特産品店の話し合い
夕食の後、アダムとメーガンと特産品店について話し合った。パーシバルも一緒に聞いてもらう。
二人は、バーンズ商会で働いていただけあって、こちらの商売に詳しい。
「いっぺんに品数を増やすより、先ずは需要があるソースと海産物に絞りませんか? 店員の教育も必要ですから」
ああ、そうだった! 店員を育てなきゃいけないのだ。
「ペイシェンス、調味料はカルディナ街でも買えるから、初めは良いのでは?」
商品数を少なくするには、それも良いかもしれない。
「では、今日のスイートチリソースも初めは無しにした方が良いのかしら?」
アダムとメーガンも試食したのか、慌てて「あれは美味しいから売りましょう!」と声を揃えて言う。
「ソース類は売った方が良いですよ! それとも、スイートチリソースは高い調味料を使っているのですか?」
パーシバルが質問する。いや、然程は高い材料ではない。輸入品は、使っていないからね。
「調味料も、カルディナ街に買いに行くより便利だとは思いますが、品数を減らしたいので……でも、いずれは売りたいです!」
メーガンは、領地で調味料やソース作りの責任者だからね。やる気、満々だ!
「それと、アダム。ホテルの従業員になりそうな使用人はいますか?」
これ、心配だったんだ。アダムも難しい顔だ。
「それについて、少し相談したいと思っていたのです。グレンジャー館はとてもロケーションが素晴らしいので、貴族が多く宿泊すると思います。田舎では、貴族相手の接待教育は難しいのです」
私達がいない時は、どうしても気が緩んでしまうとアダムが溜息をつく。
「交代で王都で教育したら良いのでは? こちらのミッチャム夫人に育てて貰います」
それと、ホテルと言えばシーツ! こちらでは、どの程度の頻度で交換するのだろう?
「錬金術クラブで洗濯機を作ったのです。ただ、多くの人が使うシーツの場合は……」
こちらのシーツは、大きな釜で煮るのだ。それと、アイロン! 重労働だよ。
「今の錬金術の洗濯機は、水で洗うようになっていますが、シーツ専門でお湯で洗えるのを作りたいと思います。それと、乾燥機とプレス機も!」
アダムとメーガンが驚いている。横でパーシバルがぷっと噴き出した。
「失礼! やはり、ペイシェンスは錬金術クラブから離れようがなさそうですね!」
前の二槽式洗濯機は、家庭用だ。業務用は別に考えた方が良いんだもん。
「連泊されるお客様のシーツ交換は、どうなっているのかしら? 毎日、交換するの?」
アダムは、あれこれ調べていた。
「王都のサボンホテルは、毎日交換すると聞きましたが、普通のホテルは連泊の場合は、お客様の要望がない限り毎日は交換しません」
サボンホテル! そうか、王都に屋敷がない人もいるものね!
「パーシー様、サボンホテルをご存知ですか?」
私の質問に、三人が呆れている。
「知らないのですか? 王都一のホテルなのに!」
アダムとメーガンに驚かれたけど、パーシバルは、にっこりと笑う。
「ペイシェンスは、意外な事を知らないのですね。一度、行ってみましょう!」
それ、良いアイディアだ。
「あのう、食事とかできるのでしょうか?」
パーシバルは、笑って頷く。明日のデート先が決まったね。
「ただ、伝統的なローレンス王国の食事だったと思います。前に、何回か食べた事があるのです」
男子は、時々、友だちとお外で食事をする事があるみたい。ナシウスやヘンリーにも、気をつけておかなきゃ。
私の心配そうな顔で、何を考えているのかわかったみたい。
「ペイシェンス、それはロマノ大学になってからが多いです。私もミッシェル様に連れて行って貰ったのですよ」
ああ、従兄弟のミッシェル・オーエン! 会った事は無いけど、何回か名前は聞く。一度、会ってみたい。モンテラシード伯爵家から嫁いだ方の息子さんだよね。
「サボンホテルは高級ですが、大学生になれば、もう少し砕けたレストランで食事をしたりもします。ペイシェンスも一緒に行きたいですね」
ああ、楽しそうなキャンパスライフだけど、その前に試験に合格しなくちゃね。
脇道に逸れたけど、ミッチャム夫人、ワイヤットも呼んで、領地の使用人を王都で鍛える計画を立てた。その中には、料理人も含まれるよ。
「それと、ソースの名前を考えて頂きたいです」
メーガンに言われて、パーシバルと笑ってしまった。
「今は、あっさりソース、辛味噌ソース、甘味噌ソース、醤油ソースですからね」
私的には、醤油ソースが一番笑える。醤油ベースソースが、だんだんと短くなって醤油ソースになったんだけど、前世では醤油とソースは別物だったから。
「それと……マヨネーズを売ってはいけないでしょうか? あれは、飛ぶように売れそうです」
メーガン! 商品数を削ろうと言ったのは自分なのに!
「マヨネーズは、冷蔵庫が無いと賞味期限が短いですよ」
これ、大問題なんだ。他のソース類も、冷蔵庫で保管して欲しい。
「それは、小さな瓶にすれば良いのではないでしょうか?」
ソースも家庭用の小さな瓶で販売した方が良いのかな?
「そうね。これも、従業員が慣れてからにしましょう。ソースも、騎士団とか以外は、小さな瓶にした方が良いのかしら?」
それぞれ意見を出す。パーシバルは、大きな瓶も売るべきだと言う。
「あれは便利だから、大きな瓶の方が良いですよ。それに、買うような人は、貴族か大商人ですから、人数が多いと思います」
それは、確かにね! 前世と違って、使用人が多い。前のグレンジャー家は別だけどさ。
「それと、初めはアップタウンに特産品店を開く方が良いと思います。食料品がメインですが、庶民より貴族や富裕層が購買客になりそうですから」
それは、パーシバルも頷いている。
「あのう、その従業員達は、何処で暮らすのかしら? 王都で募集するの?」
アダムとメーガンが、バーンズ商会の雇用システムを教えてくれた。
「基本の従業員は、バーンズ公爵領民です。領地にも王都にも従業員寮があります。勿論、自宅から通う従業員もいます」
ふぅ、それ大変じゃない! 寮を管理しなきゃいけないの? と思ったけど、笑われた。
「グレンジャー屋敷なら、四人や五人の従業員を住み込ませるのでは?」
あっ、無駄に大きな屋敷だったけど、役に立つね! それに新居も大きい。
午前中に、不動産屋と特産品店の店舗を見て、ランチはサボンホテルで取る。
午後は、グリーン氏と新居の改修の打ち合わせ! これは、モラン伯爵家でするんだけど……ラドリー様が参加しそうなんだよね。伯爵夫人が驚かなきゃ良いんだけど……。
手土産にマカロンとチョコレートを持って行こう!




