マーガレット王女と二人で
王妃様の部屋でパーティの予定がほぼ決まったので、マーガレット王女の部屋に移動する。王妃様は、ベネッセ侯爵夫人と色々と話があるみたい。
「そう言えば、ペイシェンスと部屋で話すのは初めてだわね」
王妃様の部屋は、格式が高い感じの内装だったけど、マーガレット王女の部屋は、ハノンが真ん中に鎮座している。うん、実にマーガレット王女らしい部屋だね。
王女らしい豪華さもあるけど、若々しくて良い感じだ。これもラドリー様が内装を整えたのかな? すごく趣味が良い。
「ペイシェンス! 夏休み、パーシバルとどうなったの?」
王女の部屋に相応しい応接セットもある。そこに座った途端、恋バナの要求だ。
「マーガレット様もパリス王子と夏の離宮で過ごされたのでしょう? 如何でした?」
一瞬、嬉しそうな顔になったが、不満そうに眉を顰める。
「パリス様と夏の離宮に行けたのは嬉しいけど、二人っきりには一瞬たりともなれなかったのよ」
まぁ、そうだろうね。メアリーよりシャーロット女官の方が厳しそうだもん。それに王妃様から厳命されていそう。
「私も似たようなものですわ。侍女が常に目を離しませんもの」
二人で溜息をつく。シャーロット女官がお茶を運んで来てくれたので、ゆっくりと二人っきりで夏休みについて話し合う。
「本当にお母様に厳しくされて、夏休みと言えたのは、最初の二週間だけだったわ」
それは大変だったな。でも、パリス王子と結婚を望むなら仕方ないのかも。王妃教育は必須だからね。
「あっ、ペイシェンス! 音楽クラブの課題は?」
やはり、音楽愛の激しさは、王妃様でも矯正不能みたいだ。
「楽譜は持参していませんが、何曲か作りましたから弾きましょう」
何曲か弾くと、マーガレット王女も満足してくれたので、またお話タイムだ。
「私は、夏休み中は、領地の開発で明け暮れましたわ。長年、領主がいないで放置されていたので、やる事が山積みでしたから」
それは、マーガレット王女も同情してくれた。
「折角の夏休みなのに、大変だったのね。でも、少しはデートもしたのでは?」
これは、白状しないと許して貰えないな。
「パーシバル様の誕生日は九月なのですが、夏休み中に誕生日パーティを開きましたわ。ただ、もっとロマンチックなパーティにしたかったのですが、家族と他のゲスト達とのバーベキューになったのです」
マーガレット王女がくすくす笑う。
「それは、ロマンチックではないわね。やはり、監視が厳しくて困るわ」
それは、恋の都出身のパリス王子を警戒しているからでは?
「それで、リュミエラ様はどうなさっていたのですか?」
マーガレット王女は肩を竦める。
「彼女も監視がついていたから、不満だったでしょうね。でも、社交界デビューの日にお兄様との婚約を発表されるから、ずっとパーティは一緒なのよ。私はどうなるのか、まだわからないの」
王妃様は、コルドバ王国、ソニア王国、そしてデーン王国の大使館で開かれるパーティには、マーガレット王女と共に出席される。
他のパーティの後見人は、ベネッセ侯爵夫人だ。
「多分ですが、パリス王子と一緒に招待されると思いますわ」
だって、ほぼ婚約が決まっているからね。まだ、正式に決まっていないのは、色々と条件を交渉中だからだ。
「そうだと良いのだけど……公爵家のパーティ、ペイシェンスもなるべく出席してね。まぁ、ラフォーレ公爵家のは欠席しても良いわ」
ふぅ、八軒ある公爵家のパーティ、バーンズ公爵家は行く予定だけど、他のはパスしたいな。
「ブロッサム公爵家のパーティは、若い方も大勢招待しての舞踏会だと聞いたわ。ラフォーレ公爵家、バーンズ公爵家、いずれも若い子息がいるから、華やかな舞踏会になりそうね」
