日曜日は、あれこれしよう!
日曜日、サボンホテルでランチだ。これって、デートっぽいよね?
ふふふ、メアリーに言う前にお父様に許可を貰う作戦なんだ。
あっ、父親と脳内では呼んでいたけど、このところ令嬢らしくない行動が多いから、お父様に変えたんだ。
それと……もう前世の私に帰る事は無いんだと、ストンと心に落ちたからかもしれない。
弟達は、初めから天使だから愛情を持って接していたけど、いきなり見知らぬ男性をお父さんと受け入れるのが難しかったんだよね。
それに、働いていないから、金銭的に凄く苦労したしさぁ。まぁ、前の執事に騙されていたとか、事情もあったんだけど。
前世のお父さん、私達に愛情を注いでくれたし、ちゃんと働いて大学まで出してくれた。つい、そちらと比べてしまっていたから、父親と少し突き放した呼び方を選んでいたのだと思う。
それに、お父様は放任主義で、変な理想論主義者だけど、娘の自由を奪ったり、嫌な相手と結婚を無理強いする人じゃないからね。
これは、本当に感謝しているんだ。
クラリッサの父親、悪い人じゃないみたいだけど、頭が古い。女の子は、こうするのが幸せだ! と勝手に決めている。嫌だなぁ!
それに、ルイーズの父親も、自分の不利になりそうなら娘を捨てちゃうんだよ! まぁ、ルイーズには酷い事をされたけど……。ああ、やはり私は甘ちゃんだよ! 気になっているんだ。
朝食の席で、今日の予定をお父様に話して、許可を得る。
「サボンホテルかぁ……懐かしいな。ユリアンヌとお茶に行った事があるよ」
うっ、その情報は微妙! 両親の恋愛事情とか知りたくない。ただ、前からサボンホテルは、貴族のデートスポットだったのはわかった。
ううう、ヘンリーの連れて行って! という視線に今日は堪える。だって、パーシバルのバースデーデートだから。
「あっ、少女歌劇を見に行く日に、サボンホテルでお茶をしましょう!」
この日は、アンジェラとサミュエルも誘うつもりだ。
「お姉様、嬉しいです!」
ヘンリーは、素直に喜んでいるけど、ナシウスはちょっと気を遣っている。口に出さなくてもわかるよ。お金とか……苦労かけたからね。
本当に、ナシウスはもっと我儘でも良いと思う。お姉ちゃんだから、気にかけてあげなきゃね。
午前中は、アダムとメーガンも一緒に不動産屋と特産品店の候補を見て回る。
「ああ、ここは馬車を駐めるスペースが近いし、横から荷物を運び込めるから良いですね!」
あっ、私は店舗だけ見ていたけど、アダムは馬車を駐める利便性を考えている。
アップタウンには、何ヶ所か馬車を駐める場所がある。
バーンズ商会とかは、自前の駐車スペースを設けているけどね。
中は……まぁ、空き店舗だから埃と残骸が散らばっている。壊れたトルソーって、横たわっていると不気味!
「ふぅ、どうやら服飾店だったみたいですわね。あっ、後ろのスペースは広いみたいです」
冴えないショーウィンドウ! それに小さな店舗と広い後ろの作業場……うん? ここって……。
「ペイシェンス、ここは見覚えがあります」
パーシバルもハッとしたみたい。
不動産屋に訊ねると「マダム・メーガン」だったと分かった。
「マダム・メーガンとメーガン!」
アダムは妹のメーガンを見て、けらけら笑っているけど、これって縁起悪くない?
「私は、そんな事は気にしませんわ。子爵様が気になさるなら、愛称のメグと呼んで下さっても良いです」
それ、良いかも? だって、マリーとモリーにもメーガンはあまり良い思い出がある名前じゃ無いからね。
「メグ、良い名前だわ!」
ぷっとアダムが噴き出す。メーガンが、パシッ! と兄の腕を叩いている。
「メグだなんて、子供っぽいって嫌がっていた癖に!」
ああ、それは良くないね。
「良いわ! メーガンのままにしましょう」
それに、マダム・メーガンとメーガンは別だと、マリーとモリーだって分かる筈。
「ここに決定で良いのかな?」
パーシバルが笑って、私を引き寄せる。軽くキスをして、不動産屋に買うと言う。
メアリーが、やれやれと肩を竦めているよ。
ここで、アダムとメーガンは屋敷に帰り、私とパーシバルはサボンホテルでランチにする。メアリーは付き添うけどね。
「まぁ! 凄く立派なホテルですね!」
知らなかったのを他の人に笑われるのも当然だ。メインストリートのど真ん中に建っている。
石造りの重厚な外見、そして馬車寄せの天蓋などもゴージャスだ。
あっ、ドアマンがハンサム! まぁ、エスコートしてくれているパーシバル程ではないよ。
サボンホテルは、貴族の令嬢が食事をする時の為の侍女の扱いも慣れている。
メインダイニングの衝立の後ろで、メアリーは食事をするんだ。そこには、他にも付き添いの侍女がいるみたい。
「お祝いですから、一杯だけ!」
パーシバルは、シャンパンを飲み、私はオレンジジュース多めのミモザを作って貰う。
「お誕生日、おめでとう!」
本当はもう過ぎているけど、気は心!
ランチは美味しかったけど、確かにケーキは砂糖ザリザリだね。
でも、二人っきりでランチって初めてだし、嬉しい!
ランチが終わったら、モラン伯爵家でグリーン氏とラドリー様と新居の改修の打ち合わせだ。
メアリーは、応接室の隅で椅子に座って銀ビーズ刺繍をしている。
伯爵夫人は、新居の事で口を出したら嫌われるから、後からお茶をすると笑って同席を断られたよ。
「あのう……ラドリー様が主任の方が良いのではないでしょうか?」
先ず、グリーンがその件を口にした。気になるよね!
「ああ、そんなのは気にしないで良いのだ! 私は、ペイシェンス様のお友だちだから、お手伝いするだけなのだから……」
ラドリー様、何だかゲイツ様に似てきたような気がする。
「まぁ、本人がそう言われるのですから、私はグリーン氏に新居の改築を依頼します。ラドリー様が邪魔をされて、困る時はペイシェンスに言って下さい」
苦情は、私なんだ! まぁ、ラドリー様は私の友だちだそうだから、仕方ないね。
「ペイシェンスが、錬金術部屋にミニキッチンを作って欲しいそうです」
そう言って、二人で笑ってしまう。グリーンは、変な顔をしているけど、ラドリー様は手を叩いて喜んでいる。
「それは、絶対に必要でしょう!」
グリーンに、私が立場上台所に入れないから、別な場所にミニキッチンが必要ということをラドリー様が説明している。
他は、前から王都に滞在する際の騎士の家、結婚した使用人の家、そして特産品店の従業員の部屋も追加してもらう。
「馬房も大きなのを作った方が良いですよね! 馬の王の子馬も増えそうですから。それに、馬丁が泊まり込める部屋も必要ですね」
それは、必要だよね! 新居の打ち合わせは、スムーズに終わった。そして、アップタウンの特産品店の改修をラドリー様に依頼して、今日の予定はお終い。
あっ、モラン伯爵夫人とお茶はしたよ。マカロン、とても喜ばれました。可愛いし、美味しいからね! それと、飛竜のクレープとスイートチリソースも絶賛された。
「飛竜は、滅多に手に入りませんが、ビッグバードの肉で代用もできます」
モラン伯爵夫人、今年のパーティで出したいそうだ。スイートチリソースとレシピを渡す約束をする。




