社交界パーティの予定
夜は、パーシバルとモラン伯爵夫妻と話し合う。
もうグレンジャー家にも馬車は二台あるから、迎えに来て貰う必要はないんだけど、二人で夜のドライブだからね。まぁ、メアリーがいるし、外にはベリンダが馬で護衛しているんだけどさ。
「ペイシェンス! そのドレスは素敵ですね!」
パーシバルは、新作のドレスを着ると褒めてくれるから、嬉しい。
今夜のは、薄いピンクに小さな薔薇を刺繍した生地で作ったドレスだ。
この刺繍は、お針子達が全員で頑張ってくれた。新しいお印に決めた一重の薔薇がモチーフになっている。
「それは、もしかしてペイシェンスのお印ですか?」
パーシバルも気づいたみたい。
「ええ、前のお印はいちごの花でしたが、ハープシャーの紋章で薔薇を使ったので、前のと似ていますが薔薇に変えたのです」
蕾も刺繍してあるから、いちごの花との区別はつくと思うよ。
「夏休みの残りは僅かですが、ペイシェンスは何をして過ごしますか? 私は、サリエス卿に第一騎士団の訓練に参加しないかと誘って頂いたのです」
「あら? 学生会長を辞めたのだから、騎士クラブに入部しなおすと思っていましたわ」
騎士クラブ愛が強いパーシバルだからね。
「いえ、もう新体制になっている騎士クラブにOBがいつまでも顔を出すのも良くないと思います」
それに、第一騎士団の方がパーシバルの為にはなりそうだけど……
「もしかして、サリエス卿が飛行訓練について、ガブリエル騎士団長に報告されたのでしょうか?」
パーシバルも苦笑している。やはり、皆、飛びたいんだね! 王宮魔法使い達が飛行訓練をしているのを見たのかも?
「それと、ゲイツ様からあの盾の練習を第一騎士団でしても良いと許可を頂きました」
パーシバルは、元々は盾を使う戦闘スタイルではなかったから、練習が必要なんだね。
「私は、修業三昧になりそうですが、ペイシェンスが用事がある時はご一緒しますよ」
私は、残りの夏休みは親戚に挨拶回りしたり、弟達と過ごす予定だ。あっ、それと宝石店にラシーヌと一緒に行く予定もある。
これは、パーシバルには内緒! だって、気を使って買うとか言いそうなんだもん。
「ああ、それとグリーン様からサリエス卿屋敷の改築が終わったから、私達の屋敷の改築に掛かりたいと手紙が届いていました」
わぁ、それは嬉しい! ただ、あの屋敷はモラン伯爵家が購入して、改装費もあちら持ちなんだ。
「ラドリー様に頼まなくて良いのですか?」
パーシバルは、ハープシャー館、グレンジャー館、それぞれ素晴らしくラドリー様が改修したのを見ているからね。
「領地の館は、急いで住めるようにしなくてはいけなかったのですが、新居は四年後までに……」
二人で結婚する時を思って見つめ合う。頬があからんじゃうよ。
「ペイシェンスがそれで良いのなら、私は異論はありません。改修を依頼する前に、必要な部屋を話し合いましょう」
それは、重要だね! 騎士の部屋も必要になるし、モンテス氏やアダムやメーガンが王都に来た時の部屋も必要だと思う。
「上級使用人の部屋と結婚している使用人の部屋が必要ですわ」
パーシバルもそれは心得ている。
「あと、ペイシェンスは錬金術部屋と温室が必要ですね!」
「ええ、勿論!」
そんな話をしている間に、モラン伯爵屋敷についた。
少し早目に訪問したから、応接室で先にパーティの予定を相談する。
モラン伯爵夫人は、パーティの予定表を作っていた。
「こんなに多くのパーティがあるのですね!」
パーシバルも驚いている。私は、目が白黒しちゃった。
「ふふふ、この全てに出る訳ではありませんよ」
うん? 招待状もまだなのに、何故パーティの予定をモラン伯爵夫人は知っているのかな?
