カルディナ街でばったり
今日は、パーシバルとカルディナ街デート! 勿論、弟達も一緒だけどね。
「エバも一緒に行きましょう!」
私と弟達が外出したら、屋敷には父親だけだから、エバも誘う。だって、カルディナ帝国の料理を色々と食べて、味を覚えて欲しいからね。
パーシバルは、少し早めに来て、馬の王を運動させてくれた。
「サンダーさんとジニーがこのまま馬の王の面倒をみたいと言っているのですが……」
パーシバルは、クスッと笑う。
「それは、サンダーは馬の王に惚れ込んでいますから、離れないでしょう。ジニーも同じだと思いますよ」
「パーシー様、それで良いのか、私は悩んでいますのに!」
少し怒ると、パーシバルが謝ってくれた。
「ペイシェンスは、馬の王がどれほど貴重なスレイプニルなのか、あまり認識されていないのですね。父から、デーン王国のフィーバー振りを聞いて、私も流石にやりすぎだとは思いましたけど」
パーシバルは、王都に戻って外務大臣のモラン伯爵から、デーン王国の騒ぎを聞いたのだ。
デーン王国には、馬の王の子を宿したスレイプニルが何頭かいる。マチウス陛下の愛馬である美しき雪号もだ。
その美しき雪号を、マチウス陛下はなんと王宮の大広間で寝させているそうだ。
「ええっと、それは美しき雪号にとっても居心地が悪そうに思うのですけど? キルスティナ王妃様は、何も言われないのかしら?」
私だったら、いくら馬の王が好きだって屋敷の中で寝させないよ。
それに、馬の王だって落ち着かないと思う。
「さぁ、キルスティナ王妃様は諦めておられるのでは? オーディン王子が、そろそろロマノに来られるから聞いてみようと思っています」
それ、ジョークだよね? パーシバルの顔を見るけど、本気なのか、冗談なのかわからなかった。ポーカーフェイスなんだから。
「さぁ、カルディナ街に行きましょう!」
そう、今日の目的は、そっちだからね。サンダーの件は、後で王宮に問い合わせよう。
ナシウスとヘンリー、そしてパーシバルと私が同じ馬車に乗る。近いし、弟達が一緒だから、メアリーはエバと一緒に別の馬車だよ。
護衛のベリンダとジェラルディン卿は、他の護衛と共に馬だ。
「味噌と醤油は作れるようになりましたけど、胡麻油や米はまだ足りません。それと、他の調味料も欲しいのです」
パーシバルと弟達は、カルディナ街への買い出しは慣れている。荷物をいっぱい持つ覚悟もしているみたい。
でも、カルディナ街で意外? いや、考えたら当たり前かもの人に会ったんだ。
「ペイシェンス様!」
「明明様!」
夏休み中は会えなかったから、駆け寄って挨拶をする。
明明は、カルディナ帝国風のドレスを着ていて、とても可愛い。制服の時より幼く見えるね。
「丁度、ペイシェンス様に会いたいと思っていたのです。ご用事が済みましたら、お屋敷で食事をしませんか?」
えっ、美麗様の屋敷で? 前に一度、招待された事があるけど、本当に食べきれないほどの食事が出たんだよね。
「急に押しかけたりしたら、ご迷惑になるのでは?」
こちらの貴族のマナーでは突然に昼ごはんに押しかけたりしない。ゲイツ様、以外はね!
「いえ、前から美麗様がペイシェンス様と私が仲良くしているから、お呼びしたいと言われていたのです。それに、料理はいつも作ってありますから」
遠慮していると、領事館から明明の叔父の王 芳 が出てきて、察したのか一緒に招待し始める。
「ペイシェンス様、やっと屋敷の庭も整備できましたし、美麗様のご機嫌伺いだと思ってお昼をご一緒して下さい。こちらでの知り合いは少なくて、寂しい暮らしをなさっているのです」
そこまで言われて断るのは悪い。ただ、今回のカルディナ街に来た目的も果たしたい。
「買い物をしに来たので、それが終わってからでも良いでしょうか? それと、弟達や使用人や護衛もいるのですが……」
カルディナ帝国での食事がどういった基準で同じテーブルに着くのかわからないから、質問する。子どもは別だったら、悪いけどパスさせてもらう。
「おお、ペイシェンス様の弟君ですか? それは美麗様も喜ばれるでしょう。そちらの護衛は、失礼ですが騎士の方ですか? 美麗様は皇女様なので、身分のはっきりしない方とは同席できないのです」
つまり騎士のジェラルディン卿と騎士の妻のベリンダは大丈夫みたい。
「私の料理人のエバには新しい料理を食べさせたいと思っているのですが……」
王 芳 さんは、満面の笑顔で頷く。
「良い料理人を育てるのは、とても大切です。これが、ローレンス王国の方に失礼か分かりませんが、カルディナ帝国では貴人達の食卓には食べきれない程の食事が提供され、それのお下がりを使用人達が食べます。それで宜しかったら……」
残り物を食べさせるのは、失礼かな? と王 芳 さんは口を閉じた。
「それで十分です!」
エバが珍しく、他の人がいる前で口を出した。それに、グレンジャー家でも、使用人用のスープとか作っているけど、私達が残した料理を楽しみにしているものね! 特に、スイーツ関係は。
「あのう、作るのを見学させて頂いても宜しいでしょうか?」
エバの真剣な目に、王 芳 さんは笑って許可する。
お昼時に美麗様の屋敷に行く約束をして、エバと別れて買い物をするよ。
「美麗様も寂しい生活をされているのですね」
まだ二十代だし、あの美貌だから、再婚しても良さそうなのにね。
「普通なら、カルディナ帝国でも再婚もありでしょうが……皇太子の執着があるから、身を謹んでおられるのでしょう」
それに、ローレンス王国は、基本的にエステナ教徒ばかりだから、異教の姫君との結婚は難しいかも?
