葡萄の収穫
婚約披露パーティが終わったら、領地に行く用意をする。服とかは、メアリーがやってくれるから楽だけどね。
お祭り、これをするのも領主の仕事の一つみたい。知らなかったよ。
今回は、ハープシャーの収穫祭。グレンジャーの方は、小麦を収穫した時にするとモンテス氏から報告を受けている。
この時、領主からは魔物の肉を提供して、振る舞うそうなんだけど……騎士達に討伐は任せているから、それは大丈夫なんだ。ただ、それだけで良いのかな?
「お祭り……お肉を食べるだけなのかしら?」
王都で、収穫祭なんか参加したことがないんだよね。グレンジャー家は領地もちじゃないから、こんな時に困るんだ。
貴族達は、新年に王宮でパーティがある。それと、秋に社交界デビュタント達の為のパーティも。
他は……知らないんだ。図書室で、祭りについての本が無いか探すけど……パーティと祭りは違うよね?
ペイシェンスは、王都育ちだし、下町には何か祭りがあるのかもしれないけど、それすら知らない。
「ワイヤット、ミッチャム夫人、それにカミュ先生、メアリー。お祭りについて、何か知っていますか?」
ワイヤットは、王都の下町育ち。ミッチャム夫人はバーンズ公爵領育ち。カミュ先生は、男爵領育ち。そして、メアリーは東部の田舎の村育ち。
誰か、祭りについて知っているだろうと呼んだのだけど……。
「下町では、教会が施す祭しかありませんし……熱心なエステナ教徒以外は参加しません。私も行った事はないです。献金するお金も持っていませんでしたから」
教会で司祭の説教を聞き、献金をして帰るだけ。何、それ? 面白そうにないから、それは却下! ワイヤットを下がらせる。
「バーンズ公爵領では、収穫祭がありましたわ」
おっ、それそれ! 期待してミッチャム夫人に話の先を促す。
「討伐した魔物の肉を広場で焼いて、それを皆で食べます。あっ、屋台でエールやワインを売っていますよ。それと、冬の支度の為の市も賑やかです」
ふぅ、やはりそんな感じなんだね。カミュ先生の男爵領も屋台は無い感じで同じだ。
「そもそも、田舎の村では祭を見たことはないですわ。領都でも、私はメイドでしたから、休みを貰えなくて、行った事はないです」
メアリー、田舎の暮らしって、そんな感じなの? 何だか悲しくなってきたよ。使用人が交代で祭に行けるように気をつけなきゃ!
「そうね……今年は、魔物の肉を提供する程度かしら……」
でも、肉に合うソースもあるから、喜んで貰えるんじゃないかな? うん、エールとか冷やし飴とかも出そう! でもさぁ、祭ってこんなもんじゃ無いよ。
綿菓子、りんご飴、カキ氷、たこ焼き、イカ焼き、焼きそば……食べ物ばかりじゃん! スーパーボール掬い、金魚掬い、輪投げ、射的……そうだ! 何かゲームができたら楽しそう。これは、来年までに考えよう!
「お嬢様?」メアリーに不審がられたよ。前世の祭を思い出して妄想中だったからね。
ミッチャム夫人は、収穫祭で冬支度の市が立つと言っていたよね。ザッカーマン教授には、王都の古着を領民が買えるか、よく考えてみなさいと言われたけど、収穫祭で古着を売るのって駄目なのかな?
「メアリー? 葡萄の収穫の賃金とは別に、古着を渡すのは有りかしら?」
前に、味噌と醤油の仕込みの賃金と共に古着を渡したら、かなり喜ばれたんだ。
「それは、喜ぶと思いますが……グレンジャーとの差が開きませんか?」
うっ、グレンジャーは、まだホテルが開業できていない。それに、マッドクラブを討伐できるのは、一部の冒険者だけで、ほとんどは騎士が討伐しているんだ。
「養殖も少しずつはしているのだけど、まだ実験段階だから……」
つまり、グレンジャーのテコ入れが遅れているのだ。
いや、館とかは素敵なんだけど、庶民の暮らしはハープシャーの方が整ってきている。
やはり、領都に拘ったギルド長が正しかったの?
「干し魚などもあるけど……漁業関係ばかりなのよね」
夏休み中は、カザリア帝国の遺跡を見る客が、少しはグレンジャーにも訪れていたが、今はノースコートだけで収容できている。
「来年からはオリーブも収穫できるようになると思う。オリーブオイルは、料理にも使えるし、石鹸も作れるわ」
ふぅ、これはモンテス氏やアダムやメーガンと話し合わなきゃね。
日曜の朝から、領地へ行く。今回は王都に滞在していたジェラルディン卿も一緒に領地に戻って、他の騎士と交代だ。
メーガンには、王都で特産品店の開店準備を進めて貰う。
今回の店は、領地ではなくて、王都で店員を雇う事になったんだ。本当なら領民を雇いたいけど、人材不足なんだよね。教育が必要だ!
パーシバルと一緒に馬の王で、領地へ向かう。途中で馬車に乗るのも同じだ。体力的に、領地までずっと乗馬はしんどいんだよ。
ハープシャー館で、モンテス氏に出迎えられる。
「サムは、葡萄の収穫を監督しています」
今年の夏は、嵐は来たけど暑かったから、葡萄はよく育っているそうだ。それに、ちょこっと魔法で後押ししていたからね。
祭について、モンテス氏と話し合うけど、やはり肉を広場で焼く程度を考えているみたい。
「焼肉のソース、それとエールと冷やし飴ですか? まぁ、そのくらいなら用意はできます」
パーシバルは、横で笑いをこらえている。私が地味な祭に不満なのを知っているからね。ただ、今年は準備不足だから仕方ない……何か忘れている気がする。
「収穫祭のダンス!」
前に、王立学園でも収穫祭の踊りを皆で踊ったよね! パーシバルも頷いている。
ただ、この地方は、ずっと領主もいなくて、収穫祭もしていなかった。
「ああ、子爵様が考えている収穫祭のダンス程度なら、集会所でできますよ」
えっ、できるの? 来年からかなと思ったよ。私が驚いていると、モンテス氏が笑う。
「領民の出会いの場になりますし、楽しみも必要です。ハープシャーの収穫祭には、グレンジャーから荷馬車を数台出しましょう。グレンジャーの時も出した方がいいですね」
辻馬車は、まだ用意できていないけど、荷馬車は何台かあるからね。それに、農家は持っている人もいる。
ふふふ、集会所に花綱を飾って、お祭ムードが盛り上がりそう。
「あのう、楽団とかはいるのかしら?」
これ、大事! モンテス氏もハッとしたけど、笑い出す。
「プロの楽団はいませんが、何人かは楽器も弾けるでしょう。賃金をやれば、喜んで演奏しますよ」
モンテス氏によると、村人でも演奏が好きな人もいるそうだ。これは、任せよう!
葡萄の収穫、本当に人海戦術なんだよね。ケリーが皆の食事も作って提供している。
今回は、エバは連れて来ていない。でも、夏休みの間に皆も料理の腕がレベルアップしているね。
前世のワイン用の葡萄は機械摘みだった。手摘みは大変だけど、良い面もある。熟した葡萄だけ摘めるし、悪くなったのはその場で除けられる。
「これを洗って、軸を外すのです」
ワイン作りは、スミス氏に任せて、私は収穫祭の準備だね。




