ゲイツ様は……
ライラ王女→アイーシャ王女に変更しました
バラク王国大使館での昼食会、弟達は異文化を楽しんだから良いんだけど、パーシバルはゲイツ様と話したいみたいなんだよね。
私は、できればややこしそうな問題とは距離を保ちたい気分だけど……惚れたから弱いんだ。
それに、飛竜の肉も貰ったからね。塩漬けにしてあるし、丸焼きにしてあるんだけど、なかなか美味しい。
「こんなに頂いてよろしいのですか?」
ザザビー大使は、飛竜の丸焼きのほぼ半分を木箱に入れてくれたけど、良いの? 貰いすぎじゃない?
「ペイシェンス様は、この飛竜の塩漬けを美味しくできるのですから、貰ったら良いのです!」
はぁ、相変わらず他国の大使館で言いたい放題だね。まぁ、アルーシュ王子は笑っているから、良いのだろう。
それにしても、ゲイツ様とバラク王国の人達が親しい感じなんだよね。パーシバルが気にするのも分かるけど、放置しておきたいな。
そんな事を考えながらも、アイーシャ王女とハナと挨拶をする。ただ、寮に入りたいと言われたら困るから、余計な事は言わないように気をつけるけどね。
「ペイシェンス様、私もハナもこちらの風習は知りませんから、教えて下さい」
うっ、可愛いアイーシャ王女、これがアルーシュ王子みたいに傲慢な態度なら、スルーしやすかったよ。
「私でできることなら」としか答えようが無い。
なんとか大使館を辞する事になったけど、サミュエルや女学生達を屋敷に引率して帰る。
「ゲイツ様、マカロンをお渡ししますわ」
本当なら、ゲイツ様の屋敷に届ければ良いだけなんだけど、パーシバルは話したいみたいだから、そう言う。
「それも欲しいですが、飛竜を美味しく料理して欲しいです」
えっ、お腹いっぱいじゃん! まぁ、目的は達成しそうだから、私は良いけどさ。
馬車三台で来たけど、ゲイツ様の馬車も連なって屋敷に戻る。
「ペイシェンス、ナシウス達と遊んで帰っても良いか?」
他の女学生達は、相乗りして来た馬車で自宅に帰ったけど、サミュエルは残りたいみたい。
「ええ、良いわよ」
ナシウスとサミュエルは、仲が良いからね。それに、ヘンリーとも一緒に遊んでくれるみたい。
「ゲイツ様、お茶でも如何ですか?」
塩を入れたコーヒーも美味しかったけど、やはり普通のお茶の方が普段に飲むのは良い。
「ああ、それとマカロンを頂きたいです」
ゲイツ様も私がパーシバルの意向を汲んで誘っているのは気づいていると思う。食い意地が張っているから、それに乗っかっているのか、説明してくれようとしているのかは分からないけどね。
サミュエル達は、子ども部屋でブロックで遊ぶと言う。ナシウスは自分でもブロックを作れるようになったから、色々な部品があるから楽しそう。私もそちらに参加したいよ。
ワイヤットに、お茶とマカロンを出して貰ってから、話し合いだ。
「ペイシェンス様は、飛竜の美味しい料理方法を考えて下さい。私との話は、パーシバルがしたいだけでしょう」
美味しそうにマカロンを摘みながら、ゲイツ様が言い切る。確かに、私は関わりたく無いと思っているけど、パーシバルだけに相手はさせられない。
「それは後にしますわ。私も気になっているのです」
だって、ゲイツ様がバラク王国に行ったのは確かなんだから。
「おお、ペイシェンス様をやはり誘えば良かったですね!」
違うよ! ああ、面倒臭いから、ここからはパーシバルに話してもらおう。
「バラク王国に行かれたのは、竜の谷の調査ですか?」
パーシバルが先ずは、一番大事な事から訊ねる。
「それ以外の理由で、あの国に行くわけがないでしょう。料理は辛いから、私の口に合いませんでした。今回の昼食会は、王族達は辛いのが苦手だと聞いて期待していたのですが……」
他国の料理の批判より、大切な事があるでしょう!
