ハープシャーの収穫祭
今回の領地行きのメインは、葡萄の収穫とワインの仕込み。そして、ハープシャーの収穫祭だ。
ワイン関係は、スミス氏に任せるよ。こちらは素人だからね。
「パーシー様、モラン伯爵領の収穫祭は、どんな感じなのですか?」
私より詳しいよね?
「それが……あまり知らないのです。収穫祭の時は、社交界も忙しいから、両親も王都にいる事が多くて……でも、一度か二度は参加しましたよ。ダンスも踊りました」
外務大臣のモラン伯爵は、領地は管理人任せが多いみたい。ただ、私の場合は、新任の領主だから、顔見せの必要もある。
「大人は、ダンスを楽しめるけど、子どもが楽しめる催し物も必要ですわ」
綿菓子機、持ってくれば良かったな。あっ、あれくらいなら作れるじゃん!
収穫祭は、ハープシャーの市が立つ火曜日だ。今夜、綿菓子機を作って、月曜にメイドに練習させれば大丈夫だよね。
「ペイシェンス? また何か考えついたのですね!」
パーシバルに呆れられたけど、綿菓子だと言ったら、納得された。
「あれは良いですね!」
それと、冷やし飴も良いけど、さつまいもをもっと栽培して欲しいから、焼き芋も屋台で売ろう。
「焼き芋機も作れば良いのよね!」
これは、乾燥機のアレンジでできそうなんだ。中に丸い石を入れて、熱するのが違うけど。
うん、ポン菓子も良いんじゃないかな? 米ができるようになったら、作ろう!
ポン菓子から、ポップコーンも思い出した。あれって、爆裂種じゃないと駄目だったかな? こちらのとうもろこしが、何種なのかも知らないけど、探せばある?
これは、メモしておこう。植物関連は、これからロマノ大学でも勉強したい。品種改良はできるのだろうか? 甜菜、まだ見つかっていないから、甘い蕪を品種改良できたら良いな。
米も、もっと美味しくしたい! 短粒種も、前世の日本の米に比べるとパサついているんだもん。これは、私の好みだけどね。
「ペイシェンス?」
おおっと、パーシバルがいるのに、あれこれ考えてしまっていた。
「作物の品種改良とかは、リンネル教授と頑張りたいのです。本当にザッカーマン教授で良いのかしら? ただ、漁業関係もありますし、地元の商店街も作りたいので……」
パーシバルも一緒に考えてくれる。
「作物だけなら、リンネル教授でも良いですが、他にもあれこれ含まれるなら、総合的なザッカーマン教授でしょうね。ただ……ゲイツ様には、指導教授の件、いつ言うのですか?」
それ、まだ言っていないんだよ!
「私は、もう魔法の訓練も良いのではと思っています。竜の件で、怯えてしまいましたが、ゲイツ様なら大丈夫だとわかったので……」
ゲイツ様が子どもの時に討伐できたなら、今なら余裕だよね!
「でも……一頭なら良いですが……」
それ、それは問題だけど……やはり、私は庶民的な考え方しかできないんだ。領地が無事なら良いんじゃない? って……やはり駄目なのかな?
