魔物がいる世界
学園で飛び級したり、異世界に慣れた気がしていたが、魔物を目にしてここが全く私の知らない世界なのだとゾクッとした。
「魔物について調べなきゃ」
男子学生だけでなく、女子学生もあんなに大きな魔物を見ても平然としていた。私はビビっていたのに、令嬢然としてても領地にはあんな魔物がいるから慣れているのだろうか。おちおち旅行なんて行けないよ。まぁ、今は行くお金無いけどね。
幸い、私は数学免除だ。他の科目の免除を得たいから勉強しなくてはいけないが、図書館に通うことにする。
『魔物辞典』これだね。凄く重いよ。どっしりとした辞典を机に置く。
初めのページの方に載っているのは、一角兎、ホロホロ鳥、猪、鹿、狐などの前世でも見かける動物だけど、兎に角って無かったよ。それに角とか牙とかデカイ気がする。ここら辺の魔物は冒険者とかが常に狩って、魔石(小)と肉や毛皮や角などを売っているみたい。家もその魔石を買っているんだね。
前世では見なかった魔物ではスライムだね。これって魔石も極小だけど、ゴミ処理や下水処理に使われているみたい。前世にもいたら水質汚染とか改善されたかな?
「あっ、マーガレット王女が選んだホロホロ鳥も魔物だったんだ。私も知らないうちに食べていたのかも? でも、魔物の肉は高級品みたいだから、縁遠いよね」
ページが進む事に火食い鳥とか火の攻撃に注意とかキックを受けるとダメージ大だとか、とっても不安な言葉が書いてある。羊はふんわかしたイメージを持っていたけど、ここのは前脚キックとか火攻撃もするんだね。
「あっヘビだ。大嫌い、パスしよう」
私は蛇とか昆虫とか大嫌い。出会う事が無いことを祈って数ページ飛ばす。絵を見るのも嫌だ。
猿は単体でもずる賢いが、団体で遭遇する事が多いので、見たら逃げた方が良いみたい。石を投げてくる猿の団体はヤバいよ。
熊とか、前世でも危険だったけど、凄く凶暴そうだ。その上、土魔法攻撃を仕掛けてくるとか、絶対に遭いたくないね。死んだ真似って効果無いそうだし。
鷹なんか風魔法攻撃だけでなく大きさ半端ないよ。放牧されている家畜の天敵みたい。ここら辺で魔石も中。
「あっ、ビックボアだ。大きいのになると小屋ほど……なるほど、この前見たのは象程度だったから、皆驚いてなかった訳だ」
これで真ん中辺。後ろになる程凶暴になるみたい。
「おお、虎、ライオン、ここでも百獣の王だね」
前世の猛獣は異世界でも凶暴そうだ。魔石も大。ペラペラとめくっていくと、ありました飛竜、竜とか災害級だって。そこから先のページは街や国が滅ぶレベルばかり。
『異世界だけど、ゴブリンとかオークは居ないんだ。良かったよ。種床とか女の敵だもんね』
動物と魔物の違いは、魔力があるかどうか。そして魔物には魔石がある。って事は魔法を使う人間にも魔石が有るのだろうか? 胸の辺りを服の上から撫でてみるが、石があるとは思えなかった。ふん、平べったいから撫で易いんだよ。これから成長するんだもん。きっとね!
騎士コースは取るつもりは無い。馬にやっと乗馬台を使って乗れるレベルだからね。それに剣とか振り回したりしたくないもん。
今回の討伐には騎士コースは中等科全学生、そして魔法使いコースの希望者が参加していた。魔法攻撃に優れた学生とか治療魔法とかね。私は生活魔法だから錬金術を取ったとしても関係ないね。
でも、ヘンリーが騎士コース選択したら、あんな大きな魔物と戦うの? 心配だよ。できれば文官コースを選択して欲しいけど、それはヘンリー次第なんだよね。あの子は次男だから貧乏とはいえグレンジャー子爵家を継がない。つまり、自分で生きていかなきゃいけないんだ。官僚に向いてない、騎士になりたいと望むなら仕方ない事だ。
それに魔物なんて滅多に出会う物じゃないよね。夏の離宮へ行く時しか王都ロマノの外に出た事が無いけど、その時も魔物に遭わなかった。きっと森の奥で生きていて、討伐隊じゃなきゃ遇わないのだと不安を抑える。早朝、冒険者達が屋台で腹ごしらえしていたのも忘れていたよ。
上級食堂ではビックボアのステーキがメニューに載っていた。
「ビックボアのステーキにしよう」
リチャード王子は自分が倒したビックボアを食べるみたい。
「私も兄上が討伐されたビックボアのステーキにします」
キース王子のブラコンには笑っちゃうね。まぁ、そんなとこは可愛いけどね。
「そうね、私もビックボアのステーキにしましょう」
マーガレット王女はいつもはステーキは頼まない。鳥とか肉にしても蒸した物とか煮込んだ物を選ぶ。
「お前、ビックボアを食べた事が無いのだろう。食べてみろよ」
ペイシェンスはもしかしたら食べた事があるのかもしれないけど、転生してからは無い。
「そうですね。私もビックボアのステーキを頂きます」
給仕されたビックボアのステーキは見た目は牛肉のステーキと変わりないように思えた。
「美味しいな」
リチャード王子が一口食べて、味わうように目を瞑る。
私はあの姿が目に浮かび、恐る恐る小さく切って口に入れる。甘い! 肉なのに脂が甘く感じる。牛肉より高級豚肉、そうか猪なんだもんね。でも、猪のような癖は感じない。
「とても美味しいです」
「そうだろう」
何故か、討伐した訳でもないのにキース王子が満足そうに頷いた。




