して、それが他の王国に滅ぼされたり、ごちゃごちゃなんだよ。
『カザリア帝国から分裂した王国かぁ。それに地理的要因を絡めるなら、ソニア王国の前王国であるフィニキア王国かな?』
私は、昨年の夏休み苦労して、歴史の年表と歴史地図を書いたからね。
一番、地理的要因を絡ませ易いフィニキア王国にした。
東方の騎馬民族との交易とかで、経済力を付けて独立の資金を貯めたんだよ。
まぁ、カザリア帝国の第四だったか、第五王子が旗頭になっているんだけどさ。名前はフィニキア! 初代王の名前と王国の名前が同じなのはラッキー! 第五だったと思うけど……魔法暗記能力をここで使って良いのかな? 王立学園の学長は使って良いと言ったよね? やはり第五王子だった。
それと、ノートの内容も詳しく蘇ったから、びっしりと書いちゃった。これも、もっと簡潔に纏めるべきだったのかも。
「これで試験は終わりです。結果は、金曜の午後一時に発表します。合格した学生は、各自、指導教授に面談を申し込むように」
やったね! 試験って、やっぱり疲れるよ! さて、パーシバルが迎えにくる約束だから、待っていようと席に座っていると、アルバートが凄い勢いでやってくる。
「ペイシェンス! これから時間はないか?」
アルバート、顔色が悪い。元々、色白だけど、青みががっている。
「申し訳ありません。パーシバル様と食事の約束を致しています」
これって決定的なお断り文句だよね。婚約者とのデートを邪魔する奴は馬に蹴られるんだよ! なんなら、馬の王に蹴らすぞ!
同じ教室で受験していたアーサーが助けに来てくれた。
「アルバート、不粋な真似は止めろ!」
そう、そう! それにパーシバルがお迎えに来てくれた。
あれっ? カエサルも一緒なんだけど? それにグリークラブのマークス・ランバート元部長まで?
「ペイシェンス! 大変なんだ!」
あれっ? マークスも顔色が悪い。それにパーシバルとカエサルも何故か居心地悪そう。
「マークス、それはお前達の問題だろう! ペイシェンスを巻き込むな!」
カエサルは、マークスを止めているみたい。ただ、パーシバルは戸惑っている。もしかして、少女歌劇団絡みなの? モラン伯爵夫人がパトロンだから、きつく断れないのかな?
試験の後の、ランチデートは波乱含みだよ。




