バラク王国大使館の昼食会
ゲイツ様の考えている事なんか、私やパーシバルが推し量るなんて無理だから、週末の予定を立てる。まぁ、竜の谷には行かない方針で!
パーシバルは、ゲイツ様の魔法訓練の返事を書かない事を心配していたけど、元々の国王陛下の命令は防衛魔法を習う事だったんだもの。もう、良いんじゃないの? 竜は、ゲイツ様がなんとかしてくれそうだし、私は重大な話があるんだよ!
「バラク王国の大使館での昼食会は外せませんが、パーシー様の誕生日デートも絶対に外せませんわ!」
これ、重要だからキチンと言っておく。こちらの世界では誕生日は、あまり重視しない人が多いけど、私は違うよ! いや、私もヘンリーと合同で誕生日パーティを開いてはいるけど、婚約者の誕生日は重要なイベントだもの。
「日曜は、空けてあります」
二人で何をするか考える。こちらの世界での貴族のデートって、とても不自由なんだ。侍女付きだからね。
「あと、新居の打ち合わせをグリーン氏としなくてはいけませんよ」
新居! 頬が赤くなっちゃう。あと四年したら、結婚? 私は十七歳、パーシバルは二十歳! 前世では早いと思うけど、こちらの貴族では普通。
庶民は、男は生活力次第でもっと遅い場合もあるみたい。ただ、農家の場合は、早く結婚して働き手を増やす場合もある。
そんな事を考えないと頬が赤くなっちゃうからね。何を想像して頬を赤らめているのかなんて、パーシバルには内緒にしないといけない。
土曜の昼食会は、一度、グレンジャー家に集まってから、皆で行く事になった。
ルーシーとアイラは、アイーシャ王女が魔法使いコースを選択するから招待されたし、ジェニーとリンダはハナが騎士コースを選択するからだ。
クラリッサとサミュエルは、オマケなのか? バラク王国は本当に大人数での食事が普通なのか? まぁ、それをいうなら弟達もオマケだけどね。
それと、日曜はグリーン氏との話し合いと共に、特産品店の下見をしたい。週末までにアダムとメーガンが王都までやってくるから、一緒に見て回るつもり。うん? 段々とバースデーデートから遠ざかっているような?
「これってデートなのかしら?」
錬金術関係は排除しても、やはりロマンチックさに欠ける。新居は兎も角、特産品店の下見は別の日にしようかな?
「私的には、ペイシェンスとの新しい生活に関係する事は、楽しいですけどね!」
わぁ、そう言って貰えると、こちらも浮き浮きしちゃう。
そんな事を話しながらも、土曜の対策もちゃんとしているよ。一応、あちらのマナーをガリ板で印刷して行くメンバーには渡している。
「アルーシュ王子や大使館の人達が手で食べるかはわかりません。父が南の大陸に派遣された頃は、手で食べるのが主流でしたが、あれから数十年経っていますからね」
ただ、そういうのが彼方のマナーだとは知っておいた方が良い。
「まぁ、アルーシュ王子は、王立学園に一年も留学されているのだから、スプーンはセッティングされていると思いますがね」
私も、そうだと思う。それに、ドレスが汚れるのも嫌だから。生活魔法で綺麗にはできるけど、やはりね。
土曜の十時に、行くメンバーはグレンジャー屋敷に集合する。
私は、メアリーにおめかしして貰っているよ。少しエスニック風にして欲しいと言ったから、カルディナ帝国の薄い絹で作ったドレスだ。
濃いグリーンのドレス。銀ビーズの刺繍が、少しカルディナ帝国風の飾り模様なんだ。髪型は、食事の邪魔にならないようにゆるふわに上げてある。
「ふふふ、やっとピアスが付けれる様になったわ」
金の素っ気ないファーストピアスを卒業したんだ。生活魔法で何とかなったかもしれないけど、メアリーが真面目に消毒してくれていたから、グジュグジュにならないで綺麗な穴が開いたよ。
パーシバルとの婚約指輪のオパールとお揃いのピアス。ネックレスはしないでおく。三点セットは、少し大袈裟に感じたからね。
大使館の昼食会だから、メアリーは三点セットでも良いと言うけど、今回はお友だちとして招待された感じだからさぁ。
「パーシバル様がお越しです」
キャリーが告げに来たので、応接室に下りる。
「ペイシェンス、可愛いピアスですね」
こういった変化を褒めて貰えると嬉しい。弟達にも、スマートな態度は見習って欲しいな。
応接室で話す間も無く、ルーシー達やサミュエルやクラリッサも到着した。
「バラク王国の大使館へ向かいましょう!」
一応、メアリーには袋の中にスプーンを用意して貰っているけど、多分、要らないと思う。
バラク王国の大使館も他の大使館と同じ地区にあった。
「パーシー様、これって大使館同士が近いのって問題にならないのでしょうか?」
目の前はカルディナ帝国の大使館が聳え立っている。うん、五重塔っぽいのが辺りを威圧しているんだ。
「ははは、それはお互い様なのでしょう。それに、普通の貴族達は側に住むのを嫌がりますから、固まったのかもしれませんね」
今回は、私とパーシバル。弟達とサミュエル、そして女学生達で馬車を分けた。まぁ、メアリーはついて来ているんだけどさ。
他国の大使館に、ぞろぞろ馬車を連ねて行くのはちょっと……って事で、三台にしたんだ。
「ようこそ!」
出迎えはザッシュだ。うん、背も高くて文官コースとは思えない身のこなしだね。
「ご招待に預かり、大勢で押しかけました」
パーシバルが言っても良いのだけど、今回はハープシャー館に招待したお返しだから、私が代表して挨拶をする。
中に入る前に、ザッシュの横に立っている美丈夫を紹介された。
「こちらは、ローレンス王国駐在大使のザザビーです」
えっ、武官かと思ったよ。でも、そんな事は口にしないで、和やかに挨拶したけどさ。
ザッシュとザザビー大使に案内されて、大使館の中に入ると、そこは南国だった。
外側は、ローレンス王国風の建物なのだけど、内部は色鮮やかな敷物、そして南国風の観葉植物が彼方此方に配置されている。
「わぁ、素敵ですね!」
ヘンリーが思わず口にして、恥ずかしそうに口を閉じた。お外では、子どもは勝手に喋ってはいけないのが、こちらのマナーだからね。
「ははは、子どもは可愛いですね!」
ザザビー大使への評価が少し上がったよ。私は、弟愛が強いからね。ただし、相談なしに強引に留学したりは、低評価だけどさ。
大広間に案内された。上座っぽい場所にアルーシュ王子、多分横にいるのがアイーシャ王女だろう。すごい美少女! まぁ、アルーシュ王子も態度がデカいけど、顔立ちは良いもんね。
それより……なんで、そこにいるの!
「遅かったではないですか」
アルーシュ王子の横にゲイツ様が座っている。
「ゲイツ様……なんで?」
私が驚いていると、当たり前だと鼻で笑う。
「アルーシュ王子を魔法合宿に招待したのは、私ですから当たり前です」
そう言えば、そうかしら?
「ペイシェンス、貴女の館に招待したのですよ」
パーシバルがコソッと注意してくれた。そうだよね!
それにしても、やはりゲイツ様は竜の谷に金属を持ち込もうとしているのかも? 何だか怪しい! 駄目駄目、今日は弟達もいるのだから、食事会を楽しむよ!




