美麗様をお招きするよ!
家政婦見習いのローザ、悲しそうな灰色の目をしたしっかり者だった。
ミッチャム夫人にだけ、婚約者が他の令嬢と結婚したと伝えておいた。
まだ傷心中なのかもしれないけど、領地を離れて、王都で新しい生活をしようと頑張っている。
美麗様をお招きするから、私的にはローレンス王国風にしたいな。
だって、カルディナ帝国風は、少し恥ずかしいじゃん。あちらは、本物を知っているんだもん。
まだ、薔薇も咲いているから、それを屋敷のあちこちに飾らせる。
出席者は、美麗様、王 芳 さん、明明。こちらはパーシバル以外は家族だけにするつもり。
王 芳 さんは、美麗様を凄く大切にお守りしている感じだから、色々な人を招待すると気にしそうなんだもん。
メニューは、エバを部屋に呼んで相談する。
「カルディナ帝国では、お客様が食べきれない程の料理を出すのがマナーかもしれないけど、こちら風に接待しようと思うの。ただ、一品ずつは少なくして、品数を増やした方が良いのかもしれないわ」
ケチで言っているんじゃないよ。ローレンス王国では、普通はお代わりもしないんだ。ゲイツ様や食べ盛りの弟達は別だけどね。
それと、美麗様は少しずつしか食べておられなかったから。
「ロマノは内陸ですから、美麗様も魚介類を食べる機会が少ないと思います」
エバの意見に従うよ。それに、領地からグレンジャー海老やマッドクラブや雲丹の瓶詰めを持ってきている。
「あのう、お嬢様……カルディナ帝国では、お箸で食事をされますが、どうしたら良いのでしょう」
明明は、カフェで綺麗な仕草でナイフとフォークを使っている。
「美麗様も王 芳 様も明明様もナイフとフォークは使われると思うわ。ただ、食べやすいようにした方が良いかも。それと、銀の箸を用意しておきましょう」
テーブルセッティングは、ミッチャム夫人とワイヤットに任せる。花とか飾るのは、ミッチャム夫人。カトラリーとかワイングラスは、ワイヤット。
私や弟達は、ワインは飲まないけど、父親とパーシバル、そして美麗様と王 芳 さんは飲むんじゃないかな? 明明は、飲む年ではないと思うけど、グラスは用意しておこう。
貧乏なグレンジャー家には、ワインセラーなんか無かったけど、ゲイツ様やラドリー様がせっせと運んで来てくれるから、そこそこ並んでいる。
ここに、ハープシャーのワインがいつかは並ぶんだろうな。楽しみだ!
朝から、美麗様の屋敷の調理人は来たみたい。私は、残り少ない夏休みをナシウスとヘンリーと過ごす。
温室のメロンを全て取って、生活魔法で耕す。
「ナシウス、凄く上手く生活魔法が使えるようになったわね」
考えたら、ナシウスは子爵になるのに、温室を耕やす必要はないのかも? でも、ただ魔法の練習をするより、成果がわかりやすくて良いと思うんだ。
「夏休みに魔法合宿に参加したからかもしれません」
勉強も魔法も剣術訓練も、全部頑張っていたよね。
ナシウスを褒めていると、ヘンリーがしょんぼりしている。
「もう少し頑張ったら、空を飛べたかも?」
ヘンリーは、まだ空飛ぶスケボーがないと飛べないんだ。
「ヘンリー、もうボードが無くても飛べると思うわ。あれに頼らなくても良いのよ」
運動神経が良すぎるから、空飛ぶスケボーを自由自在に扱っているけど、ヘンリーほど空中を猛スピードで移動できる人はいない。
最初の飛び上がりは、浮かぶスケボーと蹴る力だけど、その後は、ヘンリーの生活魔法で飛んでいるんだと思うんだ。
「今度、また領地で練習しましょう」
王都の屋敷で、空飛ぶ練習は人目がありすぎるからね。
「はい!」とヘンリーは良い返事だ。
メロンの後は、何を植えようかな? 少しの間は、土を休ませておくよ。
「いちごが良いです!」
ヘンリーは、いちご推しだ。ナシウスは「上級薬草が良いです」と言う。
「でも、上級薬草は浄水をやらないと……」
あっ、ナシウスの意図がわかったよ。お姉ちゃんなのに、気が利かないな。
「ヘンリー、上級薬草を育てる浄水を毎日やってくれるかしら?」
ヘンリーは、張り切って「上級薬草を育てます!」と宣言してくれた。
もうすぐ九歳だけど、ヘンリーは他の子よりも生活魔法の使い方が上手いと思う。そして、上級薬草を育てることで、より上達するんじゃないかな? ナシウス、本当に気がつく良い子だよ。
午前中は、弟達と過ごしたけど、綺麗なドレスに着替える。ファッションは、季節を早取りするのが良いっていうけど、まだ暑い。
とはいえ、前世の夏ほどではないし、朝晩は涼しい風が気持ち良い季節だ。
だから、半袖ではなく、薄い生地の長袖。
この生地は、シャーロッテ伯母様に型染めをお願いして作って貰ったんだ。
細かい花柄の型紙を生地にあてて糊を付け、染めた後で水洗いしたら、糊がついていたところだけ白く残る。
綺麗なグリーンに白い小花が散っていて、なかなか可愛いドレスができたんだよ。
「これなら、柄物を織るより安価にできるわ!」
水玉模様の生地は、エリザベス。違う小花模様の生地は、アビゲイルが早速注文したんだ。
友禅染のように手書きだと、もっと大胆な柄もできそう。まぁ、先ずは型染めからだよね。
約束の時間に、美麗様が来られた。私とパーシバルとで出迎える。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
今日も美麗様は、黒の絹のドレスだけど、いつもよりは刺繍の色が多くて、華やかに見える。
「ペイシェンス様、ご招待ありがとうございます」
王 芳 さんと明明も一緒に応接室に案内する。
そこで、父親を紹介して、少し歓談するのだけど、美麗様の美しさに唖然としているんだよね。
だから、パーシバルが話を振って、なんとか和やかな雰囲気にしてくれた。
「グレンジャー子爵様は、ロマノ大学の学長様なのですか!」
王 芳 さんが、大袈裟に驚いているけど、きっと領事館とかで調べていると思うんだよね。
王 芳 も話を父親に振っているのかも。
父親は、あまり社交的とは思えないから、パーシバルと一緒に気を使っているのかも?
明明も王立学園で基礎を勉強したら、ロマノ大学に進学したいと言う。
「今年は無理なのかしら?」
友だちになったから、一緒に進学したいな。
「まだ不十分だと思います」
明明は真面目だね。アルーシュ王子は、さっさとロマノ大学に行きたいって態度だけど。
ワイヤットが「お食事の用意が整いました」と告げるので食堂に移動する。




