社交界デビューの準備
領地から王都に帰り、魔法合宿、騎士合宿に参加した女学生達、そして秘書のバイトをしたクラリッサを無事に保護者に渡した。それぞれ、凄く感謝してくれた。
留守を守っていたワイヤットがにこやかに銀のトレイの上に山と積まれた手紙を差し出す。
私宛もあるけど、歴史研究クラブ合宿のナシウス宛も多そう。
それぞれが自分宛の手紙を受け取って、応接室でチェックする。
「結局、パーシー様とはゆっくりとデートはできなかったわ」
領地の改革もまだまだだけど、前ほどは焦っていない。領民達が馴染んでいく時間も必要だと悟ったのだ。
週一の学校や市も、少しずつ根付いている。まだハープシャーやグレンジャーの近くの村の領民しか参加していないけど、市の立つ日には辻馬車を出すことを考えているんだ。
これは、モンテス氏も賛成してくれているから、冬になる前に実施したい。
久しぶりのグレンジャー屋敷だけど、ワイヤットが留守中もちゃんと管理してくれている。保存食も、かなり頑張って作ったみたい。
領地でも、トマトの水煮、キャベツの酢漬けなどの保存食を山ほど作った。
それらは、使用人の半分と共に、数日前に王都に運んでいる。
それと、領地で雇った下男と下女も数人、王都で修業させる。来年のグレンジャーホテル開業までに、使用人をレベルアップさせたいからね。
ラドリー様の料理人助手を受け入れる代わりに、基礎ができている料理人見習いを二人譲り受けた。エバに言わせると、なかなか筋が良いみたい。
王都には、騎士が交代で詰める事になった。今回は、ジェラルディン卿だ。サリエス卿とユージーヌ卿との婚約パーティにも招待されているから、丁度良いかもね。
騎士の家はグレンジャー屋敷には無いので、既婚者の使用人の家で代用する。
新居の方には、ちゃんと用意しなくちゃね。
それと、馬の王関係で、少し悩んでいるんだ。今は、王家からサンダーとジニーが派遣されているけど、春にはスレイプニル達が仔馬を産む。
そちらも忙しくなりそうなんだよね。
「私は、もう引退しても良い年です。それに馬の王から離れたくありません」
馬丁頭のサンダーは、馬の王から絶対に離れそうにない。
でも、若い助手のジニーは? 王家の馬丁の方が良いのでは? と私は思ったけど、こちらも断固拒否なんだよね。
これは、国王陛下にお伺いをたてないといけないみたい。
私も、信頼できる二人に馬の王の世話を任せたいけど、王家の馬丁頭の方が地位が高いんじゃないかな? と悩んでいるのだ。それに、お給料は? これは、種付け料で払っても良いのかも? 他の事には使わないでいるけどね。
手紙は、歴史研究クラブのメンバーからもあるけど、エリザベスやアビゲイル、そしてハンナ達からも届いている。ドレスを作って欲しいみたい。
「そうか! 社交界デビューの準備も本格的になったんだね」
なんて、他人事ではなかったよ。
正式な王宮での社交界デビューのドレスは、王妃様から頂いているけど、無知な私でも一着だけでは駄目なのはわかっている。
それと、メアリーにずっと言われているけど、アクセサリーも必要なんだ。母親のダイヤ三点セットは、正式なパーティ用。他のは無いに等しいんだもん。
あまり贅沢品にお金を使いたくないけど、最低限のアクセサリーは必要だと思う。
「真珠ができるのは、数年後だろうし……半貴石のアクセサリーでは駄目なのよね」
ふぅ、貴族の令嬢をするのも楽じゃないよ。
パーシバルと婚約しているのだから、社交界で相手を探さなくても良いのだ。
でも、外交官になるパーシバルには、社交も必要なんだよね。つまり、私も必要になるって事。
ただ、未婚の令嬢は、あまり大きな宝石を付けるのも良くないみたい。やったね! 大きな宝石は、本当に高価だから。
これは、雪狼のフルロングコートを未婚の令嬢が着るべきじゃないってのと同じ感覚だね。
それは、未婚の令嬢は、正式な意味で貴族では無いからだ。私の場合は、女子爵だけど、やはり若い子が大きな宝石や高価な毛皮のコートを身につけるのは、良くない感じみたいだね。
メアリーが領地に持って行ったドレスなどを整理しているから、応接室にいるのだ。急がなきゃいけない手紙の返事はなさそうだから、久しぶりにハノンを弾く。
ナシウスは、真面目に歴史研究クラブメンバーからの手紙をよんでいるから、ヘンリーと連弾する。楽しいね!
