ソニア王国大使館のパーティの後に!
金曜のカルディナ帝国語、唯一の授業なのにサボっちゃったなぁ。
馬車で王都に戻りながら、少し反省モード。領地の近くの貴族との社交も大事だけど、これではアルバート元部長やカエサル元部長みたいだよね。
それと、明明とカフェでお茶しながら話しているから、簡単なカルディナ語は話せるようになったけど、文章はまだまだなんだよね。
王さんに貰った薬草人参を栽培したいけど、カルディナ帝国の書物が辞書片手でも、なかなか読めないから、もっと勉強しなきゃいけないんだ。
その前に、カルディナ帝国の薬草についての本を手に入れる必要もありそうだけどね。
李先生は、王立学園ではカルディナ帝国文字は簡単な物しか教えないって最初の授業で言っていたけど、尋ねれば文法も教えてくれる。
だから、なるべく欠席したくなかったんだ。仕方ないけどさ。
「メアリー、日曜のヘンリーの誕生日パーティだけど、招待客はサミュエルとアンジェラだけで良いのかしら?」
ヘンリーの友だちがいない状態だから、困っちゃう。この世界では、子どもは家の中にいるって感じだから。田舎の庶民は、また違うのかな? こんど領地に帰った時に聞いてみよう!
「パーシバル様もお呼びされるのですよね。ヘンリー様は、それで十分では?」
夏休みの騎士合宿で、リンダ達と一緒に訓練はしていたけど、正式なメンバーじゃなかったから友達とは呼べない。
「サリエス卿とユージーヌ卿は、お忙しいみたいですし、王立学園に通われるようになったら、お友だちも増えるのでは?」
社交界シーズン真っ只中なので、王族の警備も多いからね。ただ、メアリーは何か言いたそう。
「メアリー?」と尋ねると「ゲイツ様は?」と言う。
「ゲイツ様は、次の週の食事会にお呼びするから、良いと思ったの」
はぁと、メアリーが溜息をつく。
「それって……招待しなくても、ゲイツ様が来られるって事なのかしら? 私は、誕生日会の後で……」
パーシバルとデートの予定があるのは、メアリーには言っておきたくない。どうせ、ついて来るだろうけど……出来たら、二人っきりでと思っているから。まぁ、無理だろうけど。暗雲が立ち込めてきた感じがする。
朝一にグレンジャーを出て、お茶の時間前に屋敷に着いた。
マッドクラブやグレンジャー海老などを積んだ冷凍車は、夕方に着く予定。モラン伯爵家や親戚にも配るよ!
「パーシー様、お茶を一緒に!」
馬の王となら先に着くパーシバルだけど、最後の休憩の後は、馬車の横で一緒に着いたんだ。
馬の王は、爆走だけじゃなく、馬車の速度に合わせて走る練習にもなったみたい。
「ブヒヒヒヒン!」馬の王は少し不満だったみたいだけど、グレンジャーから王都まで遠乗りしたんだから、良いんじゃないの?
サンダーとジニーに馬の王の手入れを任せて、パーシバルと屋敷に入る。
エバが同行していたけど、屋敷の調理人助手達も腕を上げている。
「ナシウス、ヘンリー! ただいま」
弟達にキスして、お父様も一緒にお茶をする。
パーシバルも、疲れているだろうから、お茶が終わったら、屋敷に戻る。
「お嬢様、ソニア王国の大使館のパーティのドレスですが……」
メアリーは、ドレス選びに熱中しているけど、私はヘンリーの誕生日パーティの準備の方が気になる。
社交界デビューした時は、わくわく、ドキドキしたけどね。
明日のパーティは、マーガレット王女とパリス王子の婚約披露もあるから、参加する意義があるけど、結婚相手を探す必要がないから、普通のパーティに行く意味を感じられない。
こちらの貴族は、パーティで人脈を広げたりするみたいだけど……デビュタントの私は、それも難しい。領主だけど、まだ十三歳だからね。
だから、ヘンリーの誕生日パーティの方をついつい考えちゃうんだ。
誕生日パーティの飾り、バルーンは、ナシウスの時に作ったんだけど、ゲイツ様がプレゼントしてくれた投げたら当たるペーパーナイフの的になっちゃった。
ヘンリーには、もっとアクティブなゲームが相応しいのだけど……空飛ぶスケボーとかは、やらかし案件になりそうだからなぁ。喜ぶのは確実だけど駄目だ。
普通に遊べる人生ゲーム、外遊びなら竹馬、縄跳びがあるんだよね。もっとアクティブな遊び……トランポリンとか楽しそう。ドレスでは出来ないけど……ヘンリーなら楽しむよね?
