ラシーヌ様とシャーロッテ伯母様
美麗様は、グレンジャー屋敷の図書室に凄く感銘を受けたみたい。
「王宮の図書室より立派かもしれません」
図書室の案内は、父親がしてくれた。
「私はまだローレンス語は、習い始めたばかりなのです」
女性でも読みやすい本を何冊か父親がチョイスして貸すことになった。
「ペイシェンス様はカルディナ帝国語を勉強なさっておられるのですね。読みやすい物語をお貸ししましょう」
王 芳 の提案に、私より父親の方が喜んだ。父親は、ロマノ大学でカルディナ語も習ったそうだ。
「おお、それなら歴史本もお貸ししましょう」
それは、読むのが大変そうだけど、本の虫の父親は凄く嬉しそうだ。
意外だけど、父親と王 芳 は、凄く話が合う。
美麗様が屋敷訪問を楽しんでくれて、良かったよ! これからも、時々、ご招待したいな。それに、エバと美麗様の料理人も、ちょくちょく料理を教えあいたいみたいだしね。
次の日は、ラシーヌとドレスメーカーについて話し合う予定なのだけど、生地を作っているシャーロッテ伯母様も一緒に呼ぶ事にした。
それと、まだ少し未熟だけど、家政婦見習いにしたらどうかと言っていたナタリーをラシーヌが連れてきてくれる。
ローザは、私が結婚した後のグレンジャー家の家政婦になって貰う予定だ。そして、領地のハープシャー館には、リラ。ホテルにするグレンジャー館にも家政婦と言うか、女性の責任者が必要なのだ。そう、メイド長!
ナタリーは、濃い茶色の髪、茶色の目の明るい女の人だった。まだ若そうだけど、いくつなのかな?
「ナタリーはまだ若いけど、頭の回転が早いの。だから、メイドでは勿体無いと前から考えていたのよ」
ふぅ、ラシーヌが羨ましい。サティスフォード子爵家は、裕福だし、代々仕える使用人とその子ども達が控えているんだもの。
「ナタリー、グレンジャー館をホテルにしようと考えているのです。家政婦見習いをしてからですが、そこのメイド長をしてくれませんか?」
家政婦とメイド長の違いは、よくわからないけど、ホテルだから家政婦ではないと思う。
「それは、とても面白そうです!」
ナタリーは、サティスフォードの学校で学んだ後、数年だけ王都の屋敷で勤めながら、王都の学校にも通ったそうだ。
これで、家政婦を育成できたら、各屋敷に家政婦がいる状態になる。少し安心だ。
それと、私もラシーヌの真似をしよう! 領地の使用人で賢い子がいたら、王都の学校で学ばせるのだ。スキルアップさせたいな。
ラシーヌは、ナタリーの件があったから、少し早めに来ていたが、シャーロッテ伯母様が来られてからは、ドレスメーカーの話になったよ。
それと、シャーロッテ伯母様は、新しいプリント生地もいっぱい持って来てくれたんだ。
マリーとモリーに、これまで作ったドレスやデザイン画を運んで貰う。
「まぁ、これはとても可愛いわ!」
シャーロッテ伯母様は、この前作った緑色に白の小花柄のドレスを絶賛してくれた。
「若々しくて、素敵だわ。勿論、正式なパーティ向きでは無いけど、気楽な食事会やお茶会なら良いと思うわ。アンジェラにも作ってあげたい」
それと、私の銀ビーズ刺繍は、本当に「素敵!」と褒めてくれたよ。
「ペイシェンス様、私のドレスにも銀ビーズ刺繍をして欲しいですわ」
これは、喜んで引き受ける。
「マリーとモリーも銀ビーズ刺繍の腕をあげましたの」
それを聞いて、シャーロッテ伯母様からも注文が入ったよ。
「今は、私がデザイン画を描いて、マリーとモリーに縫って貰っているのですが、素人ですからこのままではいけない気がします。誰か、若々しいドレスを作るデザイナーがいませんでしょうか?」
ラシーヌが使っているドレスメーカー、凄くセンスが良い。
「私のマダム・サリバンは、センスは良いのですが、子ども服は昔通りのしか作りませんわ……ああ、でも彼女のチーフは若くて独立したがっているから、良いかも? 確か、マグノリアと言ったような?」
お針子よりは上だけど、名前も覚えて貰っていない感じなんだね。
「ラシーヌ様、その方と会ってみたいですわ」
ドレスメーカーでは無いけど、独立したがっていて、センスが良いなら援助しても良い。マリーとモリーの良い手本になりそうだからね。
「ペイシェンス、貴女のデザインは素敵だと思うのだけど?」
シャーロッテ伯母様は、特にバイヤスカットのドレスが気に入ったみたい。
「でも、社交界の流行とかもあるでしょうし……」
前世の記憶頼りのドレスで良いのか悩んでいるんだ。
「そうですわね。でも、マグノリアに任せっきりではなく、貴女の新しい感覚を取り入れたドレスにした方が良いと思うのよ」
ラシーヌも賛成する。
「そうだと思うわ。ペイシェンス様は、お忙しいから、全てのドレスのデザインを考えていたら大変ですもの。でも、アンジェラに作って下さったドレスは、多分、マグノリアには思いつかなかったわ。だから、何点かデザイン画を渡して、それをアレンジして貰うようにしては如何かしら?」
それをマグノリアが是としてくれるなら、それも良いかも。今のレースやフリル満載のドレスは好みじゃないからね。
小柄なペイシェンスには、よく似合うのだけど……やはり、もっと格好良いドレスが好きだ。背が高くなりたいな。
シャーロッテ伯母様と、手書きプリント生地や刺繍生地について話し合った。新しい型も何枚か作っていたので渡したよ。
「まぁ、これは素敵ね。小枝柄なら、年配の方でも着られそうだわ。それに、この細かな点々模様。遠くからは無地に見えて、近くに寄れば細かい柄だなんて、洒落ているわ」
これは、江戸小紋の応用だよ。派手な着物を禁止されたから、一見、無地に見える細かい柄が流行ったんだ。
ちょっと遊びの型にシャーロッテ伯母様が気づいて笑う。
「これ、よくよく見たら、文字になっているのね! とても洒落ているわ」
ラシーヌも型紙を手に持って笑う。
「まぁ、これはよくよく見ると薔薇なのね。小さな丸にしか見えなかったわ」
勿論、普通の薔薇の型紙もあるよ。極小の薔薇、薔薇っぽく見えるだけで、三角を組み合わせているだけなんだよね。
「ペイシェンス! 早速、領地で作らせて送るわ!」
こちらは上手くいったけど、刺繍生地はやはり高価になるみたい。手間が掛かるからね。
ミシンで刺繍ができるのもあったけど、流石に覚えていないんだ。
ラシーヌにマグノリアを紹介して貰えるようになったのは嬉しいな!