「本来なら、ペイシェンスが竜の討伐なんかしなくても良いのですが……でも、一人で背負わせたりしません!」
やはり、転生した私はイレギュラーな存在なのかもしれない。生活魔法だけなのに、妙に強いし。
パーシバルは、私を護ると抱き寄せて、いちゃいちゃモードになったけど、メアリーの咳払いが煩いから、半地下の錬金術部屋で、綿菓子機と焼き芋機を作ったよ。
「相変わらず、ペイシェンスの錬金術は見事ですね!」
「パーシー様が重い金属を錬金釜に入れたり手伝って下さったからですわ」
また、いちゃいちゃモードになると、メアリーが「綿菓子の練習をしなくて良いのですか? 焼き芋は?」と水を差す。
「それは、月曜にするわ!」
日曜の朝早く王都を発ち、昼過ぎに領地に着いたのだ。
少しは、パーシバルと二人でゆっくりしても良いと思う。いや、さっきまでは錬金術していたんだけどね。
月曜日に、ライナ川にパーシバルと小石を拾いに行った。馬の王は、海岸を爆走したいみたいだけど、それは後からだね。
「丸い石が良いと思うのですが……砕けば良いだけですわ」
河下の方が石は丸くて小さいと思うけど、魔法で丁度良い大きさにすれば良いだけだ。
だから、荷馬車に岩を何個も載せて貰って屋敷に運んで貰う。
今回は、短時間なので、メアリーは付き添わず、ベリンダだけなんだ。まぁ、川に岩を取りに来ただけだからね。
それに、私はすぐに館に戻って、綿菓子の作り方の指導と、焼き芋の焼き方を教える。だから、館で私はパーシバルに馬の王から下ろして貰う。
「馬の王! あまり飛ばしすぎないでね」
馬の王は、ブヒヒン! と嘶いて走り去った。
さて、これから岩を砕いて、丸くする。今回は、生活魔法で「割れない小さな丸い石になれ!」で済ませる。
「この石と芋をいれて、加熱したら出来上がる筈よ。時間は、はかってね!」
こちらは任せて、綿菓子作りの練習だ。
夏休みに、香りの違う色粉を何個か持って来ている。
砂糖に赤、黄色、緑の色を濃い目につけて、メイド達に綿菓子を作らせる。
「慌てなくても良いのよ!」
綿菓子機から、細い糸のような飴が出てくると、何故か皆は慌てる。
何人かに練習させて、食べさせる。メアリーも初めてだったみたい。
「美味しいですわ!」メアリーもふわふわに口の中で消える感触が気に入ったようだ。
うん、好評で良かったけど……メイド服で、綿菓子を作って売るの? ああ、それもまだ考えていたんだけど、配る方が良いのかな?
綿菓子の見本を何個か持って、モンテス氏とアダムとハーパーとリラに相談する。
「これは美味しいですね!」
リラは、満面の笑顔だ。
「これを売るか、子どもに配るか悩んでいるの」
モンテス氏とアダムは安くても売るべきだと言う。
「タダで配るのは駄目です! 肉やダンスは提供するのは良いですが、エールや冷やし飴はお金を貰うのですから」
ただ、リラは心配そうなんだ。
「これは、子どもは欲しがりますわ。大人も食べたいでしょうが……子どもは他の子が食べているのを見たら……」
だよね! お祭なんだから、楽しまなきゃ!
「子どもには、引換券を渡しましょう!」
紙だとぐちゃぐちゃになりそうだから、綿菓子の引き換えコインを錬金術で作って配る事にした。大人は買ってもらおう!
それから、メアリーと綿菓子を売るメイドの服を考える。
「収穫祭に服を支給しても良いのかしら?」
モンテス氏は、まだ雇って間がないので必要ないって意見だ。
ただ、王都の使用人には、お針子組が縫って支給しているんだよね。
「王都で古着を買って来たのです。それを支給しますわ」
交代で、収穫祭を楽しんで欲しい。メイド服ではねぇ!
火曜のハープシャーの収穫祭。騎士達が大きなビッグボアを討伐していたので、それを提供する。
丸焼きかと思ったけど、やはり解体して、焼くんだね。
集会所の飾り付けは、メイド達に任せた。私とパーシバルも最初だけ参加して踊った。
少しずつ、私が領主だと周知されているみたい。
「あまり長くいると、皆も気を使うのですよ」
もう少し、皆が楽しんでいる姿を見ていたかったけど、パーシバルと二人でハープシャー館で踊ることにした。
保護者がいないから、パーシバルはモラン伯爵館に泊まるんだ。だから、早い夕食にするつもり。