それに、体幹を鍛えるのにトランポリンは良いと聞いていた。明日は、ソニア王国大使館のパーティだから、身体を休めておかないといけないのだけど……トランポリンを作りたいなぁ。
とはいえ、グレンジャーから帰っただけで、疲れているから今夜はゆっくりと休むけどね。
だから、トランポリンを作る為の設計図とか、材料とかを考えながら眠った。
トランポリンは、枠は錬金術で簡単に作れるけど、マットというか布部分を弾ませる為のゴムがないんだよ!
夜中は、やはり疲れていたから思い付かなかったんだ。
「これではトランポリンは駄目ね」
魔物の素材で収縮性がある物があるかも知らないけど、明日の誕生日パーティには間に合わない。
「そうだわ! ヘンリーは球体の中でクルクル回るのが好きだったわ」
防衛魔法で使った魔法、他の人には凄く不評だったけど、ヘンリーは気に入ったんだよね。
前世のサーカスやパフォーマンスで、ホイールというのがあった。単なる金属の大きな輪っかもあったけど、二重になっていて中に持ち手や足を固定する物がついているのもあった。
「いつか、伸縮性のある物質を見つけて、トランポリンを作ろう! 明日は、ホイールで楽しんだら良いわ」
私やアンジェラ用に、棒で転がして遊べる小さなホイールも作る。
「お嬢様!」
メアリーが身体を休めておくようにと、半地下の工房から私をベッドに連れて行く。
ペイシェンスの身体は弱い。特に、夜遅くまでパーティに行くと疲れるから、お昼寝は必須だ。眠れなくても、ベッドで身体を休めておかなきゃ駄目なんだ。
「他のクラスメイト達、もっとパーティに参加しているみたいだけど、元気だよね」
その代わり、領地に行ったりしていないけどさ。
昼食も部屋に運んでもらって簡単に食べる。弟達と一緒に食べたいなぁ。でも、お腹がいっぱいになったら、お昼寝しちゃった。
下で食べたら、すぐには眠れなかったかも。
夕方、軽く食べてから、お風呂に入ってドレスに着替える。
今夜のドレスは、王妃様に頂いた高級なドレス! これは、マーガレット王女の婚約披露パーティに相応しいと思ってメアリーが決めたんだ。
ただ、同じアクセサリーはいただけないと言うので、今夜はオパール三点セット。
「もう少し豪華なアクセサリーも必要ですね」
ふぅ、独身のうちはこのくらいで良いと思う。
それに、ドレスに銀ビーズの刺繍も付け加えてあるから、アクセサリーは控え目でも十分だと思う。
今夜も、パーシバルとは大使館で合流だ。リリアナ伯母様とノースコート伯爵と一緒の馬車で向かう。
ソニア王国の大使館、行くのは初めてだけど、王太子の婚約披露パーティに相応しくシャンデリアは煌めき、バラの花が彼方此方に飾ってあった。
パーシバルと合流して、パリス王子とマーガレット王女の婚約披露を待っていると、王妃様に手招きされちゃった。
「ペイシェンス、これからもマーガレットを宜しくお願いします」
あれれ? 側仕えは卒業したら終わりだと思っていたけど?
「もしかして、ソニア王国を訪問されるのですか?」
パーシバルが小声で尋ねる。
「ええ、そうなりそうなのです。陛下は、ペイシェンスを外国に出すのは反対ですが、短期間なので私がお願いしたら許可して下さったのです」
ありゃりゃ! それは、少し大変かも? ソニア王国の王妃様って、聖皇様の妹だよね?
「信頼できる騎士とゲイツ様も同行して頂きますから」
それって、決定なのですね。トホホ……。
でも、パリス王子の横で幸せに輝いているマーガレット王女を見たら、一緒に行きたい! って気持ちになった。
パーシバルと踊りながら、ゲイツ様の話になった。
「ゲイツ様は、竜の谷に行かれると言われていましたが?」
だよね? どういうスケジュールなのかは、わからないけど、マーガレット王女がソニア王国を訪問するのは、冬休みだと思う。
「冬休み前に竜の谷に行かれるのかしら? それとも、訪問後かしら?」
どちらにせよ、竜の谷には行かないよ! パーシバルもソニア王国には同行しそうだし、初海外旅行だ。




