教授会は大激論!
土曜の教授会、食事はエバに、準備はミッチャム夫人に任せてある。
心の平安の為にヘンリーと温室の上級薬草を見に行く。
「ちゃんと浄水をやってくれているから、とても上手く育っているわ」
ヘンリーを抱きしめてキスしておく。ああ、このままヘンリーと一緒にいたいけど、メアリーが着替えなきゃと苛ついている。
「お兄様と一緒に勉強します!」
ヘンリーの事は、ナシウスとカミュ先生に任せて、教授会の為に着替える。
「お嬢様、とても素敵ですわ」
メアリーに褒めてもらって、少しだけ元気が出た。
濃いグリーンのドレスは、私を少しだけ大人っぽく見せている。それに、オパールのネックレスが映えている。
さぁ、教授会を何とか乗り越えよう! それに、マックスウェル子爵夫妻も一緒だから、織物業について色々と聞きたい。
少し早めにマックスウェル子爵夫妻には来てもらっている。最初のうちは、前日に打ち合わせをしていたけど、料理に問題がないのはわかっているからね。
「マックスウェル子爵夫妻、今日はお世話になります」
一応、お父様もマナーを思い出して、お礼を言っている。
「いえ、ロマノ大学の教授と昼食会だなんて、滅多にない機会ですから」
マックスウェル子爵は、領地の織物産業を後押ししている如才のない態度の紳士だ。
シャーロッテ伯母様の方が、弟であるお父様に厳しい。
「ペイシェンスも数年先には嫁ぎます。私達は、実家の事だからお手伝いしても宜しいですが、彼方は外交官一家なのでこちらの事ばかりはできませんよ」
えっ、結婚しても実家にちょくちょく来るつもりだよ。それに、結婚したらパーシバルも教授会に参加して貰えるから心強いと思っていたんだけど?
「まぁ、まぁ、シャーロッテ。グレンジャー子爵は、亡くなられた奥方を愛していらっしゃったから」
シャーロッテ伯母様は、再婚を勧めるけど、私的には微妙。確かに、私が嫁いだ後の事は心配だ。でも、後添えの方と弟達が上手くいくのかわからないからさぁ。
「シャーロッテ伯母様、今回招待された教授の中で、グース教授はちょっと……」
お父様も大体の事はご存じなのか苦笑して聞いている。
「まぁ、私は貴女がロマノ大学でも錬金術を学ぶのだとばかり思っていましたわ」
シャーロッテ伯母様とは、織り機について話し合っていたからね。
「私は、グース教授とは合いそうにありませんの。兵器になるような物の開発は少し……。生活を豊かにする物を作りたいのです。その結果、兵力増強になったりもしますが、初めからそれは……」
最後まで言わなくても、お父様もマックスウェル子爵夫妻も頷いてくれた。令嬢風を装うと、この点は有利なんだ。
ああ、でも防衛面的にかなりやらかしているんだけどさ。それは、内緒! って事で。
「グース教授は、強引な性格だから、気をつけておこう」
お父様に防波堤が務まるか、かなり不安だけど、マックスウェル子爵も頷いているから、そちらに期待しよう!
そこからは、シャーロッテ伯母様と新作の布地について話す。今は型染めだけど、もっと大胆な柄も良いなとか。
ワイヤットが教授達が来たと告げるので、出迎える。
「ペイシェンス様!」
おお、一番乗りがグース教授だ。学長を無視して、私に突進してくるんだけど……。
「グース教授、奥様を紹介して欲しい」
お父様が、防波堤になってくれた。それに、グース教授の奥様……とても厳しそうで、しっかりとグース教授の腕を捉えている。
次々と教授夫妻が到着して、昼食会になった。席順は予め、グース教授とは離して貰っている。
今回の食事は、この前、美麗様を招待した時のヌーベルキュイジーヌ風なんだ。
前菜二皿、スープ、魚料理、シャーベット、メイン、デザート。
ヌーベルキュイジーヌ風なのは、前菜だ。
とても綺麗な盛り付けで、食べるのが勿体無いぐらいだよ。魚料理は、ゴージャスに見えて評判も良いから、グレンジャー海老のテルミドール。
メインは、ロマノ大学のゲームパイ。前はビッグボアとビッグバードだったけど、マッドクラブとビッグバードで焼いてある。
昼食会の最中、遠い席からグース教授が何回か私に話しかけようとしていたけど、横の奥様に止められていた。
デザートのケーキが終わったら、私と奥様方は先に席を立つ。このまま部屋に逃げ込みたいよ。
応接室で、シャーロッテ伯母様と一緒に奥様方の接待をするけど、今回も奥様方はお互い知り合いだから、マカロンやチョコレートを勧める程度で良い。
「ペイシェンス様!」
ああ、食堂からグース教授が早足でやってきた。
「王立学園を卒業して、ロマノ大学に入学されると聞きました。錬金術学科に秋から通いませんか? 単位は大丈夫なのでしょう!」
他の教授達もいるので、極秘の飛行艇について話せない。その点は、機密保持の感覚を持っていて安心したよ。
「いえ、もう指導教授を決めましたから」
ギギギッと魔法学のライオネル教授を睨みつける。あちらは、ゆっくりと他の教授達と歩いて応接室に着いた所だ。
「ペイシェンス様は、錬金術学科にもらう! ゲイツ様が推しておられるのだろうが、魔法学科には渡さないぞ!」
寝耳に水のライオネル教授には気の毒だったね。そうでもないのか?
「グース教授、娘はザッカーマン教授に指導教授になって貰いたいそうだ。そして、ロマノ大学は、学生の自主性を重んじる」
おお、お父様の理想論とグース教授の錬金術愛の激論になった。それに、魔法学のライオネル教授が参戦して、大激論だ。どうやら、ゲイツ様はライオネル教授に私を教えるように言っていたみたい。そんなの、知らないよ!
「あちらは、放置しておきましょう」
シャーロッテ伯母様の指示に従う。
「姪のペイシェンスは、音楽クラブに属しているのです」
これ、本当に私のステイタスになっているみたい。
伯母様に言われて、ハノンを数曲弾く。激論中の三人以外からは、拍手して貰ったよ。
ワイヤットに目で指示して、マカロンが乗った皿を持って、薬学のクリスティ教授の横に座る。
「カルディナ帝国の薬草人参と種を手に入れましたの」
クリスティ教授の目が輝く。
「それは、とても貴重な物を手に入れられたのですね! 私も、流行病が重症化しても効果があったと聞いて、是非、手に入れたいと思っていたのですが、使い果たしたと聞いています!」
わぁ、圧が凄い!
「種を少しお分けしますわ。ただ、カルディナ帝国でも栽培に成功していないそうです」
ここからは、栽培条件についてあれこれ話したよ。
「入学できたら、薬学も学びたいのです」
うん? って顔をクリスティ教授はした。
「ザッカーマン教授につかれるのでは?」
「ええ、ザッカーマン教授に決めたのは、薬学や植物学や海洋生物なども勉強して良いと言われたからなのです。これから領地を改革していきたいので」
なるほど! と笑って、是非と許可してくれた。
教授の奥様方は、とても礼儀正しくて、マナーを守るから「そろそろお暇します」と教授達を引き連れて帰ってくれた。
お土産のチョコレートとマカロンを嬉しそうに受け取ってくれたし、食事も絶賛してくれたから、教授会は成功だよね?
約三人は激論で疲れたみたいだけどさ。




