社交は……疲れるね!
グレンジャーの収穫祭、何十年も領主がいない状態だったので、何だか凄く盛り上がっている。久々の収穫祭なのかな? 村ごとの地味なのはやっていたみたいだけど?
「ハープシャーの収穫祭の噂が流れているのでしょう」
モンテス氏が満足そうに収穫祭の賑わいを見ている。綿菓子は、子どもに人気なのは分かるけど、やはり食べ物の人気も高い。
「マッドクラブのスープ、大人気ですね。それに焼肉のソースも美味しそうです」
いずれ、ここでもハープシャーのワインを皆で楽しんで欲しいな。
今は、エール。前世では、ビール、ワイン、お酒が好きだった。エールには馴染みがないんだけど、この世界の庶民のお酒はエールみたい。
「飲んでみたいな……」
つい、本音がポロリ! いや、ペイシェンスは十三歳だから飲まないよ。
ただ、こちらの世界では下戸はいないみたいなので、十五歳、十六歳になるのが楽しみ! 社交界デビューしたらお酒解禁な雰囲気だから、十五歳になったら、一口ぐらいは良いのかな?
これ、パーシバルがまだ着いていないから、油断してつい口に出ちゃった。ペイシェンスがお母様の元に行ってから、マナーが崩壊する時があるから気をつけなきゃね!
パーシバルは、次の日の朝一で私と一緒に王都に行くから、モラン領の管理人と話し合ってから来るんだ。
そうこうするうちに、隣の領地の領主夫妻が到着する時間になった。
パーシバルの方が先に着いてくれると良いのだけど……。
だって、知らない人達と会うのって少し緊張しちゃうんだもの。
収穫祭の会場から離れて、グレンジャー館に戻る。朝から、昼食会用のドレスに着替えていたから、急ぐ必要はないのだけど、バタバタした感じになるのは嫌だからね。
「パーシー様、来てくださったのね!」
早めに来るとは言ってくれていたけど、やはり、他の方の到着前に着くように気を使ってくれるのは嬉しい。
「ええ、馬の王が張り切ってくれたので」
二人で応接室でお客様が到着するまで、少し相談する。
「やはり、ラフォーレ公爵家のパーティはパス出来そうにありませんね」
王都に帰った第二土曜はソニア王国の大使館の舞踏会、これはマーガレット王女とパリス王子の婚約披露パーティだから、上級貴族は全員参加! 欠席は無しだね。
次の日曜は、ヘンリーの誕生日会! まぁ、私のも一緒だ。今年は、誕生日会の後でパーシバルと少しデート出来たら良いなと思っている。
問題は、第三土曜のラフォーレ公爵家のパーティだ。これは、不参加で良いと王妃様にも許可を貰ったんだけど……少女歌劇団が余興で呼ばれているんだよね。
音楽クラブで、アルバート元部長がその話をしたら、クラブメンバーのほぼ全員が行く事になったんだ。
あっ、社交界デビューしたメンバーだけだよ。サミュエルやアンジェラ達は、凄く羨ましそうな顔をしていたけどね。
「ペイシェンスの作曲した『アリア』を歌うのだ。本人が来ないと困る」
それと、私が暇なのを見逃してくれるアルバート元部長じゃない。
「今の演目は好評だけど、次の演目の相談にのって欲しい」
「私は、領地に行かないといけませんし……ロマノ大学の受験もありますし……」
しどろもどろでお断りしたんだけど、そんなの鼻で笑われちゃった。アルバートもロマノ大学を受験するけど、何も問題ないって態度なんだ。
それに、ラフォーレ公爵家のパーティ前に一回目のロマノ大学の受験が終わっているとも言われた。合格していたら良いのだけど……ちょこっとだけ不安なんだ。多分、大丈夫だとは思っているけどね。
「クラーク教授は、良い作曲家だけど、少し古い感覚なのだ。ペイシェンスに、一、ニ曲作って貰えば、より良い少女歌劇団になるだろう」
それは……ちょっと断りにくい。報酬に負けたんじゃないよ。
「一、ニ曲で良いのなら」
報酬や押しに弱いのではなく、私もより良い少女歌劇団を観劇したい欲望に負けたんだ。
こんな話をしたのに、ラフォーレ公爵家のパーティを欠席にはし難い。
パーシバルも、私とラフォーレ公爵の経緯を両親に話して、一旦は欠席と決まっていたのだけど、お母様が少女歌劇のパトロンの関係で、出席して欲しいと言われているみたい。
「次の日曜は、ゲイツ様の食事会なのですよね」
ふぅ、何回か突撃食事会があったのだから、もう良いんじゃない? と思うけど、ノースコート伯爵領に司教が来たのを追い払って貰ったお礼だからね。
「何だかゲイツ様には腹が立つ事が多いですが、私は借りを返さないままは嫌なので……」
パーシバルがくすくす笑っていると、ハーパーが前触れが着いたと言うので、二人で玄関に出迎えに行く。
年配のマイセン子爵夫妻と若いガードナー男爵夫妻、パーシバルとは顔見知りなので、私を紹介して貰う。
「馬車で収穫祭の様子を見ましたが、とても盛況ですな」
確かに、ハープシャーの時よりも人が多い。あちらの時は、まだ他の地区は収穫前だったからかな? 忙しくて、他所の収穫祭に行くどころじゃなかったのかもね。
「私の領地まで、ハープシャーの収穫祭の噂が流れていましたから、グレンジャーに来たのでしょう」
マイセン子爵領、海沿いのお隣さん。ただ、うちの遠浅の海辺と違って良い港になりそうなんだよね。羨ましい!
「マッドクラブは、グレンジャー海岸に多いみたいですなぁ」
そりゃ、遠浅だから……前菜のマッドクラブのテリーヌ、雲丹も添えてあって美味しいけど……港があればなぁと溜息を押し殺す。
ガードナー男爵夫妻は、新婚ではないと聞いていたけど、熱々なムード。
二人で「美味しいですね」と顔を見合わせて微笑んでいる。
良いなぁ! 私も早くパーシバルと結婚したいけど、十三歳だからね。
エバが頑張ってくれたので、どの料理も美味しくて好評だ。それに、改築されたグレンジャー館もね!
「外でお茶にしましょう」
十月だけど、まだ暖かいから、テラスでお茶にする。
「まぁ、素敵ですわ!」
若いガードナー男爵夫人が、男爵の腕を取って笑っている。
「海の景色が一望できて、素晴らしいですな」
年配のマイセン子爵夫妻にも好評だ。
「春にグレンジャーホテルとしてオープンしようと考えているのです」
どちらも、夏休みには親戚や友人が多いみたいで、気晴らしに良さそうだと喜んでくれた。
それと、マイセン子爵の息子夫婦も、モラン伯爵家のパーティには招待されているそうなので、そこで挨拶させてもらう段取りになった。
収穫祭も少し案内して、そこで解散になった。お土産は、グレンジャー海老とマッドクラブ! それと、エバのアップルパイ!
お客様を見送ってから、王都に戻る準備だ。
木曜に帰る予定だったけど、もう夕方だからね。金曜の朝一に帰る。
「パーシー様、モラン伯爵館までお気をつけて」
本当に保護者がいないと、一緒に過ごせないのって凄く不便。
「お嬢様も早くお休みにならないと……」
メアリーに言われなくても、くたくただから早めにベッドに入る。やはり、知らない人との昼食会で疲れたんだ。




