受験準備
王宮での社交界デビュー、マーガレット王女もリュミエラ王女も幸せそうで良かった。
ダンスの合間に少しだけお祝いを言えたんだ。
「婚約、おめでとうございます!」と一言だけだったけど、マーガレット王女もリュミエラ王女も目がキラキラして眩しいぐらいだったよ。
こちらまで、ハッピーになった。
舞踏会で、パーシバルと何曲か踊った。こんな時、婚約者がいると楽だ。
舞踏会は、夕方から深夜まで開かれるけど、私とパーシバルは、そんなに遅くまで参加する気は初めからなかった。
後見人のリリアナ伯母様も結婚相手を見つける必要がないのだからと、早々の帰宅を許してくれていたんだ。とは言え、国王陛下ご夫妻が会場を後にされるまでは、帰るのはマナー的に駄目なんだけどね。
夕方から始まった舞踏会、最初に踊っているのは、デビュタントだけだったけど、少しずつ去年社交界デビューした令嬢達も加わって、賑やかになっている。
宴たけなわな時に、マーガレット王女は、王妃様に連れられて、渋々、パリス王子と別れて離宮に戻った。本当は、夜更けまで踊りたかった筈だ。
リュミエラ王女も大使館夫人に連れられて、渋々、リチャード王子とのダンスを諦めて帰った。
コルドバ王国の大使夫人は、次代の王妃になるリュミエラ王女が夜遅くまでパーティで婚約者と踊るのは相応しくないと考えたのかもね。
二人とも気の毒だけど、私の体力は限界だ。朝から支度したので疲れたからだ。
「これからは、真剣に結婚相手を探している方達ばかりになるから、ペイシェンスも帰ったら良いわ」
お父様は、国王陛下と少し話をしたみたい。私は、パーシバルと踊っていたから、ターンの途中にチラリと見ただけだ。
パーシバルは、モラン伯爵夫妻と帰るので、王宮の前で頬にキスしてもらって別れた。
「ペイシェンス、とてもユリアンヌに似てきたな」
それって、綺麗だと褒めているんだよね?
「本当にユリアンヌ様に似ているわ」
リリアナ伯母様にも言われたから、本当に似ているのだろう。身体の弱さは、似たくないけどね。
次の日は、朝から弟達とオルゴール体操をして、魔素をたっぷりと補充する。
やはり、ペイシェンスは魔素を取り込んで、やっと普通の令嬢並の体力なんだ。
だから、身体の調子に気を付けて、長生きしなきゃね! 元ペイシェンスの分も前世の私の分も。
今日もパーシバルは、馬の王の運動に来てくれる。朝食を共に取った後は、一緒に受験勉強だ。
ロマノ大学の学力テストは、秋学期に三回ある。私とパーシバルは、一回目のテストを受ける予定。
「一回目は受験者が多いから、そこで合格点が取れなくても、二回目、三回目がありますよ」
そんな事を言うパーシバルだけど、一度目で合格する気満々だ。
それは、カエサルやアーサーも同じだ。皆、自信満々なんだよね。
「合格できたら、指導教授に面接を申し込むのです」
ミッシェル・オーエンに色々と聞いて、パーシバルの方が詳しい。お父様がロマノ大学の学長なのに、私はさっぱりだよ。
「先ずは、学科試験に合格しなくてはいけませんね!」
過去問は、何度もやり直している。
「ええ、それに高得点を取らないと、希望の指導教授に選んで貰えない場合もあるそうです。私が希望している教授は、外交官を目指す学生に人気なので頑張らないといけません」
えええ! 聞いてないよ!
「それは、頑張らないといけませんね。ザッカーマン教授も人気がありそうですから」
私は、合格点は取れると思っていた。ただ、人気の指導教授に選ばれるのに、面接だけでなく、点数も必要だとは知らなかった。
前世で、定期試験前に友だちと勉強会を何回かしたことがあるけど、お菓子やジュースを出してもらって、雑談ばかりだった。少しは、勉強したし、出そうな所を教えあったりしたけどね。
でも、パーシバルと私は、真面目に勉強したよ! もう少し、話したかったけどね。
それと、休憩のお茶の時に、指導教授との面接についても教えて貰った。ほぼ、ミッシェル・オーエンからの情報だけど、彼はザッカーマン教授に師事しているから、凄く有益だ。
「私も父が指導教授の面接を受けた時の事を聞いていますが、最近読んだ本などを質問されたそうです。そして、その本からどのような影響を受けたかとか……」
パーシバルは、外交関係の本なんか、ここしばらく読んでいないと頭を抱えている。
「領地管理関係の本だなんて、あるのかしら? 外交関係の本でなくても、歴史の本でも良いかもしれませんわ」
こんな時は、グレンジャー家の図書室は便利だね。
二人で、面接で質問された時に、答えやすい本を選ぶ。
「あっ、明明様に貸して頂いているカルディナ帝国の本も読んでみても良いのかもしれませんわ。子ども向きの勧善懲悪なお話ですが、カルディナ帝国の事情もわかります」
パーシバルは、パッと笑顔になる。
「それは良いですね!」
ただ、漢字っぽい文字だから、辞書を引き引き読まなきゃいけないけどね。
「時間が掛かりそうですが、学生会長は辞められたので……」
それと、夏休みに遺跡を見たから、カザリア帝国の興亡の全集も読むと言うので、何冊か貸してあげる。
「ペイシェンスは、どれにしますか?」
ふぅ、それ難問だ。
「治水についての本なんかありませんわね。でも、何代か前のグレンジャー子爵が、港を整備しようとして失敗した資料はあるのです」
パーシバルは、くすくす笑う。
「失敗した資料は、面接にどうでしょう? ああ、でも失敗を知った上での違う取り組みを考えていると主張したら、アピールポイントが高いと思います」
それと、ライナ川の浚渫工事や、溜池、農地用水などの資料は用意してある。
「グレンジャーホテルの件も、面接でアピールできそうですよ! 調味料関係や魚介類を冷凍車で王都で運ぶのも!」
まぁ、領地の改革は色々と思案中だ。
「稲作は、まだ実験段階ですが、さつまいもはかなり栽培が広まりそうです」
パーシバルも「焼き芋は、美味しいですからね」と笑った。
前世のさつまいもに比べたら、まだ甘味が足りない気がするけど、収穫祭でも人気だったんだ。
「それに、オリーブオイルと魚介類で美味しい料理もできそうなのです」
アヒージョ! オリーブオイルに塩、にんにくに唐辛子、それに魚介類! 簡単な調理だけど、美味しいよね。
「そんな美味しい料理について話していたら……ゲイツ様が……」
パーシバルが笑っていたら、ワイヤットが応接室に困った顔で入ってきた。噂をすれば影がさすってこんな事だったっけ?




