グレンジャーの収穫祭の準備
今回のグレンジャー行きの道中は馬車にした。前の晩のパーティで疲れていたからね。
気候は、暑くも寒くもないから、馬の王で遠乗りも良いけど、やはり馬車の方が身体は楽だ。
今回は、エバも連れて行く。やはり、ロマノは内陸にあるから、魚介類の扱いは少ないので、エバにはもっと料理の幅を広げて貰いたい。
ハープシャーと差を付けるのはいけないから、ほぼ一緒の内容だ。
ただ、魔物がビッグボアからマッドクラブかビッグホエールになる感じかなと思っている。
この海の魔物の討伐、実は隣のノースコート伯爵領のお世話になっているんだよね。
マッドクラブは、浅瀬にいるから討伐できる。でもビッグホエールとかは、大きな船が無いと無理なんだ。
親戚だし、ノースコートには海軍が駐在しているから、こちらもカバーしてくれているけど、いずれは何とかしないといけない。
これは、漁業でも言えることなんだよね。今は、小さな船で沿岸漁業なんだ。
海洋生物学のベッカム教授にも沖に生息する魔物を調査したいと頼まれている。リヴァイアサンは、ちょっと嫌だけど、美味しい魔物も多そう。気になっているんだよね。
それに、グレンジャー領のテコ入れにもなりそうだから。
ほぼ、馬車ではうとうとしながら、グレンジャー館に着いた。そう、今回は、グレンジャー館に滞在する予定。
ホテルにする計画だけど、使用人の教育は遅れているから、アダムとメーガンに喝を入れてくれるように頼まれたのもあるんだ。
ただ、ハープシャー館から管理人や家政婦や執事は来てもらうんだけどね。やはり、私の世話をしてくれるメアリーは連れて行くけど、それだけでは不自由もあるから。
パーシバルは、モラン館に滞在するからハープシャーより遠くなるけど、本人は平気だと言うんだ。
私なら無理だけど、馬の王と遠乗りができるのは大歓迎みたい。ちょっと、私には理解できないけど、パーシバルが良いと言っているから……大丈夫だよね?
「子爵様、お帰りなさい!」
玄関に勢揃いの出迎えは、やめて欲しいと思うけど、これも使用人の教育の一環だと言われて諦める。それに、グレンジャー館の使用人とは、接点が少ないからね。確かに身嗜みや姿勢のチェックにはなると思う。
先ずは、管理人のモンテス氏とグレンジャーの収穫祭の打ち合わせ。これには、パーシバルも参加してもらう。
「綿菓子や焼き芋、そしてマッドクラブのスープを作る用意はしてあります。ただ、やはり収穫祭なので肉も欲しいと領民は思っているかもしれません」
グレンジャーには大きな森は無いので、魔物も小物が多い。私的には、そっちの方が良いんじゃないかなと思うけど、魔物は肉の供給にもなっているんだよね。魚は普段食べているから、肉がご馳走って感覚なの?
「そうなのですね。私は、王都育ちなので魚介類の方が嬉しいのですが……騎士達に何か討伐して、提供して貰いましょう」
マッドクラブは、私とパーシバルでも討伐できるからね。
ただ、マッドクラブのスープ、地元で食べている潮煮ではなく、少しスパイシーな味にする予定なんだ。スープカレーほどは、スパイシーにはしないけどね。マッドクラブの味を生かせる程度のスパイスを使ってもらう。料理関係は、エバに任せている。
それと、グレンジャーで栽培したお米! これは、是非とも食べ方を広めたい。
夏休みにパエリアをエバに作って貰ったけど、大勢に振る舞うには、向かない。
前世では、巨大パエリアの記録に挑戦して、大きな平鍋で作っているのをテレビで見たけどね。
だから、リゾットを考えている。魚とケイレブ海老のリゾット、きっと美味しいと思う。大鍋は、災害時用とかのがあるからね。
それに、すこし肌寒くなる季節だから、温まるのは良いよね。
こちらの使用人にも古着を支給する予定。モンテス氏は、甘やかしていると言いたそうだけど、古着なので苦情は無かったよ。まだまだ人材不足だから、人気取りの意味もある。
それに、モンテス氏、仮家政婦のリラ、仮執事のハーパーには、新しいコートと服を支給したんだ。
勿論、アダムやメーガンやスミス氏やケリーにもね! 私の個人的な護衛のベリンダにも、冬の制服とマント、王都で店に同行する場合のドレスも用意したよ。
これから、特産品の店をオープンさせたりするから、あちこち見学したいんだよね。護衛のままでも良いけど、目立たないようにしたい場合もあるから。
それと、騎士達の冬服とマント、それに兵士達の冬服も支給する。縫い子が多くて、助かったよ。縫い子達は、ミシンも上手くなったから、直線とかは早く仕上げられたしね。一時に何人も雇った時は、失敗したかなぁと反省したけど、今は凄く助かっている。
社交界が始まって、ドレスの発注も凄く多いから、マダム・マグノリアに任せておける。
友達として、屋敷に来た時に話したりはするけど、ずっとドレス作りに時間を取られるのは困るからね。今のところ、マリーが助手になっている。モリーは、型紙から勉強中! 他のお針子達も、頑張って欲しい。
いずれは、マダム・マグノリアのドレスメーカーを王都に作りたいし、マリーやモリーにプレタポルテの店を開いて貰っても良いと思っているんだ。
それと、グレンジャー館に泊まるのは、錬金術クラブで作った業務用の洗濯機と乾燥機とプレス機の試運転も兼ねている。
洗濯機は、シーツの洗濯に特化させて、お湯で洗う。それに乾燥機とプレス機! 乾燥機で回すと、やはり普通に干すよりシワが多くなっちゃう。
プレス機は、まだ実験段階だから、ここで使って要改善! 実際に使用人達に使って貰って、何処が使い難いとか調査したいんだ。
早めの夕食の後、パーシバルはモラン館に。寂しいな。
「お嬢様、早くお休みにならないと」
感傷的な気分で、窓から北のモラン領の方を眺めていたけど、メアリーに叱られちゃった。
「でも、明日も明後日もパーシー様はいらっしゃらないのよ」
今年の夏休みは、モラン伯爵夫妻は王族の縁談で領地に帰る暇がなかった。それに、今年の社交界は、自国の王室との縁談のある大使館のパーティが目白押しで、収穫祭に参加も無理みたい。
つまり、パーシバルがモラン領の収穫祭に参加するんだ。
本当なら、私も一緒に参加したいけど……未婚の令嬢って、保護者がいないと気をつけて行動しないと駄目だと、リリアナ伯母様に注意されて我慢している。
「グレンジャーの収穫祭の準備をしなくてはいけないのですから、身体をお休め下さい」
メアリーの言う通りなんだよね。パーティで夜遅くまで起きているのは、身体が丈夫ではないペイシェンスにとっては負担なんだ。
だから、ベッドに素直に入ったよ。すぐに寝ちゃった。