「ここに書いているパーティは、上級貴族が開く物だけですよ。他にも多くのパーティが開かれます。全てのパーティから招待状が来るわけではありませんし、招待状が来たからといって出席するとは限りません」
ホッとした。パーシバルと一緒なのは嬉しいけど、こんなにパーティばかり行っていられないよ。
「先ずは、九月の最後の土曜日の王宮のパーティ。これで、国王夫妻に挨拶をして社交界デビューになるのです」
これは、伯母様達からも聞いているから、頷いておく。
「ここから、絶対に断れないパーティを先に伝えておきますね」
やはり、外務大臣をしているから、各国の大使館のパーティから招待状がくるみたい。
「パーシバルとペイシェンス様は、全ての大使館のパーティに出る必要は無いわ。でも、コルドバ王国、ソニア王国は、出席しなくてはね」
デーン王国を外してくれたのはありがたい。今年はまだオーディン王子が社交界デビューしないからね。
「バラク王国がどうするかは、私も把握できていないのだ」
モラン伯爵がアルーシュ王子も事後報告で、王立学園に入学したのでお手上げみたい。こちらの常識が通用しない相手とは、付き合うのが大変みたい。
「招待状が来てから、考えたら良い。それに、他のパーティと同じ日なら断っても良いだろう」
やはり、事後報告の件を苦々しく思っているみたい。屋敷を訪問するにも、手紙を書いたりしてアポイント取るのが、こちらのマナーだからね。
「でも、私もペイシェンスもアルーシュ王子やザッシュとは、かなり親密になったのです。小規模なパーティなら出席しても良いと思っています」
親のモラン伯爵の付き合いとは別に、私たちの付き合いもあるからね。それに、アルーシュ王子は、見た目の派手さよりちゃんと国の事を考えている人だとわかってきた。
「ペイシェンス様の関係では、サリエス卿とユージーヌ卿の婚約パーティは出席ですわよね。私も実家のモンテラシード家でするので、出席ですわ」
結婚式は花嫁の屋敷なのに、婚約パーティは花婿側なの? 疑問が顔に出ていたみたい。
「婚約パーティはどちらでしても良いのですが、身分の高い家を選ぶ事が多いですわ。貴方達は、まだ若いから来年に婚約パーティを開きましょう」
私とパーシバルなら伯爵家のモラン伯爵家で婚約パーティかな? パーシバルと二人で見つめ合う。
「今年は、ケープコット伯爵家は、大きなパーティは開かないみたいね。寄親のカッパーフィールド侯爵家のパーティには出席するでしょうし、他のパーティでも会うかもしれませんわ」
モラン伯爵夫人は、母親の実家と復縁して良かったと微笑む。
「ええ、間を取り持って下さったベネッセ侯爵夫人には感謝しております」
これからは、断らない方が良いパーティの確認だ。
「各公爵家は、社交界シーズンに一度はパーティを開くのが慣例です。普通は、デビュタントなど招待しませんが、今年は、カエサル様やアルバート様が社交界にデビューされるから、若い方も招待されるでしょう」
カエサルは良いけど、アルバートはねぇ。
「ラフォーレ公爵は、ペイシェンスに執着されていたから、できたら欠席したいです」
モラン伯爵が驚く。
「息子のアルバート様ではなく、公爵がか? それは……欠席にしよう!」
独身の公爵だから、横車を押されると拙い。全員が呆れる。
「ラフォーレ公爵は、ペイシェンスの音楽の才能に惚れ込んでおられるのです」
それでも、歳の差がありすぎると、モラン伯爵が怒る。
「まぁ、ラフォーレ公爵は、少女歌劇団に夢中になっておられるから、大丈夫だとは思いますわ。それより、アルバート様とペイシェンス様は同じ音楽クラブなのに欠席で宜しいのでしょうか?」
モラン伯爵夫人は、少女歌劇団のパトロンもしているから、夫よりはラフォーレ公爵に優しい対応だ。
「それと、マーガレット王女が出席されるなら、側仕えのペイシェンス様も出席しないといけないかもしれませんわ」
あっ、それも考えないといけないのね。
後は、パーシバルの友だち関係で、アーサーぐらいだ。
予定表を書いたけど、これはもう決まっているパーティだけだ。
「私も秋の食事会をゲイツ様に約束しています。これは小規模で行いますが、教授会も二回は開きます。あと、ヘンリーの誕生日会も!」
これらは、パーティの予定の隙間に入れていく。
「ところで、ペイシェンスは冬の魔物討伐はどうするの?」
パーシバルに質問された。冬の魔物討伐の間は、パーティも無いんだよね。
「参加しようと思っています」
食べ盛りの弟達に肉を確保したいから。




