新しいドレスと新しい歌!
誕生日会の夜は、パーシバルと馬車で少しだけデート! まぁ、モラン伯爵夫妻と夕食を共にするから、そのお迎えに来ただけとも言えるけどね。
食事は美味しかったし、デザートは私が誕生日プレゼントのお返しに配ったホールのケーキ。
ゲイツ様は、悩みに悩んでメロンケーキにした。パーシバルは、二位だったけど、レディファーストの精神でアンジェラに譲った。
「チョコレートケーキにしたいのですが、弟達にはブランデーは駄目なので、梨のタルトにします」
うん、下の弟達の事も考える優しいアンジェラ! 可愛いね!
そんな訳で、パーシバルはチョコレートケーキ! ちなみにサミュエルは、チーズケーキにした。夏休みに食べてからハマっているみたい。
「このチョコレートケーキのレシピを是非頂きたいです」
「勿論、お渡ししますわ」
将来の義理のお母様には、良い娘だと思われたいからね。
食事の後は、サロンで話し合いだけど、内容はやはりマーガレット王女のソニア王国訪問だ。
「日程は、後ほど渡しますが、国内は問題ないでしょう。それに、ソニア王国内もパリス王子とカレン王女も一緒だから、安全面は考慮されている。ただ、あちらの貴族は少し尊大な感じだから、ペイシェンスにはマーガレット王女の側にいてあげて欲しい」
それって、ベーリング大使とよく似た感じなのかな? ちょっと気が重くなる。
「ベネッセ侯爵夫人が同行して下さるのは、とても心強いですわ」
モラン伯爵夫人に慰められる。
「それと、王都ソフィアにはローズウェル大使夫妻がいるから、頼りになると思います。御一行の世話係として、第一秘書官のマーチン夫妻も大使館に詰めているから、細かい指示はそちらから受ける事も多いだろう」
ローレンス王国の外務省にとっても、マーガレット王女とパリス王子の婚約は一大イベントなので、遣り手な外交官を集結させているそうだ。パーシバルが私の横で、ソワソワしている。
外交官の人となりとか知りたいのだろう。未来の上司になる可能性もあるんだからね。
「パーシバル、後で情報を与えよう。だが、この場では、ペイシェンス様と話し合わなくてはいけないのだ」
一瞬、浄化の魔法陣の件かな? と思ったけど、全く違う話だった。
モラン伯爵夫人が銀の鈴を鳴らすと、予め話していたのか、家政婦がドレスを持ってきた。
「これは、ローズウェル大使夫人に頼んで、今年流行のドレスを送って頂いたのです。王妃様にも届けていますが、かなりローレンス王国の流行とは違うので、用意した方が良いと思いますわ。それに、来年はこのようなドレスがロマノでも流行りそうですから」
今年のロマノ社交界の流行のドレスは、一世代前みたいにフープで膨らませたりしていないスタイルだけど、数年前のソフィアの流行を取り入れたレースとフリルが多用されているんだ。
「かなり、スッキリしていて、とても素敵ですわ!」
砂糖菓子! とユージーヌ卿に言われている流行のドレスより、こちらの方が好みだ。
「まぁ、ペイシェンス様ならそう言われるのではと思っていましたわ。今夜のドレスもとてもお似合いで素敵ですもの」
嬉しい! センスが良いと評判のモラン伯爵夫人に褒められた。
ドレスは見本として箱に入れてメアリーが持って帰った。
デザインを任せているマダム・マグノリアに見せて、若々しいドレスを作って貰おう! ちょこっと、前世のハリウッド女優が着ていたドレスに似ていて、テンション上がるよ! ただ、胸のボリュームがある方が格好良いのは、悲しいけどさ。
「ペイシェンス、誕生日おめでとう!」
馬車で屋敷に送って貰い、玄関前でパーシバルとキスした。ハッピーバースデーだよ!
