バースデーデートの筈が
秋学期が始まったけど、私の授業は一コマだけ。
ただ、アルーシュ王子がまたやらかしてくれたんだ。他の王族もぎりぎり王都ロマノに着いたのだけど、アルーシュ王子は始業式には間に合わなかった。
「もしかしたら、ロマノ大学に行くから、王立学園はパスするつもりなのかしら?」
私は、夏休みを一緒に過ごしたので、少し残念な気持ちだ。
「経営学や経済学、それに外交学なども熱心に授業に参加しておられたから、遅れておられるだけでは? あのジャンク船では、沿岸航行しかできないでしょうから」
そうだと良いな。
「ペイシェンス、アルーシュ王子を苦手だったと思いましたが」
ふふふ、パーシバルの偶に見せる嫉妬、かなり嬉しい。
そんな呑気な話をしていたが、パーシバルは引き続き他の王族のお世話を父親に命じられている。
私は、マーガレット王女の側仕えをしながら、リュミエラ王女や学友達と一緒に勉強会。
他の学生達の宿題と予習を見てあげながら、ロマノ大学入試の勉強をする。
過去問というか、大体出る傾向を纏めた参考書があるんだよね。
それと、ちょこっとだけジェーン王女の側仕えをしているアンジェラの補助というか、質問されたら答える程度のお手伝いをしている。
「私はジェーン様の側仕えなのですが、どちらかと言うとカレン様の方と過ごす時間が多いのです。これで良いのでしょうか?」
活発的なジェーン王女は、学友と乗馬クラブに入っている。アンジェラは、乗馬は苦手なので音楽クラブ。
カレン王女は、リュミエラ王女が部長のコーラスクラブ。アンジェラは、王妃様に頼まれて、コーラスクラブにも入部したんだ。
「それは仕方ないですわ。カレン王女の学友はいない状態ですもの。それに、ジェーン王女の側仕えとして、髪を整えたり、ちゃんと仕事もしていますよ」
それに、ジェーン王女も学友の二人もアンジェラと仲が良いから、問題ないよ。マーガレット王女の最初の学友とは違って、考えも進歩的なんだ。
グリークラブの部長マークスの妹さんと、錬金術クラブのミハエルの妹さんだからね。
女子寮は、王族が多いけど、マーガレット王女を中心に纏まっているから、私は安心して領地に行けるね! そう思っていたのに……。
パーシバルが緊急に話し合いたいと言うから、上級食堂に行く。一瞬、バースデーデートかな? と期待したけど、どうやら色っぽい話ではなさそう。
「ええ、なんですって!」
パーシバルが父親からの手紙を私に見せてくれた。
「全く! バラク王国は事前に話し合うという最低限の外交ルールを守る気がないのです!」
パーシバルも珍しく荒い口調だ。
「このアイーシャ王女とハナ様を中等科一年生として留学させたいと捩じ込まれたのです」
何か受け入れる条件でもあったのかな? 魔石とか? そこら辺の事情は知らないけど、ローレンス王国は横車を押されすぎだよ。
でも、未来の義父になるモラン外務大臣に文句は言えない。
「留学するのは、確かに仕方ないでしょうが……まさか、寮には入られないでしょうね!」
これ、重要! 大使館から通うなら勝手にしてくれたら良い。明明みたいに通うのなら、良いんじゃない?
「それが……」
パーシバルは、言い出し難いみたい。つまり、アルーシュ王子と同じように寮生活をしたいのだ。
「でも、女子寮の特別室は満室ですわ」
ここで、アンジェラを特別室から退かすとか言ったら、暴れそう。今、特別室はマーガレット王女、リュミエラ王女、ジェーン王女、カレン王女、それとエリザベスとアビゲイルとリリーナ、ケイトリンとキャロラインとアンジェラ。
アンジェラは子爵令嬢で、身分的には一番下だ。でも、ジェーン王女の側仕えだから、しなくても良い寮生活をしているのだ。
まぁ、私は貧乏なグレンジャー家だったから、馬車もないし通えないから寮生活しかなかった。だから、普通の部屋でも十分だけど、アンジェラは違うんだよ! 元々、普通の部屋だったなら良いけど、特別室に慣れているアンジェラに気を利かせろとか言わないでね!
パーシバルもアンジェラが豊かなサティスフォード子爵家で大事に育てられたのを知っている。貧乏なグレンジャー家とは違うんだよ。
「そうですね。これは断りましょう!」
ふぅ、それで済むと良いのだけど……。かなり、腹が立ったから、アルーシュ王子と顔を合わせたくない気分。
それなのに、タイミングが悪い。
「おお、ペイシェンス! 夏休みに世話になったな」
全く自分が迷惑を掛けているのを気にしていない態度で、上級食堂で話している私とパーシバルの席にやってくる。
「アルーシュ様、こんな事は困ります!」
外務大臣の父親より友人同士の方が言いやすいのか、パーシバルが強く抗議する。
「ああ、私もアイーシャの我儘には困っているのだ。寮は諦めるように言い聞かせる」
ふうん、それなら良いんじゃない? 私とは学年も違うし……なんて、呑気な事を考えていたら、突然、とんでもない提案をされた。
「ペイシェンスには、夏休みに領地で世話になったから、お礼にパーシバルと共に大使館でもてなしたい。その時に、アイーシャとハナを紹介しよう」
うっ、それは断り難い。フィリップス様の招待状は、ナシウスが行くことで、私は欠席したけど……。
「パーシー様?」こんな時は、私より貴族の常識があるパーシバルの決断に頼る。
「それは、ありがたくお受けします」
外務省に勤める予定のパーシバルは、こんな時、自国の有利になるように判断する。南の大陸で勢力を拡大しているバラク王国との繋がりを強化したいのだろう。
わたし的には、パーシバルとバースデーデートをしたい気分だけどさ。
「ペイシェンス。弟君や魔法クラブ、騎士クラブの女学生も一緒に招待したい。あっ、サミュエル君もクラリッサさんもね!」
アルーシュ王子、抜け目ないな。私が弟達を招待するなら、出席すると読んでいる。
だって、弟達に異文化を体験させられるチャンスなんだもの。
「それにしても何故、女学生達も招待されるのですか?」
「一緒に訓練した仲間だし、アイーシャは魔法使いコース、そしてハナは騎士コースを選択するから、先輩と顔合わせさせたい」
ふうん、本気で留学する気なんだ。少し、アイーシャ王女とハナに興味が出た。