つまり、他の五軒は落ち着いたお食事会がメインみたい。マーガレット王女じゃなくても退屈で嫌だろうね。
でも、公爵家は、元王族だから、社交界デビューした王女はパスできないみたい。
「月に一度は領地に行きたいので、全てのパーティには同行できませんわ」
きっちりと言っておかないと困るからね。
「それは仕方ないわね。でも、舞踏会はエリザベスやアビゲイルも出席すると思うの。若い紳士方がいっぱい招待されているでしょうから」
マーガレット王女の恋バナ好きの標的が、エリザベスとアビゲイルに移ったので、こちらとして気楽な話を合わせる。
「貴女がパーシバルと婚約したから、社交界の令嬢達は真剣にお相手探しをしているのよ。万が一を夢見ていたのに、崩れ落ちたのですもの」
それは、私のせいじゃない。
「リチャード王子がリュミエラ様と婚約され、キース王子がカレン王女との縁談があるからでは?」
キース王子を狙っていたルイーズを思い出して、ちょっとズキンとした。私があの偽手紙で誘い出されていたら、どうなっていたか? それを考えたら、同情するべき相手ではないのだけど、まだ子どもじゃん! 手駒に使って、使い捨てたモンタギュー司教は許さないけどね。
「まぁ、もしかして……ペイシェンス、そんな甘い事を考えていたら、社交界のクズに利用されるわよ。貴女は、女子爵なのだから! パーシバルがいるから、浮気とかは考えないでしょうけど、罠に掛かるかもしれないのよ」
マーガレット王女の方が、どうしようもない貴族の事情に詳しくて驚く。
「ええ、昔の私は何も知らなかったの。だから、キャサリンやハリエットを学友に選んでしまったのよ。リチャードお兄様に色々とお聞きして勉強したわ。ソニア王国の王宮も大変そうだから」
それは、賢い行動だと思う。王妃様も、貴族至上主義の貴族を嫌っておられるだろうけど、なるべく表に出さないようにしている。
でも、若いリチャード王子は、ちょっと違う立場だからね。若き指導者達を、少しずつ集めている状態なんだ。
無能な貴族至上主義者を排除していくつもりだと思う。ただ、厄介なのは有能な貴族至上主義者もいるって事だね。
カッパーフィールド老侯爵は、うちの父親の因縁の相手だけど、ソニア王国との国境戦争の時は、よく働いてもいたんだよね。
頭が古臭くても、贅沢ばかりしているんじゃない貴族至上主義者もいるから、国王陛下は苦労している。
ただ、新カッパーフィールド侯爵は、世情を見る目があるのか、貴族至上主義者とは袂を分かって、国王陛下の側近になったけどね。
少しずつ、貴族至上主義者の勢力を弱めている途中だ。ソニア王国では、もっと貴族の事情は複雑だろう。
国王派と王妃派と愛妾派? これから、パリス王子は自分の王位を支える貴族を味方につけないといけないのだ。
「パリス王子は、いつまで留学されているのでしょう? カレン様は、もう付添人は必要では無いのでは?」
私の指摘に、マーガレット王女も頷く。
「ええ、でも……あちらの国王陛下は、パリス王子が王宮にいるのが嬉しくないみたいですわ」
それ、大問題だよね! ローレンス王国では、国王陛下がリチャード王子に製塩所の手柄を譲ったり、次代の王になる為の側近を育てさせているのに!
「あちらの親子関係は複雑ですから……」としか言えないけど、マーガレット王女も少しずつソニア王国の闇に気づいてきたみたい。
「私は、パリス様を支える為にも、もっと学ばなくてはいけないのですね!」
マーガレット王女が覚悟を決めたなら、仕方ないよ。私的には、国内の貴族と結婚した方が幸せになられそうだけど。
「世界史を頑張って下さい。ソニア王国の成り立ちとかも出てきますから」
秋学期は、カザリア帝国が滅びて、暗黒の戦国時代だ。ややこしいんだよね。マーガレット王女を励まして、王宮から戻った。