ナシウスは、読み終えたのか、返事を書いている。私は、返事を書いたとしても、まだエリザベスやアビゲイルなども王都に戻っていないかもしれないから、ヘンリーとの連弾を続けるよ。
「お嬢様、お部屋とお風呂の用意ができました」
メアリーが呼びに来たので、お風呂に入る。やはり馬の王や馬車に乗ったので埃っぽいからね。
部屋着で寛いで、歴史研究クラブのメンバーの礼状に、返事を書く。フィリップス以外は、ほぼ同じ内容だ。
フィリップスは、お礼に屋敷に招待したいと書いてあったから、これはナシウスに相談してからだ。
それと、社交界デビューするから、そちらのスケジュールが決まってからだよね。
モラン伯爵夫人から、ワイヤットが何回もメロンを届けたお礼状が届いているから、それはすぐに返事を書いたよ。
後は、友だちからの手紙だから、それぞれに夏休みの様子を書いたりする。勿論、空を飛ぶ訓練とかは書かないよ。
海水浴だとか、海辺でバーベキューをしたとか、そんな感じ。
王都に帰っているなら、お土産を届けても良いけど、まだ微妙な時期なんだよね。
私も、預かっている女学生達がいなければ、もう少し領地にいただろうから。
リリアナ伯母様は、ぎりぎりまで領地にいそう。でも、他の伯母様達は、王都に戻っているかもね。
特に、シャーロッテ伯母様には、家政婦見習いを紹介して貰う話があったから、二人にご機嫌伺いの手紙を書いた。
何通もの手紙をメアリーに渡したので、キャリーと二人で届けてくれるだろう。
メアリーのいない隙に、パントリーのチェックをする。半地下に下りるのは、錬金術部屋があるから認めているけど、台所とかパントリーは、少し嫌な顔をするからね。
ずらっと並んだトマトの瓶、それにきゅうりのピクルスの瓶、木の箱に入った農作物。何樽ものキャベツの塩漬け。
それに、冷凍庫にはマッドクラブやグレンジャー海老、それと冷凍魚。冷蔵庫にも、食材がいっぱいだ。
やはり、転生した冬に飢えたから、パントリーがいっぱいだとホッとする。
「冬の魔物討伐、どうしようかしら? 肉は欲しいけど、ソースはこれ以上の宣伝はいらないわ」
ソースは、ハープシャーで作る。味噌と醤油の樽の半分は、魔法で熟成させて、ソースを作らせているんだ。
後は、柚子とか梅とかを領地で量産したい。
今は、王都の屋敷の庭でちょこっと栽培しているだけだからね。
梅の実を何個かは、植えて苗を作っている。それに、柚子は種が多いから、かなり苗を増やした。
ある程度は、領地に運んで植えたけど、もっと欲しいな。胡麻は、夏休み中に収穫して、乾燥させたよ。少し、リンネル教授が成長を後押ししてくれたみたい。
来年からは、ちゃんと普通に栽培したい。胡麻から油を絞るほどはないから、今年は風味つけていどだね。
「やはり、カルディナ街に買い物に行きたいわ! パーシー様に手紙を書きましょう」
さっき別れたばかりだけど、カルディナ街デートに誘う手紙を書く。




