ヌーベルキュイジーヌ!
美麗様を招いての食事会、エバがやってくれたよ! 私は、少しずつしか口にされないから、少量ずつ多くの皿を出した方が良いと言ったけど……これは、前世のヌーベルキュイジーヌだよね。
ローレンス王国の料理は、前菜、スープ、魚料理、口直しのシャーベット、肉料理、デザートが普通のコースだ。
バーンズ公爵家とかでは、肉料理が二つに増えていたけどさ。でも、メイン料理は魚や肉を焼くか煮込んだ物が多く、見ただけでお腹が一杯になるボリュームたっぷりな皿が多い。
でも、エバが作ったコースは、一皿ずつが綺麗な芸術品になっている。これまでの正餐用の料理に比べて、軽く繊細で、印象的な盛りつけ方になっているんだ。
この飾り切りは、美麗様の屋敷の料理人の影響を受けたのかも? でも、飾り付けはエバのセンスだよね。
カルディナ帝国の料理は、飾り切りとかはあるけど、基本的に大皿に盛り付けてあるんだ。
こんな風に一皿ずつ綺麗な盛り付けにはなっていない。これは、エバのオリジナルだよ! 薄く切るのも上手かったし、包丁使いが素晴らしい。
前菜は、二皿! マッドクラブと夏野菜のテリーヌ。それも、小さなテリーヌの周りに、雲丹のソースが点々と半円形に飾られている。
テリーヌの中の夏野菜は、綺麗な形に切ってあり、食べるのが勿体ないぐらいだ。それに、凄く美味しい。
それと、雲丹の瓶詰めを使ったパスタ! カッペリーニのように極細のパスタを雲丹ソースで和えてある。それを薄く切ったトマトの上にちょこんと置いてある。
「まぁ、とても綺麗ですわ」
マッドクラブのテリーヌも雲丹のカッペリーニも、美麗様は気に入ってくれた。
勿論、王 芳 さんも明明もね。
ただ、食欲魔神のナシウスとヘンリーには物足りないかしらと心配したけど、エバは心得ているから、量を少し多めにしてくれていた。
スープは、まだ暑いからビシソワーズ。アイスクリームはちょこっとだけにしてある。あまり冷たくしても良くないだろうからね。
「グレンジャー海老のテルミドールです」
これまでの小品っぽいのから、少しボリュームアップしているけど、食べやすいように海老は予め切ってある。
それに、とっても美味しくて、私でも完食しちゃうよ。
「これは、カルディナ帝国では見た事がない立派な海老ですね」
王 芳 さんが驚いている。
「ええ、領地のグレンジャーの海で取れる特産品なのです」
白ワインとの相性も良さそうな料理だ。ワインは、父親と王 芳 さん、そしてパーシバルが少し飲んでいるだけだ。
美麗様と明明は、私たちと同じくお水で良いそうだ。初めての屋敷だから、遠慮されているのかな? でも、美麗様のお屋敷でもお茶しか飲んでおられなかったから、食事の時はお酒を飲まれないのか、お酒は飲まないのか、よくわからないよ。
もう一皿の魚料理は、マッドクラブを蒸したサラダだ。オランデーズソースが細く掛かっている。
細く切られた野菜とマッドクラブを合わせて食べると美味しいね。
口直しのシャーベットを食べた後は、肉料理だ。
父親の好物の火食い鳥の蒸し物。付け合わせのパプリカの甘さ、そして盛り付けの綺麗さに美麗様の食も進んでいる。
「この火食い鳥は、とても柔らかいですね」
王 芳 さんが質問する。
「これは、調理人が塩麹につけたのでしょう。美麗様の料理人にも教えた筈ですわ」
塩麹は、カルディナ帝国では使わないのかな? それか、王 芳 さんが知らないだけかも? 首を捻っている。
「私は、火食い鳥が好物なので、よく蒸し物もいただきますが、とても美味しいですわ」
美麗様も喜んでくれて、良かったよ。
最後は、やはり見栄えがするゲームパイをエバは焼いた。この型は、ハープシャー館のだ。それに、紋章も決まったから、焼印を押している。
「まぁ、素晴らしいですわ!」
皆も、ワイヤットがワゴンを運び込んだ時に、思わず拍手した。
「ソースは、選んでいただけます。マッドクラブと相性の良いオランデーズソース。あっさりと食べたい方は、醤油と柚子のソース。そして、夏らしいトマトソースです」
私は、これまででお腹がかなり一杯になっていたから、ポン酢かな?
美麗様は、オランデーズソースで、少しだけとワイヤットに頼んだ。
ゲームパイって切るのが難しいけど、ワイヤットはスマートに切り分ける。
火食い鳥の白い肉、そしてマッドクラブの赤い身が市松模様になっている。
美麗様、私、明明は、少しだけ。そして、父親と王 芳 さんは、普通サイズ。パーシバルと弟達は、美味しいのを知っているから、少し大きい。
「これは、見た目も素晴らしいですが、味も最高です」
王 芳 さんが、この料理を取り入れるのは決定だね。
デザートも小さ目のを色々とチョイスできるようにしてあるけど、ミニメロンパフェもある。
「美麗様、このミニメロンパフェは、とても美味しいのですよ」
お勧めしたら、美麗様も他の人も全員がミニメロンパフェを選んだ。
今回のパフェは、いつもよりも小さい。ゲイツ様が怒りそうだけど、このくらいなら、他のデザートも食べられるからね。
メロンケーキは、ホールだけど、他のは一口大にしてある。小さなフルーツタルト、プチシュー、マカロン!
メロンパフェ、美麗様も初めて食べたみたい。
「こんなのは、食べた事はありませんわ。とても美味しいです」
他の人は、ミニメロンパフェを食べた後も、メロンケーキを小さく切って貰ったりして食べている。
私と美麗様は、少し悩み中。
美麗様の屋敷で、本格的なジャスミン茶を頂いたので、それを参考にして、薔薇の花びらを乾燥させて燻してみたんだ。
薔薇の微かな香りが優雅な気分になるね。
「メロンケーキをほんの少し」
ちょこっと時間をおけば、食べれる。
「美麗様、これは一口召し上がった方が良いです」
王 芳 さんは、メロンケーキに夢中だ。
「こちらでは、甘すぎて重たいケーキが多いですが、これは軽くて美味しいです」
明明も勧めている。ああ、ローレンス王国の伝統的な砂糖ザリザリのケーキ、美麗様も苦手なんだね。
少しだけ切り分けて、美麗様が一口食べる。
「まぁ、とても軽くて美味しいですわ!」
ふふふ、これもエバがじっくりと料理人に教えなきゃいけないかもね。




