アンテナショップとプレタポルテ
今年は、カレンダーの都合で、王立学園の秋学期が始まるのが少し遅いから、まだ夏休みが一週間ある。
午前中は、弟達は勉強をしているから、私も一緒にカルディナ帝国語を勉強する。辞書を片手に明明に借りた物語を読むんだ。
ただ、午後からはナシウスは歴史研究クラブメンバーのお屋敷に招待されている日がある。
その時は、ヘンリーと遊ぶのだけど、かなりの確率で馬の王に乗る事になるんだよね。
パーシバルは、朝一に馬の王の運動をさせに来てくれる。
そして、朝食を取りながら、今日の予定を二人で話す。
「パーシー様は、第一騎士団との訓練でお疲れではないのですか?」
あちらは、身体もがっしりとした大人ばかりだから、心配だ。
「それが……私とサリエス卿は、空を飛ぶ見本になる事が多くて……」
ああ、そうなんだ! サリエス卿も少しは飛べるようになったけど、パーシバルの方が安定して飛べる。
「偶には、私とデートして下さいね」
それとパーシバルに話しておかなきゃいけない事があるんだ。
「王都に領地で作った物を販売する店を作ろうと考えているのです」
それは、パーシバルも喜んでくれた。
「味噌や醤油もですが、各種のソースは評判が高いですからね!」
今は、グレンジャー屋敷でソースを売っているけど、人気で困っているんだ。
「ただ、商店を開くのにも人材が必要なのです」
やっと王都の屋敷の使用人が他の貴族の屋敷並になったところだから。
「それこそ、アダムやメーガンに任せたらどうでしょうか? 立ち上げるまででもいいから」
あっ、そうかも? 特にメーガンは、調味料関係の責任者だから、販売するところまでやって欲しい。
「モンテス氏に手紙を書きますわ!」
あちらで、モンテス氏とアダムとメーガンで話し合って決めたら良いと思う。
「売る物は、調味料とソースですか?」
パーシバルは、それだけでも十分に繁盛しそうだと思っているみたい。
「いえ、冷凍で送られるマッドクラブ、グレンジャー海老、ケイレブ海老なども販売したいのです」
今は、領地から送られている冷凍食品は、屋敷や親戚で使っている。サティスフォード子爵ほど、貴族の知り合いはいないんだ。
いや、いるけどお世話になっていたり……冷凍食品を贈り物に使っている状態だからね。
「それは、とても良いアイデアです!」
モラン伯爵家にも時々、冷凍のマッドクラブを贈っているけど、本当はもっと使いたい時もあると思う。
「それと麦芽糖を広めたいので、夏は冷やし飴、冬は生姜湯を店頭販売したいと考えています。勿論、麦芽糖も販売しますわ」
庶民の甘味になる麦芽糖だけど、まだまだ普及していないんだ。砂糖よりは安いけど、庶民は元々食べるだけで精一杯なのかしら?
「ペイシェンスのチョコレートは売らないのですか? 凄く評判になりそうですが」
バーンズ商会で板チョコは販売している。それでもまだエバの作った高級チョコレートの需要は高いんだよね。
「あれは、とても贅沢品ですから。それに、無理を言う貴族も出てきそうで……」
一応、私は子爵だけど、高位の貴族が我儘を言うのが嫌だから、チョコレートはバーンズ商会に任せるつもり。
「そうですね! あれは、凄く人気ですから」
でも、甘味は他の商品も考えている。
「麦芽糖を使ったジャムは販売しますわ。今までのジャムよりは安価になります」
それに、季節にはメロン、スイカ、イチゴも販売したい。イチゴは、距離があるから無理かな? いや、ちゃんと箱に入れたら大丈夫なんじゃない? これは、テストしてからだね。
「雲丹の瓶詰め、魚のコンフィ、干魚、干海老、干鮑なども予定しているのです」
まだ缶詰は作っていないけど、ガラス瓶に詰めて販売したい。
「それは、うちでも買いたいです! 特に雲丹の瓶詰めは、美味しいですからね。魚のコンフィは、エバのレシピですか?」
エバは、王都育ちなので、初めは魚料理が苦手だったけど、今ではエキスパートだからね。まぁ、コンフィは最初から美味しかったけど。今はもっと美味しくなっているんだ。
「いつかは、ハープシャーのワインも販売したいですわ」
パーシバルも頷いている。
「それとは別にドレスメーカーを立ち上げたいのです」
パーシバルは、特産品を販売する店は賛成したけど、ドレスメーカーには首を捻る。
「それは、ペイシェンスがしなくても良いのでは?」
そう言われると、微妙な年頃の女の子のドレス事情から説明しなくてはいけなくなった。
「なるほど! ペイシェンスのドレスはいつも素敵だから、その件は考えていませんでした」
子ども服から、いきなり親が着ているドレスに変わるんだよね。途中の若々しいドレスがないんだ。
「それといつかは、可愛くて安い既製服を販売したいのです。折角、ミシンを作ったのに、服は相変わらず高いのですもの」
ミシンが高価なのもあるけどさ。
「既製服なら、ドレスメーカーとは別の事業では?」
「ええ、今回はマダム・サリバンの店にいるチーフを引き抜いて、デザイナーになって貰いたいのです。今は、私やエリザベス様が、こんなドレスを着たいなと思った絵を元に縫って貰っているのですが、このままではいけないと思って」
型紙とか素人だからね。マリーが頑張ってくれているけど、デザイン通りにならない場合もある。それは、私やエリザベスが型紙を作る知識がないから、無茶なデザインを描く場合があるからだ。
「ペイシェンスの着ているドレスは、どれも素敵ですが……貴女がそう考えるのなら、そうなのでしょう。私は、ドレス関係は無知ですから」
私が騎士関係に無知なように、パーシバルもドレス関係は知らないよね。
「ええ、それとこちらのドレスメーカー関係は、シャーロッテ伯母様にも協力して貰うつもりです。領地の布地の宣伝にもなりますから」
今は友達だけだから、こちらに来てもらって仮縫いなどをするけど、本来なら顧客の屋敷に出向いて行うものだ。
マグノリアがどの程度の腕なのかもわからないから、独立資金を援助するまでは、屋敷でデザイナーとして雇うつもり。
それと、マグノリアが従来通りのオートクチュールを目指しているのか、プレタポルテを作っても良いのか、それを確認しないとね! オートクチュールだけなら、マリーとモリーにプレタポルテを任せても良い。
これは、まだ先になりそうだけどさ。