◇
ナシウスは日曜に寮に行ったけど、私はモラン伯爵家に招待されていたので、月曜の午前中に王立学園に行った。
月曜の二時間目は、明明とカフェでお茶をする。
「水曜にロマノ大学の試験なのに、私とお茶なんかしていて良いのでしょうか?」
「火曜の夕方に屋敷に戻りますわ。残り少ない王立学園の生活だから、精一杯楽しみたいのです」
明明が、少しわかると笑った。
「初めは、王立学園に馴染めませんでしたが、お友だちもできました。通わせて下さっている美麗様に感謝しております」
その美麗様と明明は、少女歌劇団にハマったみたい。
「パーシバル様にチケットを頂いて、美麗様と観劇いたしましたの。とても美しくて、夢のような時間でした。コッソリと二回行きましたのよ」
ロマノで楽しみを見つけた様で良かった。
「次の演目も楽しみにしているのです」
明明は、単に少女歌劇団のファンとして言ったのだけど、アルバート元部長に頼まれていた事を思い出しちゃった。
月曜は、錬金術クラブに行って、乾燥機の改良版を検討したり、プレス機の軽量化を議論した。
「ある程度の重みが無いと、シーツのプレスは無理だろう!」
カエサルとかベンジャミンは、私と関わらなければ、洗濯とか乾燥とかプレスとか知らなかったかもね。
でも、今の錬金術クラブのメンバーは、上級貴族の子弟も洗濯物にめちゃ詳しい。
「重みは必要ですが、洗濯は基本は下女がする事が多いので、もっと扱い易くしなくてはいけないのです」
ここで、下男がすれば良いとか言い出したら、話が横に逸れちゃう。まぁ、男の人が洗濯しても良いと私は思うけど、女の人の仕事場を奪う事になるから、簡単には語れない問題なんだよね。
錬金術クラブで、わいわい議論したら、夕食まで寮で女子の勉強会だ。私も、ロマノ大学の受験勉強しなきゃいけないのかも? でも、もうやる事はやった!
だから、明明に言われて思い出した少女歌劇団への新曲を考えていた。
アルバートから、次の演目のストーリー展開を書いた紙を受け取っているので、それを読む。
「マチネーとソワレで別の演目なのね」
確かに、マチネーには女の子と母親とか、子どもを連れた観客が多かった。
昼は、前世の『サウンドミュージック』に似たストーリーで『愛あれば』。
時代は、カザリア帝国が他の小国の独立を食い止めようと、かなり悪い事をしでかしていた頃。
子沢山のやもめ貴族と、家庭教師に雇われた没落令嬢の恋物語と、カザリア帝国の圧政からの独立が同時進行。普段なら、貴族と家庭教師の結婚は無しだけど、革命の最中で有りになっている。
「これなら、何曲か思い浮かぶわ」
ミュージカルは好きだったからね。それに有名な曲も多い。他のミュージカルの明るい曲も混ぜたら良いかも。
ソワレの方は少し色っぽい恋愛物! 前世の『椿姫』に似ているけど、こちらでは『薔薇姫』。薔薇の白を渡す日は愛人の公爵は来ない。赤は駄目な日。
似すぎているけど、愛人がヒロインで王妃様は良いのかしら? まぁ、古典になっている悲恋物語だから、良いのかな?
「オペラは興味なかったけど……でも、『乾杯の歌』は有名だったよね!」
明日は、音楽クラブの日だ。サミュエルに楽譜に起こして貰おう! 大体の歌詞とかは、ノートに書いて、今日の作業はお終い。
リリーナとエリザベスが家庭数学でつまづいているので、説明して過ごす。
「ペイシェンス、何か新曲を考えていたでしょう!」
勉強会を終えて、少しお茶で休憩していると、音楽関係に鋭いマーガレット王女に訊かれる。
「ええ、少女歌劇団の新しい演目に一、二曲頼まれましたの」
キラリ! と目が光り、早速、ハノンで弾くことになった。
『乾杯の歌』は、主人公の若い貴公子と、ヒロインの愛人がパーティで出会って、お互いに歌い合い、周りも合唱して、歌も恋も盛り上がっていく感じだ。
「素晴らしいわ! これをコーラスクラブとグリークラブと音楽クラブで収穫祭の演し物にすれば良いと思うわ!」
えっ、これは……アルバート元部長に任せよう。だって、コーラス部長のリュミエラ王女もマーガレット王女と手を取り合って喜んでいるんだもん。
◇
火曜日、サミュエルに少し早く音楽クラブに来て貰った。
だって、午後から音楽クラブで『薔薇姫』用の『乾杯の歌』、『愛あれば』用の『ドレミの歌』『私の好きな物』『ケセラセラ』をアルバート元部長に聴かせたら、大興奮しちゃったんだ。
サミュエルに楽譜に起こしてもらって、後はお任せする。
「アルバート、この『乾杯の歌』を音楽クラブ、コーラスクラブ、グリークラブ共同の演し物にしたいの。『再会の歌』の前に、こちらを全員で歌っても盛り上がりそうよ!」
ははは、アルバート元部長も困っている。それにしても、彼も明日ロマノ大学の受験だけど、大丈夫なのかな? まぁ、勉強面はしっかりと家庭教師がさせているだろうから、私が心配する事ではないよね!