「その件を、国王陛下はご存じなのですか?」
ゲイツ様は、フン! と鼻で笑う。
「それを確認しなければいけないのですか? ああ、そんな事よりも、本格的に竜の氾濫期になりそうです。今回は、竜の谷の近くまでしか行きませんでした。下手に刺激したら駄目なので」
ふうん、怪しい!
「ゲイツ様、もしかして金属を持ち込んだのですか?」
ゲイツ様が「ふふふん!」と笑う。やっぱり!
「飛竜の料理方法を教えて下されば、ミスリルを少しお分けしても良いですよ」
あっ、それは欲しい! パーシバルがそんな問題ではないと、横で苛ついているから口を手で閉じたけどね。
「アイーシャ王女は、ペイシェンス様の良い友だちになりそうですよ。彼女は、魔法の習得にとても積極的で、少し見習って欲しいです」
アイーシャ王女は、確かに可愛いし、素直な性格みたいだけど、魔法の指導はゲイツ様が勝手にしたら良いんじゃない。
そこから、パーシバルとゲイツ様がバラク王国の話をした。私も興味深い南の大陸の話もあったけど、やはり魔物が強そう。
「砂糖を増産どころではないのですね。木綿も多く取れそうなのに……」
私の呑気な嘆きよりも切迫しているみたいだ。
「ジーナス王がアイーシャ王女を留学させたのは、避難させたいからかもしれません。彼女は魔力も高いし、こちらの貴族に縁付かせて……」
えっ、もしかして王族が全滅するのを防ごうとしているの? パーシバルも厳しい顔になる。
「北の大陸まで竜が飛来するかは不明ですが、竜の谷から出てくるか……スタンピードは数年内に起こりそうです」
「それは……」
パーシバルと思わず手を取り合った。
「ペイシェンス様、ここからは大人の仕事です。陛下も考えていらっしゃいます。貴女は、自分を鍛える事と美味しい料理を考えていれば良いのです」
自分を鍛えるのは、まぁ、そうなんだけど……料理はゲイツ様の要望だよね。
「ローレンス王国より南の大陸に近いコルドバ王国は、どう対処されるのでしょう」
パーシバルの質問に、ゲイツ様は肩を竦める。
「あの国の事は、あの国に任せておけば良いのです。自国だけで対処できないと判断して、聖皇国を頼るのか? それとも……」
リヴァイアサンの時は、ゲイツ様を頼ったけど……どうするのかは分からない。
「聖皇国は大丈夫なのでしょうか?」
パーシバルの質問に爆笑する。
「ははは、あれだけ偉そうな態度なのですから、竜が飛んで来ても大丈夫なのでしょう。滅びようがどうなろうが、知りませんよ!」
ゲイツ様の聖皇国嫌いは闇が深そう。
「それに、私よりは弱いけど、聖皇はまぁまぁ強いと思いますよ。甥のパリス王子の魔力を見るとね。国民を助けるかどうかは分かりません。彼らは自分の血は尊ぶけど、下賤の者達は自分を崇める為にだけ存在すると勘違いしていますからね」
ああ、前にパリス王子について誰かが、血が青いのだと言っていた。
「パリス王子は、そんな方だとは思えませんわ」
ゲイツ様は肩を竦める。
「ソニア王国の血が入って少しは色を変えたかもしれませんが、ペイシェンス様みたいな優しい心で物事を考えてはいません。だから、貴女は外交官に向いていないのです。魔法省で修業しましょう」
うっ! と詰まるけど、外交官にならなくても、魔法省に勤める気にもならない。前は、何処かで働かなきゃいけないと思っていたけど、今は領地があるからね。
そこから、パーシバルが質問して、アルーシュ王子がローレンス王国に来るジャンク船にゲイツ様も乗せて貰っていたとわかった。
「行きは?」ふと、嫌な予感がして訊ねた。
「ははは……私に……いやペイシェンス様にちょっかいを出してきたグラントに乗せて貰いました。彼は、要注意です! でも、ペイシェンス様は大丈夫そうですね」
何故かガックリしているゲイツ様だけど、ショタコンの私にはグラント提督は守備範囲外なんだよ。