「それより、ペイシェンスが美麗様をお礼の食事会に招待したら良いのでは? 今回は、エバが料理を教わるのですから、美麗様の料理人に教えたら如何でしょう」
「それ! 良いですわね!」
やはり、パーシバルは賢いね! 思わず飛びついてしまったが、メアリーに引き離された。
「お嬢様、あちらに穀物商がありますよ」
メアリーに指摘されて、そちらに向かう。領地の米はまだできていないから、買わないと無いんだよ。パエリアで使い果たしたからね。
それに餅米も探しているんだ。小豆も欲しい!
あっ、パーシバルと弟達が呆れている気がするけど、片言の言葉と筆談で、頑張る!
「米は、長粒種しかないのね」
秋に収穫される短粒種がこちらに届くのは十一月頃みたい。それまでに、領地の米ができたら良いな。リンネル教授は、一旦は王都に戻るけど、学生達は残って米作りを続けるみたい。
ラドリー様が研修施設を作ってくれたから、気兼ねなく滞在してくれる。それと、養殖を続けているベッカム教授の学生達もね!
何人か、農作業や養殖を手伝う下男を雇ったから、任せておける。
「小豆はないかしら? 豆類を見せて!」
店員もローレンス語は片言だし、私も片言だ。秋学期は、もっとカルディナ帝国語を習いたい。でも、教科書は、この程度なんだよね。明明ともっと話す機会を増やさないと上達しないな。
「そう、これが小豆よ!」
ふふふ、胡麻団子の中の餡子を食べた時から、小豆があるのはわかっていたけど、見つからなかったんだ。
店員との片言の会話で、これも古い小豆で、冬に新しい豆が届くそうだ。
「メアリー、この店を覚えておいてね! 新米と新豆を買いに行って欲しいから」
他にもインゲン豆やソラマメの干した物を大量に買ったよ。
「できたら、種が欲しいのよね」
乾燥した豆では、芽が出るかわからない。そんな事を口にしたら、メアリーに笑われた。
「豆は乾燥していても芽は出ますよ。煎ったら出ませんけどね」
おお、農家で育ったメアリーに感謝だよ! ソラ豆のスープ、大好物だったし、薄皮を取るのは面倒だったけど、ソラ豆のペペロンチーノ、美味しいよね。
ただ、ペペロンチーノにするのは、フレッシュな方が良いな。ソラ豆を作ってからのお楽しみだね!
それに、大豆も作るけど、小豆、ソラ豆を領地で作れば、料理の幅が広がるよね。
確か、辛味噌の材料はソラ豆だった筈。まぁ、それはちょっと考えよう。
「ペイシェンス、浮き浮きしていますね」
パーシバルに笑われた。
「お姉様、美味しい料理を作られるのですね!」
ヘンリー、その通りだよ! 小豆があるなら、余計に餅米を手に入れたくなった。
「餅米はないの?」
餅米のカルディナ帝国語がわからないから、メアリーに屋台で売っている胡麻団子を一つ買って来させる。
「ここの部分の材料よ!」
胡麻を出してくるから、それも買うけど、小豆じゃなくて、皮の部分だと店員に教える。
「ああ、それ?」
やっと理解してくれた。カルディナ帝国語では糯米って書くみたい。勿論、メモしたよ。
お酒やみりんや胡麻油も買ったし、薄い鮮やかな絹もちょこっと買いたい。
「そろそろ、美麗様の屋敷に行く時間ですよ」
パーシバルに注意されなきゃ、メアリーとずっと絹の山に埋もれていたね。ちょっとだけ買うつもりだったけど、これは荷馬車で運んでもらわなきゃいけないかも?




